表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
20/84

第20話 悪評は便利な盾?(ただし本人の意思とは無関係)

 あのギルドホールでの一件以来、俺、カイトは街で「時の人」となっていた。もちろん、悪い意味で。

『美人魔女エレノア様とその愛娘リリアを同時に手玉に取る、恐るべき色男(?)』

『実は没落した王族で、魔女親子に密かに守られている貴種』

『エレノア様の秘密の実験体兼愛人』

 ……などなど、聞くに堪えない(そしてあまりにも現実離れした)噂が、まことしやかに囁かれているらしい。もう、訂正する気力も失せた。俺はただ、できるだけ目立たぬよう、息を潜めて日々を過ごす……はずだった。


 だが、世の中ままならない。というか、俺の異世界ライフは、常に予想の斜め上を行く。

 ここ数日、奇妙な出来事が立て続けに起こっていたのだ。


 ある日の夕暮れ時。依頼を終えて一人で宿へ帰る途中、いかにも柄の悪そうなチンピラ風の男たち数人に絡まれた。

「おい、兄ちゃん、ちょっとツラ貸せや」

「ヒヒ、金目のモンでも持ってんだろ?」

 うわ、最悪だ……! 俺は身構えるが、相手は複数。どう切り抜け……!?

 と、思った瞬間。

 チンピラの一人が、俺の顔をまじまじと見て、目を見開いた。

「……ん? おい、こいつ……もしかして……」

「あ? ……げっ! エレオノラ様の……!」

「やべっ! ずらかれ!」

 男たちは、顔面蒼白になると、蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったのだ。残された俺は、ただただ呆然。……エレオノラ様の? 俺のことか?


 またある時は、情報収集のために、少し治安の悪い裏路地にある情報屋を訪ねた時のこと。そこの主人は、無愛想で金に汚いことで有名だった。

 俺がカウンターの前に立つと、主人はいつものようにふてぶてしい顔で俺を見た……が、すぐに「おや?」という顔になり、急に態度を軟化させた。

「……ああ、これはこれは。あなたが例の……。いやはや、お噂はかねがね。どうぞ、こちらへ」

 普段なら高額な情報料をふっかけてくるはずの主人が、なぜか妙に丁寧に応対し、相場よりかなり安い値段で情報を提供してくれたのだ。「エレオノラ様には、いつもお世話になっておりますので」とか言いながら。……エレノアさん、裏社会にも顔が利くのか!?


 これらの出来事を、俺はエレノアさんとリリアに話してみた。


「へー! あのチンピラども、ビビって逃げたんだ! やるじゃん、カイト!」

 リリアは、なぜか自分の手柄のように喜んでいる。違う、俺の手柄じゃない。

「……それで、情報屋が安くしてくれた、と?」

 エレノアさんは、ふむ、と顎に手を当てて考える。そして、にやりと微笑んだ。

「うふふ、ですから言いましたでしょう? カイトさん。悪いことばかりではない、と」

「え……?」

「あなたのその『悪評』……いえ、『評判』と言うべきかしら? それが、あなたを守る盾になっているのですわ」

「盾……ですか?」

「ええ。わたくしやリリアと親しいあなたに、下手に手を出せばどうなるか……少し考えれば分かることですもの。チンピラや、裏社会の者たちほど、そういう力関係には敏感ですから」


 ……なるほど。

 俺が「エレノア様とその娘に寵愛される謎の男」という(不本意極まりない)レッテルを貼られた結果、その虎の威(?)を借りる形で、面倒な連中が勝手に俺を避けるようになった、というわけか……。


「……なんだか、複雑な気分です……」

 嬉しいような、情けないような。自分の力じゃないところで状況が動いているのが、どうにもむず痒い。


「あらあら、贅沢な悩みですわね? その『盾』、存分に活用なさればよろしいのに」

 エレノアさんは、楽しそうに言う。

「そうだよカイト! もっと威張って歩けばいいんだよ!」

 リリアも無責任に煽ってくる。


(威張るって……柄じゃないし……)


 俺は、ため息をつく。

 確かに、チンピラに絡まれなくなったのはありがたい。情報が手に入りやすくなったのも……まあ、助かる。

 だが、その代償として、街を歩けば好奇の視線に晒され、あらぬ噂を立てられ、時々変な奴に弟子入り志願されるのだ。……割に合わない気がする!


「ふふ、その困り顔も、あなたの魅力の一つですわよ、カイトさん」

 エレノアさんが、追い打ちをかけるように言う。


 ああ、やっぱりこの人には敵わない。

 俺の評判がどうなろうと、この魔女様の手のひらで転がされていることに変わりはないのだ。


「……もう、好きにしてください……」

 俺は、再び深い諦念と共に、そう呟くしかなかった。


 俺の悪評(?)は、果たして今後、吉と出るのか、それとも更なる凶事を呼び込むのか。

 ……まあ、どうせロクなことにはならないんだろうな、という予感だけは、しっかりとあった。


 トホホ……(本日二度目)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ