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第3話 母娘とのドキドキ生活

 あの衝撃的な夕食から数週間。俺の異世界ライフは、一言で言うなら「落ち着かない」。非常に、落ち着かない。


 理由は明白。あの美人親子、エレノアさんとリリアが、やたらと俺に関わってくるようになったからだ。いや、リリアは前から距離感ゼロだったが、エレノアさん、あなたまで!?


 ◇◆◇ 女神様(物理)の加護? ◇◆◇


 冒険者ギルドで作戦会議(という名の駄弁り)をしていた時のこと。

「あら、カイトさん。こんにちは」

 ふわり、と甘い香りと共に、エレノアさんが現れた。ギルド内が一瞬にして色めき立つ。そりゃそうだ、伝説級の美女魔女様のご登場だ。


「こ、こんにちは、エレノアさん」

「うふふ。これ、差し入れですわ。皆さんでどうぞ」


 差し出されたのは、見た目も美しい焼き菓子……と、もう一つ、俺にだけこっそり手渡された小さな小箱。

「カイトさんには、こちらを。先日のお礼の印……特製の『守護の護符』ですわ」

 中には、綺麗な青い宝石がついたペンダントが。


「おお……! ありがとうございます!」

「ただし、これ、肌に直接触れさせておかないと効果が薄れてしまうの。それと……月に一度、わたくしの魔力で『再充填』が必要ですわ♪」


 ……え? 肌に直接? 再充填?

 エレノアさんは俺の首元に手を伸ばし、慣れた手つきでペンダントをシャツの下に入れてくれた。その指先が、やけにスローモーションで……って、意識しすぎだ、俺!


「これで安心ですわ。ね?」

 女神のような微笑み。だが、その瞳の奥には、確実に俺をからかって楽しんでいる光が見えた。絶対そうだ。



 ◇◆◇ 幼馴染(?)マウント注意報 ◇◆◇


 ある日、俺とリリアは薬草採取の依頼に出ていた。道中、偶然出会った別のパーティーのヒーラーの女の子(ふわふわ系美少女)と薬草の知識について話が弾んでいた、その時だった。


「かーーいーーとーーっ!!」

 背後から地響きのような(比喩ではない)勢いでリリアが突進してきた。


「な、なんだリリア!?」

「なーに他の女とイチャイチャしてんのよー! カイトは私のパートナーでしょ! ほら、行くよ!」


 ガシッ!と俺の首に腕を回し(完全にヘッドロック)、ヒーラーの子に「じゃあね!」と一方的に告げて、俺を引きずっていく。


「い、いや、イチャイチャとかじゃ……!」

「ふーんだ! カイトは私がいないとダメなんだから!」

 むくれるリリア。その横顔は……あれ? なんか、ちょっと本気で怒ってる? いや、まさかな……。



 ◇◆◇ 魔法薬は用法・用量を守って……なかった! ◇◆◇


 リリアに「新しい剣の魔力付与エンチャントを見に来い」と、またしても半ば強引にエレノア魔法具店に連行された日のこと。


 店内では、エレノアさんが何やら複雑そうな魔法薬を調合していた。フラスコやビーカーが並び、色とりどりの液体が怪しげな光を放っている。

「母さーん、来たよー!」

「あらリリア……って、きゃっ!?」


 元気よく駆け寄ったリリアが、作業台にドンッ!とぶつかった。その瞬間、フラスコの一つがグラリと傾き……中のピンク色の液体が、見事に俺の右腕に降りかかった!

「うわっ!?」

「まあ大変! カイトさん、大丈夫!?」

 慌てて駆け寄るエレノアさん。俺の腕にかかった液体を布で拭おうとして……ピタッ。


「「「え?」」」

 俺の右手と、エレノアさんの左手が、まるで強力な磁石のようにくっついて離れなくなった。


「こ、これは……まさか『瞬間接着ポーション(試作品)』!? しかも対象指定ミス……!?」

「えええ!? なにそれ!? 取れないの!?」


 リリアが俺とエレノアさんの手を引っ張るが、びくともしない。

「だ、大丈夫ですわ、カイトさん。一時間ほどで効果は切れますから……」

 笑顔が引きつっているエレノアさん。俺は顔面蒼白。リリアは……なぜかちょっと羨ましそうに、俺たちの手を見ている。


 結局、その日、俺はエレノアさんと手を繋いだ(物理的に)まま、リリアに質問攻めにされながら、気まずい一時間を過ごす羽目になった。心臓、いくつあっても足りん……。



 ◇◆◇ 聖母の治療は刺激的すぎます ◇◆◇


 ダンジョン探索で、ゴブリンの不意打ちを食らって腕に軽い切り傷を負ってしまった。

「あらあら、いけませんわ、カイトさん。すぐ治療しませんと」

 帰還後、報告のために立ち寄ったエレノアさんの店で、目ざとく傷を見つけた彼女が、有無を言わさず俺の腕を取った。

「母さん、私がやるよ!」

「いいえ、リリア。これはわたくしが。……『聖なる光よ、彼の傷を癒したまえ』」

 エレノアさんの手のひらから、温かい光が溢れ出す。傷がジンジンと癒えていくのがわかる……のだが。

「……痛みは、どうかしら? ここは……?」

 エレノアさんの指が、傷口の周りを……いや、明らかに傷口じゃないところまで、ゆっくりと撫でる。吐息がかかるほど顔が近い。

「だ、大丈夫です! もう、ほとんど……!」

「あら、そう? でも念のため……ね?」


 追い打ちをかけるように、反対側からリリアが「私も練習!」とか言って、俺の無事な方の腕に治癒魔法もどきをかけ始めた。

「どうどう? カイト、私の魔力、感じる?」

「……」


 俺は、傷の痛みではなく、別の理由で大量の汗をかいていた。頼むから、早く終わってくれ……!



 ◇◆◇ ダンジョンは出会いの場(意味深) ◇◆◇


 少し難易度の高いダンジョンの奥深く。宝箱を発見し、浮かれていた俺たちを悲劇(喜劇?)が襲った。


「罠だ!?」


 リリアが宝箱に駆け寄った瞬間、床が抜け、俺とリリアは暗い下の階層へと落下してしまったのだ!


「いったぁ……! カイト、大丈夫!?」

「あ、ああ……なんとか。エレノアさんは!?」


 上を見上げるが、落とし穴は既に閉じてしまっている。エレノアさんの声も聞こえない。

「くそっ、はぐれたか……」

「ど、どうしよう……暗いよ、カイト……」


 さすがのリリアも不安そうだ。たいまつを取り出そうとした俺の腕に、彼女がぎゅっとしがみついてきた。

「……なあ、リリア、近いって」

「だって怖いんだもん……! 手、繋いでていい?」


 暗闇の中、すぐ隣に感じるリリアの体温と、柔らかい感触。……いやいやいや! 邪念を振り払え、俺!

「……カイトの手、あったかいね」

「……」

 早くエレノアさんと合流しなければ。そう思うのに、俺の心臓は別の理由でうるさく鳴り始めていた。


 ……そんなこんなで、俺の異世界生活は、常にドキドキ(物理・精神の両面)と隣り合わせだ。


 エレノアさんの大人な魅力と、リリアのストレートな好意(?)の板挟み。そして、女神様(作者とも言う)の悪戯としか思えないご都合主義的ハプニングの数々!


「へ、平和……俺の平和はどこへ……?」


 その夜、安宿の固いベッドの上で、俺は遠い目をして天井を見つめることしかできなかった。

 そして、予感はしていた。

 このドキドキ生活は、まだ始まったばかりなのだと……。


(続くのか、これ……!?)

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