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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第36話 待ちぼうけと、落とし物の持ち主は

 旧水道遺跡の中央貯水槽跡。そこで俺とリリアの、長く、そしてひたすらに単調な監視任務が続いていた。

 交代で見張りをし、残りは壁際で休息を取る。……のだが、こんな薄暗くて湿っぽい場所で、心から休めるはずもない。


 松明の炎がパチパチと爆ぜる音と、どこからか聞こえる水の滴る音だけが、耳につく。時折、遠くで何かの物音が聞こえるたびに、俺の心臓は飛び跳ね、リリアと共に息を殺して身構えるが……大抵はネズミか、崩れた壁土の音だった。


「……暇だー……」

 数時間が経過した頃、見張りを俺と交代したリリアが、ついに痺れを切らしてぼやき始めた。彼女は、地面に落ちていた小石を拾っては、壁に向かって投げ始める。コツン、コツン……という音が、やけに響く。

「こら、リリア。静かにしてろって。それに、そんなことしてたら、いざという時に反応が遅れるぞ」

 俺が小声で注意すると、リリアは頬を膨らませた。

「だって、ずーっと待ってるだけで、何も起こらないんだもん! 母さんの方は、何か見つけてるのかなぁ……」

「さあな……。でも、俺たちがここでしっかり見張ってることも、作戦のうちなんだから」

 俺は、自分に言い聞かせるように言う。……正直、俺だって退屈と不安で気が滅入りそうだ。サイラスは本当に現れるのだろうか? それとも、これは全くの無駄骨……?


(……それにしても、腹減ったな……。非常食の干し肉、もう飽きた……)

 緊張感の合間に、そんな俗なことを考えてしまう。エレノアさんの淹れてくれるお茶と、手作りのお菓子が恋しい……。


「……ん?」

 その時、壁にもたれてぼーっとしていたリリアが、何かを見つけたように身を起こした。

「どうした?」

「いや……あそこの通路……前にカイトが見つけた、妙に綺麗な通路あったでしょ?」

 リリアが指差すのは、先ほど俺たちが印をつけておいた、最近誰かが通った形跡のある通路だ。

「あそこの入り口のところに、なんか……光ってるような……?」


「光ってる?」

 俺は、警戒しながらリリアと共にその通路の入り口へと近づく。松明の明かりを向けると……確かに、床の隅に、何かが落ちていた。金属製の、細長い……。


 拾い上げてみると、それは一本の細い金属製の道具だった。長さは指くらい。先端は複雑な形状をしており、素人目にも、ただの針金ではないことが分かる。

「……なんだこれ? 鍵……じゃないよな?」

「もしかして……これ、『ロックピック』ってやつじゃない?」

 リリアが、冒険者ギルドの盗賊系クラスの連中が持っているのを見たことがある、と言いながら、それをまじまじと眺める。


「ロックピック……? なんでこんなところに……」

 俺は、そのロックピックを注意深く観察した。黒ずんだ金属で作られているが、手入れは行き届いているようだ。そして、その持ち手の部分に、微かにだが……見覚えのある紋様が刻まれている気がした。

(……この模様……どこかで……? あ!)


 思い出した! あの短剣のスケッチだ! 老鍛冶師が言っていた、『流れ紋』! それとよく似た、独特の曲線模様が、このロックピックにも刻まれている!


「……おい、リリア。これ、もしかしたら……」

 俺が言いかけると、リリアもハッとした顔で俺を見た。

「……サイラスの……落とし物……?」


 俺たちは、顔を見合わせる。

 もしこれが本当にサイラスのものだとしたら……彼は、間違いなく、この通路を通ったのだ。それも、比較的最近に。そして、こんな精密な道具を落とすなんて……よほどのことがあったのか? それとも、単なる不注意か?


「……どうする、カイト? この通路、入ってみる?」

 リリアが、ゴクリと唾を飲み込みながら尋ねる。彼女の目には、好奇心と、わずかな恐怖が浮かんでいた。


「……いや、やめておこう」

 俺は、首を横に振った。

「エレノアさんには、『深入りするな』って言われてる。それに、もしこの先に罠があったら、俺たちだけじゃ……」

 何より、相手はプロの暗殺者だ。不用意に縄張りに足を踏み入れるのは、自殺行為に等しい。


「……そっか。そうだよね……」

 リリアも、少し残念そうだったが、納得してくれたようだ。


 俺たちは、見つけたロックピックを、証拠品として慎重に革袋にしまった。

 退屈だった監視任務が、一気に緊迫感を帯びてくる。

 サイラスは、確かにここにいた。そして、この先へと進んでいった……。


(……一体、この奥に何があるんだ……?)


 俺たちは、再び貯水槽跡へと戻り、監視を再開した。だが、先ほどまでの退屈感は消え、張り詰めた緊張感が漂っていた。

 いつ、あの通路からサイラス本人が戻ってくるかもしれない。あるいは、別の通路から……。


 俺は、革袋の中のロックピックの感触を確かめながら、これからどうすべきか、必死に頭を巡らせていた。

 この手掛かりは、俺たちを真相へと導くのか、それとも、更なる危険へと誘うのか……。


 静寂だけが支配する地下遺跡で、俺たちの長い一日は、まだ終わる気配を見せなかった。

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