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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第23話 特異体質と、消えた魔力の残滓

 あの『星屑の砂時計』が引き起こした時空のいたずらから一夜明け。

 俺、カイトは、ズキズキと痛むだいぶマシにはなったがを抱えながら、エレノアさんの店を訪れていた。昨日はあの後、使い物にならず宿で泥のように眠ったのだ。


 店に入ると、リリアはもう来ていて、なにやらそわそわと落ち着かない様子だった。一方、エレノアさんはカウンターで、何やら複雑な図形が描かれた羊皮紙を熱心に見つめている。


「おはようございます……」

「あ、カイト! 大丈夫? 頭痛は?」

 リリアが駆け寄ってくる。心配してくれるのはありがたいが、その距離、やっぱり近い。

「おはようございます、カイトさん。顔色はだいぶ良くなったようですわね」

 エレノアさんも顔を上げ、穏やかに微笑む。


「あの……昨日はすみませんでした。俺のせいで、あんなことに……」

 俺が謝ると、エレノアさんは首を横に振った。

「いいえ、あれはわたくしの想定が甘かっただけですわ。それに……カイトさんのマナが『世界の理から外れている』というのは、非常に興味深い現象です」

 そう言って、研究者の目で俺をじーっと見てくる! やめて! その目、怖い!


「まあ、あなたの体質については、追々、安全な方法で調べていくとして……」

(やっぱり調べる気満々だーー!)

「今は、この事件を解決するのが先決ですわね」

 エレノオさんは、羊皮紙を俺たちに見せた。そこには、昨日砂時計で視た、犯人が持っていた短剣のスケッチと、感じ取った魔力の残滓のパターンが描かれていた。

「この短剣……見たことない形だな」

「ええ、おそらく特注品か、あるいはどこか特定の組織に属する者の物かもしれませんわね。そして、この魔力の残滓……微弱ですが、確かに犯人が辿った道筋を示しています」


「よし! じゃあ、その魔力の跡を追って、犯人を捕まえよう!」

 リリアが拳を握りしめる。……昨日の(俺由来の?)慎重さはどこへやら、すっかりいつもの調子だ。

「そうですわね。わたくしの探知魔法で、この残滓を追ってみましょう。カイトさん、リリア、援護をお願いしますわ」


 こうして、俺たち三人は、再び街へと繰り出した。今度は、魔法窃盗犯の追跡だ!


 エレノアさんが先頭に立ち、水晶玉のようなものをかざしながら、慎重に魔力の残滓を辿っていく。俺とリリアは、その左右を固め、周囲を警戒する。


「……こっちですわ」

 エレノアさんに導かれ、俺たちは普段あまり足を踏み入れないような、細い路地や裏通りを進んでいく。どうやら犯人は、人目を避けるように移動したらしい。


 道中、俺は内心で昨日の出来事を反芻していた。

(俺のマナ……世界の理から外れてる、か……。だから、あの砂時計も暴走したし、もしかしたら他の魔法にも影響が……? 下手に魔法を使うのも危ないのかもな……)

 そんなことを考えていると、エレノアさんがちらりと俺を見て、ふっと微笑んだ。

(……また思考読まれた!? いや、でも、今の表情は、からかう感じじゃなくて……なんか、優しい……?)


「カイト、ボーッとしてないで、ちゃんと前見て!」

 リリアに肘で突かれ、俺ははっと我に返る。いかんいかん、捜査中だった。


 魔力の残滓は、街の商業地区を抜け、職人街を通り、そして……次第に治安の悪そうな、いわゆる『ダウンタウン』と呼ばれる区域へと続いていた。

 薄暗い路地、怪しげな店の看板、うつろな目をした人々……。


「……なんだか、嫌な雰囲気だな……」

「油断しないでくださいまし。こういう場所は、悪党の巣窟にもなりやすいですから」


 エレノアさんの言葉通り、道の端々から、こちらを値踏みするような、あるいは敵意のこもった視線を感じる。

 だが、不思議なことに、誰も直接絡んではこなかった。……これも、俺の悪評(魔女の連れ)のおかげ、なのだろうか? だとしたら、皮肉なものだ。


 そして、ついに。

「……ここまで、ですわね」

 エレノアさんが、古びた倉庫が立ち並ぶ、行き止まりの路地で立ち止まった。

「え? ここで終わり?」

 リリアが尋ねる。

「ええ……残念ながら、この先は魔力の残滓が完全に消えています。おそらく、何らかの魔術的な妨害か、あるいは隠蔽工作が施されたのでしょう」

 エレノアさんは、悔しそうに眉をひそめる。


「くそー! あと一歩だったのに!」

 リリアが、壁をドンと殴る。


(……やっぱり、そう簡単にはいかないか)

 俺は、ため息をついた。せっかく掴んだ手がかりだったが、ここで途切れてしまった。


「仕方ありませんわね。一度、店に戻って、方針を練り直しましょう」

 エレノアさんが、冷静に言う。

「今度は、あの『短剣』を手がかりに情報を集めてみるしかなさそうですわね」


 犯人の魔力の痕跡は消えた。だが、まだ手掛かりはある。

 俺たちは、重い足取りで、その場を後にした。


(俺の特異体質……そして、犯人の残した短剣……)


 なんだか、厄介な事件に、どんどん深く首を突っ込んでいるような気がする。

 俺の異世界ライフ、平穏とは程遠いけれど、退屈している暇はなさそうだ。


 ……まあ、胃が痛くなる頻度は、もう少し減ってほしいんだけどな!

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