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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第38話 持ち寄られた情報と、影への扉

 ヘトヘトになりながらエレノアさんの店に戻ると、彼女は温かいハーブティーと、軽食を用意して待っていてくれた。その落ち着き払った様子からは、彼女の監視任務も特に成果がなかったことが窺える。……まあ、そう簡単に事が運ぶわけないよな。


「おかえりなさい、二人とも。大変でしたわね」

 労いの言葉と共に、エレノアさんは俺たちの前にカップを置く。温かいお茶が、冷えて疲れた体に染み渡る……。


「母さんの方は、どうだった?」

 リリアが、早速尋ねる。

「ええ、博物館の宝物庫周辺は、終日、魔力の流れにも人の気配にも、特に異常は見られませんでしたわ。サイラスが狙ったのは、やはり博物館ではなかった……あるいは、まだ動いていない、ということでしょう」

 エレノアさんは、静かに報告する。


「俺たちの方は……」

 俺は、ポケットから慎重に例のロックピックを取り出し、テーブルの上に置いた。

「サイラス本人には会えませんでしたが……これを、例の通路の入り口で見つけました」

 そして、リリアと二人で、監視中の出来事、特にあの妙に『綺麗な通路』と、そこでこれを発見した経緯を詳しく説明した。


 エレノアさんは、ロックピックを手に取り、魔法の光をかざしたり、ルーペで観察したりしながら、注意深く調べている。その表情は、真剣そのものだ。

「……この材質……『影鉄鋼』。そして、この『流れ紋』……。間違いありませんわ。これは、わたくしが古い文献で見た、『月影のギルド』の構成員が使う特殊な道具の一つです」

 彼女の言葉に、俺とリリアは息を呑む。やはり、サイラスの物で間違いなさそうだ!


「それにしても……彼ほどの達人が、このような重要な道具を落とすとは……。よほど慌てていたのか、あるいは何か予期せぬ事態が……?」

 エレオノラさんは、首を傾げる。

「あの『綺麗な通路』……最近、頻繁に使われている形跡があった。もしかしたら、そこが彼らのアジト、あるいは少なくとも中継地点になっているのかもしれませんわね」


「じゃあ、その通路を調べれば、サイラスにたどり着けるかも!」

 リリアが、再び目を輝かせる。一度は諦めかけたターゲットへの道筋が見えて、興奮しているのだろう。


「……でも、危険じゃないですか? もしアジトだったら、罠だらけかもしれないし、他のメンバーがいるかもしれない……」

 俺は、当然の懸念を口にする。諦めの境地とはいえ、無謀な突撃は避けたい!


「ええ、カイトさんの言う通りですわ」

 エレオノラさんは、俺の意見を肯定した。

「このロックピックの様式……そして『影鉄鋼』という材質。これらを使う者は、特殊な罠や、幻術、隠密系の魔法にも長けていることが多い。不用意に足を踏み入れれば、確実に返り討ちに遭うでしょう」

 彼女は、ロックピックをテーブルに置いた。

「ですが、この通路がサイラス……ひいては『月影のギルド』に繋がる、現在最も有力な手掛かりであることも確かです」


「じゃあ、どうするの……?」

 リリアが、不安と期待の入り混じった顔で尋ねる。


「……調査します。ですが、万全の準備を整えてから」

 エレオノラさんは、きっぱりと言った。

「まずは、このロックピックから、可能な限り情報を引き出します。材質、製法、刻まれた紋様……。それらから、彼らが使う可能性のある罠の種類や、ギルドの規模などを推測できるかもしれません」

 彼女は、工房の方をちらりと見る。

「わたくしの方で、数日かけて解析してみましょう」


「その間、俺たちは……?」

「あなたたちには、しっかりと休息を取って、英気を養っておいてほしいのです。次にあの通路へ向かう時は……おそらく、ただの監視では済まないでしょうから」

 エレオノラさんの言葉には、重みがあった。次にあの場所へ行くときは、相応の覚悟が必要になる、ということだろう。


「わ、わかった……」

「うん……」

 俺とリリアは、頷くしかなかった。


 こうして、俺たちの次の行動は、「エレノアさんによるロックピックの解析と情報収集」、そして「俺とリリアは休息と準備」に決まった。

 すぐに危険な場所へ突入するわけではない、ということに安堵しつつも、数日後に待っているであろう、更なる危険な探索を思うと、やはり気は重い。


「さ、今日はもうお開きにしましょう。二人とも、本当にお疲れ様でした。夕食は、わたくしが腕によりをかけて作りますから、ゆっくりしていってくださいな」

 エレオノラさんは、いつもの穏やかな笑顔に戻って、俺たちを労ってくれる。


(……なんか、こうやってると、普通の……いや、普通じゃないけど……日常みたいだな)


 危険な裏組織を追っている、という事実を忘れさせるような、束の間の平穏。

 俺は、エレオノラさんの淹れてくれたハーブティーを飲みながら、この平穏が少しでも長く続くことを、心の底から願うのだった。……まあ、無理だろうけど。

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