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第4話 それぞれの想いと選択(?)

 エレノアさんとリリアとの、あの衝撃的な出会いから季節は少しだけ巡った。


 俺、カイトの日常は、もはや「ドキドキ生活」と呼ぶのが標準になっていた。朝はリリアに叩き起こされ(物理)、昼はギルドや街中でエレノアさんに遭遇してはからかわれ(精神攻撃)、夜は安宿で今日の出来事を反芻しては胃を痛める(自傷行為?)。これが異世界ルーキーのリアルである。……いや、俺だけか、こんな特殊なの!?


 ただ、最近少しだけ、様子が変わってきたような気もするのだ。


 エレノアさんは、相変わらず俺をからかって楽しんでいる節はある。だが時折、ふとした瞬間に、とても穏やかで……少しだけ寂しそうな表情を見せることがある。すぐにいつもの余裕綽々な微笑みに戻ってしまうのだが、その一瞬が妙に心に残る。


 先日も、「カイトさんのように真っ直ぐな方は、見ていて飽きませんわ」なんて、ポツリと呟いていたり……。え、それってどういう意味ですか!?


 一方のリリアは、その……なんだ、積極性がさらに増したというか、独占欲?みたいなものが強くなった気がする。俺が他の女性、特に美人な冒険者なんかと話していると、以前にも増してすごい勢いで割り込んできて、「カイトは私と次の依頼の打ち合わせがあるんだから!」と連れ去っていく。


 その時の顔は、なんだか本気でむくれているように見えることも……。それに、ダンジョンでの連携も、前よりずっと真剣になった。「私がカイトを守る!」なんて、頼もしいんだか危なっかしいんだか……。


 そんな微妙な変化を感じつつも、俺は相変わらず母娘の引力(物理的にも、精神的にも)に振り回される日々を送っていた。


 そんなある日、街は年に一度の『星降り祭』で賑わっていた。

 色とりどりのランタンが街を飾り、露店が立ち並び、人々は陽気な音楽に合わせて踊っている。俺もリリアに強引に引っ張り出され、人混みの中を歩いていた。


「わーい! カイト、あれ食べたい! りんご飴!」

「お前、さっきから食ってばっかりだろ……」

「いいの! お祭りなんだから!」


 子供のようにはしゃぐリリア。その笑顔は眩しくて……うん、まあ、可愛い。普段のガサツさ(失礼)も、こういう時は元気の良さに見えるから不思議だ。


 と、その時。

「あらあら、二人とも楽しそうですわね」

 人混みの中から、ひときわ優雅なオーラを放ってエレノアさんが現れた。今日はいつもの魔女っぽいローブではなく、星空を思わせる美しい紫色のドレス姿だ。……反則級に美しい。周囲の男たちが(俺も含めて)釘付けになっている。


「母さん! 見て見て、カイトにりんご飴買ってもらった!」

「まあ、よかったわね、リリア。……カイトさん、もしよろしければ、この後、わたくしと少しお話でもいかがかしら? 静かな場所で、綺麗な星を見ながら……」

 エレノアさんが、俺にだけ聞こえるような声で誘ってくる。その瞳は、いつものからかう色とは違う、真剣な何かを宿しているように見えた。ドキッとする。


「えっ!? だめだよ母さん! カイトはこの後、私と『恋人たちのダンス』を踊るんだから!」


 俺が返事をする前に、リリアが割って入った。

「は!? なんだよそれ! 初耳だぞ!」

「いいから! お祭りなんだから、そういうのもアリなの!」

 俺の腕を掴んで、強引に広場の中央へと引っ張っていくリリア。


「うふふ、元気な子。……でもカイトさん、ダンスの後なら、時間はありますわよね?」

 エレノアさんが、逃がさないとばかりに微笑む。


 右からはリリアの強引な手。

 左からはエレノアさんの魅惑的な(しかし断れない)誘い。


(……これ、なんていう板挟み?)


 ギルドの仲間たちが、遠くからニヤニヤしながらこっちを見ているのが視界の端に入った。「おいカイト、お前マジでどうなってんだ?」「あの美人母娘に両手に花……羨ましい通り越して同情するぜ……」なんて声が聞こえてきそうだ。うるさい! こっちは必死なんだよ!


 俺は、どちらの誘いにどう応えるべきか、必死に頭を回転させる。

 エレノアさんの真剣そうな表情も気になる。でも、リリアの期待に満ちた(そして有無を言わさぬ)瞳も無視できない。


 というか、俺はそもそも、どっちとどうなりたいんだ……?

 エレノアさんの大人の魅力にも惹かれるし、リリアの真っ直ぐな好意も……嬉しい、のかもしれない。


(……ヤバい、俺、どっちも……!?)


 自分の気持ちの向かう先すら分からなくなって、完全にパニックだ!


「さあ、カイトさん?」「ほら、カイト、行くよ!」


 母と娘、二人の美しい女性からの、同時のお誘い(あるいは要求)。

 広場の喧騒と、祭りの音楽がやけに遠くに聞こえる。

 俺は、完全にフリーズしていた。


 さあ、どうする、俺!?

 選べるのか、この究極(?)の二択を!?

 というか、そもそも選択肢なんて、俺にあるのか……!?


 俺の異世界での受難は、新たなステージへと突入しようとしていた。

 胃痛と心労は、もはやデフォルトである。


(神様……もうちょっと、手心ってもんを……)


 答えは、ない。

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