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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第27話 危険な符丁と、次なる一手

 俺は、まるで幽霊のような足取りで、エレノアさんの店へと戻った。ポケットの中には、あの不気味な『欠けた月のコイン』。情報屋の言葉と、あの薄暗い店の雰囲気が、まだ頭にこびりついて離れない。


「……ただいま、戻りました……」

 店のドアを開けると、そこには心配そうな顔のリリアと、何かを考え込むような表情のエレノアさんがいた。リリアはギルドでの情報収集(たぶん空振り)から戻っていたらしい。


「カイト! 大丈夫だった!?」

 リリアが駆け寄ってくる。

「ああ……なんとか……」

 俺は、力なく頷き、カウンターに例のコインを置いた。そして、情報屋とのやり取り、酒場『嘆きのセイレーン』、『片目のジャック』、そしてこのコインが符丁であることを、かいつまんで報告した。声が少し震えていたかもしれない。


 俺の話を聞き終えると、リリアはゴクリと唾を飲み込んだ。

「港地区の『嘆きのセイレーン』……聞いたことある。あんまり、普通の冒険者が近づかないような、ヤバい酒場だって……」

 さすがに、今回の手掛かりのヤバさは、リリアにも伝わったようだ。いつもの「面白そう!」という反応はない。


 エレノアさんは、コインを手に取り、じっと観察している。その表情は真剣そのものだ。

「……このコイン……そして『片目のジャック』……やはり、そうですか」

 彼女は、何か確信を得たように呟いた。

「エレノアさん、何か知ってるんですか?」

 俺が尋ねると、彼女は静かに頷いた。

「ええ。『嘆きのセイレーン』は、港の裏社会の人間が集まる場所の一つとして有名ですわ。そして、『片目のジャック』……彼はおそらく、その中でも顔役の一人でしょう。様々な組織と繋がりを持ち、情報の仲介や、厄介事の処理などを請け負っている……そういう類の男です」


「じゃあ、そのジャックって奴に会えば、『月影のギルド』の情報が……!?」

 リリアが、少しだけ期待を込めて言う。


「……可能性はあります。ですが、同時に非常に危険も伴いますわ」

 エレオノラさんは、俺たちを諭すように言った。

「『嘆きのセイレーン』は、よそ者、特に表の人間には排他的な場所です。そして、ジャックのような男は、信用できない相手には決して口を開かないでしょう。下手をすれば、情報を引き出すどころか、こちらが危険な目に遭う可能性の方が高い」


「……ですよね……」

 俺は、深く頷く。想像しただけで、胃が痛い。


「じゃあ、どうするの? 諦める……?」

 リリアが、不安そうに尋ねる。


「いいえ」

 エレオノラさんは、きっぱりと言った。

「手掛かりを掴んだ以上、ここで引くわけにはいきません。ですが、無策に飛び込むのは愚の骨頂ですわ」

 彼女は、コインをテーブルに置いた。

「まずは、その『嘆きのセイレーン』と『片目のジャック』について、もう少し情報を集めましょう。どんな店で、どんな連中が出入りしているのか。ジャックという男は、どういう人物なのか。弱点や、交渉の糸口になるようなことはないか……」


「情報収集……またですか?」

 俺は、げんなりして言ってしまう。


「ええ。急がば回れ、ですわ。それに……今回は、カイトさんに危険な場所へ行っていただく必要はありませんから、ご安心なさいな」

 エレノアさんが、俺を見て微笑む。

「えっ? 本当ですか!?」

 やった! さすがに、あの酒場に俺を行かせるのは、エレノアさんでも躊躇したらしい!


「わたくしが、信頼できるルートを使って、彼らに関する情報を集めます。リリア、あなたも手伝ってくださる? 港地区の噂話に詳しい、顔なじみの商人がいますでしょう?」

「うん! わかった!」

 リリアも、今度は前向きに頷く。


「じゃあ、俺は……?」

「カイトさんは、ゆっくり休んでいてくださいまし。あなたは、危険な手掛かりを持ち帰るという、重要な役目を果たしてくれましたから」

 エレノアさんは、そう言って、労うように俺の肩をポンと叩いた。その手は、ひんやりとしていて、少しだけ安心した。


(……よかった……今回は、お留守番……)


 俺は、心の底から安堵のため息をついた。もちろん、エレノアさんやリリアが情報を集めること自体に危険がないわけではないだろうが、少なくとも俺が直接、あのヤバそうな酒場に乗り込むよりは、遥かにマシだ!


「ありがとうございます、エレノアさん!」

 俺が素直に礼を言うと、エレノアさんは「あらあら」と目を細め、リリアは「カイト、情けないぞー」と言いながらも、どこか安心したような顔をしていた。


 こうして、俺たちの次の作戦は、『嘆きのセイレーン』と『片目のジャック』に関する事前調査に決まった。

 危険な領域に足を踏み入れる前の、しばしの(そして、つかの間の?)休息。


 俺は、ポケットの中のコインの冷たい感触を思い出しながら、これから始まるであろう更なる波乱に備え……いや、今は考えないようにしよう! とりあえず、休む! それが一番だ!


 ……そう思って油断していると、だいたいロクなことにならないのが、俺の異世界ライフなんだけどな……。

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