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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第28話 集められた情報と、避けられぬ潜入任務

 エレノアさんとリリアが情報収集に奔走している間、俺、カイトは……正直、生きた心地がしなかった。

 宿屋でじっとしていても、悪い想像ばかりが頭をよぎる。「二人が危険な目に遭っていないだろうか?」「俺のせいで、とんでもないトラブルに巻き込まれていないだろうか?」……。

 結局、落ち着かずに部屋でヘナチョコ魔法の練習(主に『光球』を点けたり消したり)を繰り返すくらいしか、できることがなかった。ああ、胃が痛い……。


 そんな俺の心配をよそに、夕方、リリアが勢いよく宿屋のドアを蹴破らんばかりの勢いで訪ねてきた。その顔は、なんだか興奮と疲労が入り混じっている。


「カイトー! 聞いてよ!」

「お、おう。どうだった?」

「港地区の商人たちに色々聞いてみたんだけどさー!」

 リリアは、得意げに話し始めた。

「『嘆きのセイレーン』って酒場、やっぱりヤバいらしいよ! 出てくるお酒が、めちゃくちゃ強いんだって! あと、そこの看板娘が可愛いって噂!」

「……」

「それから、『片目のジャック』って奴、昔はすごい海賊だったとか、いや実は落ちぶれた貴族だとか、色んな噂があった! あと、カードゲームでイカサマするって話も!」

「…………」


 ……うん。まあ、リリアらしいというか……。ほとんど、ゴシップと与太話じゃないか!

 俺が呆れていると、リリアは「どーよ!」と胸を張る。いや、どーよ!じゃないから!


「……まあ、その、なんだ、お疲れさん、リリア」

 俺が、なんとか労いの言葉をかけると、リリアは「でしょー!」と満足げに笑った。……こいつ、本当に情報収集してきたんだろうか……。


 リリアの(あまり役に立たなさそうな)報告から少し遅れて、今度はエレノアさんが俺の宿を訪れた。彼女は、いつものように落ち着いた様子だが、その瞳には確かな成果を窺わせる光があった。


「カイトさん、リリア。お待たせしましたわ」

 エレノアさんは、テーブルに一枚の羊皮紙を広げた。そこには、港地区の地図と、いくつかのメモ書きが記されている。

「まず、『嘆きのセイレーン』ですが、リリアの聞いた通り、確かに港の裏社会の人間が集まる酒場ですわ。ただし、特定の組織の支配下にあるわけではなく、ある種の『中立地帯』として機能しているようです。それゆえに、様々な筋の人間が出入りし、情報交換なども行われている……」


「へぇー……」

 リリアの情報とは、レベルが違う……!


「そして、『片目のジャック』。元は腕利きの傭兵だったようですが、ある事件で片目を失って引退し、その後はこの港地区で情報屋兼顔役として立ち回っている……というのが、最も信憑性の高い情報のようですわね」

 エレオノラさんは続ける。

「彼は非常に用心深く、実利主義者。無駄話や、身の程知らずの人間を嫌う傾向にあるとか。ですが、筋を通す相手や、彼にとって『価値がある』と判断した情報には、相応の対価を払うとも言われていますわ。それと……これは確かな情報ですが、彼は『霧隠れ草』という、非常に珍しい煙草葉を好んで嗜むそうです」


 霧隠れ草……。なるほど、交渉の糸口になりそうな情報だ。


「情報、ありがとうございます、エレノアさん。……それで、俺たちはこれから……」

 俺が恐る恐る尋ねると、エレノアさんは、にっこりと微笑んだ。……嫌な予感!


「ええ、もちろん、ジャック氏に接触しますわ」

「やっぱり!?」

「ただし、行くのは……カイトさん、あなたとわたくしの二人です」

「ええっ!?」

 俺だけでなく、リリアも驚きの声を上げる。


「な、なんでよ母さん! 私も行く!」

「いいえ、リリア。今回の相手は、あなたの得意な力押しが通用するタイプではありませんわ。それに、ジャック氏は、騒々しい人間を嫌うそうですから」

 エレオノラさんの言葉に、リリアはぐうの音も出ないようだ。確かに、リリアが行ったら、交渉が決裂する前に殴り合いになりかねない……。


「ですが、俺一人で……いや、エレノアさんと二人でも、危険じゃ……」

 俺が言うと、エレノアさんは俺の肩にポンと手を置いた。

「大丈夫ですわ、カイトさん。あなたの『評判』……そして、この情報があれば、無下に扱われることはないでしょう。あなたは、わたくしの『代理人』として、堂々としていれば良いのです」

 そう言って、エレオノラさんは小さな包みを取り出した。中には、独特の香りを放つ乾燥した葉……『霧隠れ草』だ。

「これを、ジャック氏への『手土産』に。そして、例のコインを見せれば……きっと、話を聞いてくれるはずですわ」


 ……代理人? 堂々と? 無理難題すぎる!

 俺は、またしても、とんでもない役目を押し付けられてしまったのだ! しかも、今回はエレノアさんと二人きりで、あのヤバそうな酒場へ……!


「わ、わかりました……。やります……」

 俺は、震える声で、しかし頷くしかなかった。もう、ここまで来たら、腹を括るしかないのだ。諦めの境地、再び!


「ふふ、頼もしいですわ、カイトさん」

 エレノアさんは、満足そうに微笑む。

「……カイト、気をつけてね。もし何かあったら、すぐに……!」

 リリアは、悔しそうにしながらも、俺の身を案じてくれている。……ありがとう、リリア。


 こうして、俺とエレノアさんによる、『嘆きのセイレーン』への潜入(?)および、『片目のジャック』との接触作戦が決行されることになった。

 俺は、エレノアさんから渡された『霧隠れ草』と、ポケットの中の『欠けた月のコイン』を握りしめ、これから訪れるであろう修羅場(?)に備え、深く、深ーーーーく、息を吸い込むのだった。


 ……胃薬、持ってくればよかった……!

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