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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第24話 謎の短剣と、新たな手掛かり

 エレノアさんの店に戻った俺たちは、改めてテーブルに広げられた短剣のスケッチを睨んでいた。犯人が使っていたという、独特な形状の短剣。魔力の残滓が消えた今、これが唯一の手がかりだ。


「くそー、あのまま追跡できれば、あっさり捕まえられたかもしれないのに!」

 リリアが、悔しそうにテーブルを叩く。気持ちは分かるが、仕方ない。

「落ち込んでいても始まりませんわ、リリア。今は、この短剣について調べるしかありません」

 エレノアさんは冷静に言い、スケッチを指差す。

「この形状……波打つような刃、柄に刻まれた奇妙な紋様……見慣れない様式ですわね。街の一般的な職人の仕事とは思えません」


「じゃあ、どうやって調べるんですか?」

 俺が尋ねると、エレノアさんは少し考えてから言った。

「まずは、街の武具店や鍛冶屋を回ってみましょう。これほど特徴的な短剣なら、誰かが見覚えがあるかもしれません。それと……念のため、ギルドにも情報を照会してみる価値はあるでしょう」


 方針は決まった。俺たちは早速、街の職人街へと向かった。


 一軒目。頑固そうな親父さんが営む、老舗の鍛冶屋。

 スケッチを見せると、親父さんは眉間に深い皺を寄せた。

「ふん……見たことねぇな。なんだ、このひょろひょろした刃は。こんなもんじゃ、まともに鎧は貫けねぇぞ」

 一蹴されてしまった。まあ、実用性重視の職人さんから見れば、そう見えるのかもしれない。


 二軒目。冒険者向けの、品揃え豊富な武具店。

 若い店主は、スケッチを興味深そうに眺めた。

「うーん、珍しいデザインですねぇ。異国のものか、あるいは儀式用か……。うちでは扱ったことないですね。すみません」

 ここでも空振りか……。


 三軒目、四軒目……。俺たちは、半ば諦めかけながら、街中の鍛冶屋や武具店を訪ね歩いた。しかし、誰もこの奇妙な短剣に見覚えはないようだった。


「だめだー、全然手がかりないじゃん!」

 リリアが、へたり込む。

「そう簡単に情報が出てくるとは思っていませんでしたけれど……。やはり、特殊な品であることは間違いないようですわね」

 エレオノラさんも、少し考え込んでいる。


(やっぱり、これ以上は無理なのか……? あの窃盗事件も、迷宮入りに……)

 俺が弱気になりかけた、その時だった。


 最後に訪れたのは、街の外れにある、小さな古びた工房だった。主人は、白髪で腰の曲がった、いかにも年季の入った老鍛冶師だ。


「……ほう? この短剣を……?」

 老鍛冶師は、俺たちが差し出したスケッチを、分厚い眼鏡越しにじっくりと眺めた。そして、ぽつりと呟いた。

「……この『蛇眼石』の埋め込み方……そして、この『流れ紋』……。まさか……」

「! なにかご存知なんですか!?」

 俺たちは、思わず身を乗り出す。


 老鍛冶師は、しばらく難しい顔で黙り込んでいたが、やがて重い口を開いた。

「……この短剣そのものは知らねぇ。じゃが……この様式は、もしかすると……『月影のギルド』の仕事かもしれん」

「月影のギルド?」

 聞き慣れない名前に、俺たちは首を傾げる。


「表の世界にはほとんど名前が出ることのない、裏の組織じゃよ。暗殺や破壊工作……そういう汚い仕事を専門に請け負う、影の集団……。奴らが使う武具は、どれも特殊な素材と、独特の様式で作られていると聞く。この短剣も……その一つかもしれん」

 老鍛冶師は、忌々しそうに吐き捨てた。


 裏の組織……暗殺ギルド……!?

 ただの魔法窃盗事件だと思っていたのに、なんだか物騒な話になってきたぞ!


「そ、そのギルドについて、もっと詳しく……!」

 俺が尋ねようとすると、老鍛冶師は首を横に振った。

「わしが知っているのは、そこまでじゃ。奴らに関わるのは、命が惜しければやめておけ。……もう行きなされ」

 そう言うと、老鍛冶師は頑なに口を閉ざしてしまった。


 俺たちは、礼を言って工房を後にするしかなかった。

 しかし、大きな手掛かりを得たのは確かだ。『月影のギルド』……。


 念のため、冒険者ギルドにも立ち寄り、その名前について尋ねてみた。

 ギルドマスターは、難しい顔をして言った。

「……『月影のギルド』、か。確かに、そんな名前の組織が存在するという噂は、我々も掴んでいる。だが、実態はほとんど不明だ。非常に用心深く、尻尾を掴ませない連中らしい。下手に探りを入れるのは、危険かもしれんぞ」


 間違いない。今回の魔法窃盗事件の犯人は、その『月影のギルド』と関係がある可能性が高い。

 そして、それは、俺たちが考えていたよりも、ずっと根が深く、危険な事件なのかもしれない。


 エレノアさんの店に戻り、俺たちは改めて顔を見合わせた。

「……どうする? 母さん」

 リリアが、不安そうな顔で尋ねる。

「……厄介なことになってきましたわね」

 エレノアさんも、さすがに表情を引き締めている。


 裏の暗殺ギルドが絡む事件……。俺たちだけで、解決できるのだろうか?

 いや、そもそも、これ以上首を突っ込むべきなのか……?


(……でも、放っておくわけにもいかないよな……)


 俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 なんだか、とんでもない事件に巻き込まれてしまったようだ。

 俺の異世界ライフ、次から次へとトラブルが舞い込んでくる……!

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