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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第25話 影との対峙、あるいは逃げ腰の決断?

『月影のギルド』――裏の暗殺組織。

 その言葉の重みが、エレノアさんの店の工房にずしりとのしかかっていた。さっきまでの、依頼達成後の軽い安堵感はどこへやら、空気は一変して張り詰めている。


「……暗殺ギルド、か。ただの物盗りじゃなかったってこと?」

 リリアが、ゴクリと唾を飲み込む。さすがの彼女も、事の重大さを理解したようだ。いつもの威勢は影を潜め、顔には不安の色が浮かんでいる。


「その可能性が高いですわね。あの『星屑の砂時計』も、使い方によっては非常に危険な代物。単なる金目当てではなく、何らかの目的があって盗まれたと考えるべきでしょう」

 エレノアさんは、腕を組んで厳しい表情で言う。


「そ、それって……ヤバいんじゃないですか!?」

 俺は、思わず声を上げる。

「暗殺ギルドなんて、俺たちみたいな駆け出し冒険者が手を出していい相手じゃないですよ! ギルドマスターも危険だって言ってましたし……ここは、街の衛兵とか、もっと大きな組織に任せるべきじゃ……!」

 完全に腰が引けていた。当たり前だ! スライムやゴブリン相手ならともかく、暗殺者の集団なんて、冗談じゃない! 俺は平和に暮らしたいんだ!


「……カイトの言うこと、もっともかも……」

 意外にも、リリアが俺の意見に同意した。彼女も、やはり怖気づいているのだろうか。


 だが、エレノアさんは静かに首を横に振った。

「衛兵やギルドに報告するのは当然ですわ。ですが、彼らが本格的に動くには、もっと確かな証拠が必要になるでしょう。それに……あの『月影のギルド』がこの街で暗躍しているとなれば、放っておくわけにはいきません」

 その瞳には、強い意志の光が宿っていた。

「それに、盗まれた『星屑の砂時計』が悪用されれば、どのような混乱が起きるか分かりません。見つけ出したのは、わたくしたちです。多少の危険は承知の上で、もう少しだけ探る必要がありそうですわ」


「で、でも、相手は暗殺ギルドですよ!? 俺たちだけで、どうこうできるような……」

 俺は、なおも食い下がる。死にたくない!


「ふふ、真正面から乗り込むわけではありませんわよ、カイトさん」

 エレノアさんは、俺の心配を見透かしたように微笑む。

「目的は、あくまで『情報収集』と、可能であれば『砂時計の奪還』。決して、ギルドそのものを潰そうなどとは考えていませんわ。それは、もっと大きな力を持つ者たちの仕事です」

 彼女は、テーブルの上の短剣のスケッチを指差す。

「まずは、この短剣と『月影のギルド』について、もう少し情報を集めましょう。幸い、あなたには『便利な評判』という盾もありますし?」

 またその話ですか!?


「え……?」

 リリアが、きょとんとした顔で俺とエレノアさんを見る。例の評判の話は、リリアには詳しくしていなかったのだ。


 エレノアさんは、軽く咳払いをして続ける。

「……というわけで、方針としては、引き続き情報収集です。ただし、これまで以上に慎重に。相手に気づかれないように動く必要がありますわ」

 そして、俺たちにそれぞれ役割を指示し始めた。


「リリア、あなたはギルドで、引き続き『月影のギルド』や、似たような特徴を持つ短剣に関する噂がないか、それとなく探ってきてくださる? 目立たないように、お願いできますか?」

「う、うん……わかった。頑張ってみる……」

 リリアは、少し不満そう(もっと派手な役回りがしたかったのだろう)だが、こくりと頷いた。


「そしてカイトさん」

 エレノアさんが、俺に向き直る。嫌な予感しかしない!

「あなたには、先日お世話になった、あの情報屋さんをもう一度訪ねていただきたいのです」

「ええっ!? あ、あの裏路地の!?」

「ええ。あなたの『評判』があれば、あるいは彼も、『月影のギルド』について何か知っていることを話してくれるかもしれませんわ。もちろん、探っていることを悟られないように、あくまで『別の依頼で情報を探しに来た』という体で、ね?」


 ……やっぱり、俺の悪評、活用する気満々だーー!!

 しかも、相手は裏社会の情報屋! 下手なことを聞いたら、こっちが消されかねない!


「む、無理ですよ! 俺なんかが、そんな上手くやれるわけ……!」

「あら? 諦めの境地に達したのではなくて?」

 エレノアさんが、意地悪く微笑む。うぐっ……!


「……わたくしも、独自のルートで情報を探ってみます。数日後に、ここで改めて情報を持ち寄りましょう」

 有無を言わせぬ口調で、エレノアさんは話を締めくくった。


 こうして、俺たちの『月影のギルド』に対する、非常に危険で、かつ俺にとっては精神的負担が大きすぎる情報収集作戦が開始されることになったのだ。


(暗殺ギルド……情報屋……俺の悪評……)


 考えれば考えるほど、胃が痛くなる。

 俺は、自分の異世界ライフが、またしてもとんでもない方向へと舵を切ったことを悟り、深くて長い、長いため息をつくしかなかった。


 ……平穏は、本当に、遠い。

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