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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第31話 『サイラス』の影と、次なる探索

『サイラス』――。片目のジャックが口にしたその名が、エレノアさんの店の工房に重く響いていた。月影のギルドに所属し、『回収』や『窃盗』を専門とする、隠密行動と罠解除の達人。あの『星屑の砂時計』を盗んだのは、ほぼ間違いなくこの男だろう。


「サイラス……。そいつを見つけ出せば、砂時計を取り返せるかもしれないんだな!」

 リリアが、少しだけ興奮したように言う。さっきまでの不安はどこへやら、具体的なターゲットが見つかったことで、彼女の中の冒険者魂(あるいは、ただの猪突猛進癖)が再燃し始めたらしい。


「……相手は、その道のプロだぞ、リリア。しかも、暗殺ギルドの一員なんだ。簡単に見つけられるわけないし、見つけたところで、俺たちでどうこうできるか……」

 俺は、リリアの楽観論(?)に冷や水を浴びせるように言う。恐怖心は、まだ俺の胸に強くこびりついている。


「カイトさんの言う通りですわ。サイラスという男、相当な手練れであることは間違いありません。ジャック氏の言葉を信じるなら、痕跡をほとんど残さない……。力ずくでどうにかなる相手ではないでしょう」

 エレオノラさんも、冷静に付け加える。彼女の表情は、依然として険しいままだ。


「じゃあ、どうするんだよ!? このまま、あいつの好きにさせておくわけにもいかないだろ!」

 リリアが、もどかしそうに言う。


「もちろん、このままにはしませんわ」

 エレオノラさんは、きっぱりと言った。

「ですが、行動を起こす前に、もう少しだけ情報が必要です。今度は、漠然としたギルドの情報ではなく、『サイラス』という個人について……」

 彼女は、再びテーブルの上の羊皮紙に視線を落とす。

「彼の外見、最近の足取り、行動パターン、弱点……。どんな些細なことでも構いません。彼に繋がる情報を集めるのです」


「また情報収集……?」

 俺は、げんなりとした声を出す。また、あの裏路地の情報屋に行かされるのだろうか……。


「ええ。ですが、今度は少し役割分担を変えましょう」

 エレオノラさんは、まずリリアに向き直った。

「リリア、あなたにはギルドの記録庫で、過去の窃盗事件や、罠の多い遺跡での遭難・行方不明事件などを調べてもらいたいのです。サイラスの手口に似た、未解決の事件がないか……。何かパターンが見つかるかもしれませんわ」

「えー、記録調べ? 地味……。まあ、いいけどさ。任せといて!」

 リリアは、少し口を尖らせながらも、了承した。派手さはないが、重要な調査だ。


「そして、カイトさん」

 エレオノラさんが、俺を見る。……ゴクリ。


「あなたには、リリアの調査を手伝っていただきたいのです」

「へっ? 俺が……リリアを?」

 予想外の指示に、俺は目を丸くする。


「ええ。リリア一人では、膨大な記録の中から有益な情報を見つけ出すのは骨が折れるでしょう。それに……あなたは、妙なところで勘が働くこともあるようですから」

 エレオノラさんは、意味深に微笑む。……あの『勘』は、エレノラさん由来(?)じゃなかったのか!? それとも、俺自身の潜在能力……? いや、考えるのはよそう。


「わ、わかりました。俺にできることなら……」

 危険な場所へ行かなくて済むなら、それに越したことはない! 俺は、安堵と共に快諾した。


「カイトが手伝ってくれるなら、心強いかも!」

 リリアも、まんざらではない顔をしている。


「では、わたくしは?」

 エレオノラさんが、自分の役割を言う。

「わたくしは、わたくし自身のルートで、サイラスの情報を探ってみます。もしかしたら、少々『危険な橋』を渡ることになるかもしれませんが……」

 その言葉に、俺とリリアは顔を見合わせる。彼女が『危険』と言うからには、相当なことなのだろう。


「だ、大丈夫なんですか、エレノアさん!?」

「母さん、無理しないでよ!」

 俺たちが心配すると、エレオノラさんは「あらあら」と微笑んだ。

「大丈夫ですわ。わたくしを誰だと思って? それに……守るべきものが、できましたからね」

 そう言って、彼女は俺たちに、一瞬だけ、とても優しい目を向けた。……ような気がした。


(……守るべきもの……俺たちのこと、か……?)


 なんだか、胸が少しだけ温かくなる。同時に、エレオノラさんにそんな危険を冒させてしまうことに、申し訳なさも感じる。


 こうして、俺たちの新たな作戦――対サイラス情報収集作戦――が始まった。

 リリアと俺はギルドの記録庫へ。エレオノラさんは、彼女自身の秘密のネットワークへ。


 果たして、俺たちは、神出鬼没の暗殺者『サイラス』の尻尾を掴むことができるのだろうか?

 そして、エレオノラさんが渡ろうとしている『危険な橋』とは……?


 俺は、リリアと一緒に、埃っぽいギルドの記録庫へと向かいながら、込み上げてくる不安と、ほんの少しの使命感(気のせいかもしれない)を感じていた。


(やるしかない……んだよな、やっぱり)


 俺の異世界ライフ、休む暇は本当になさそうだ。

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