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第2話 まさかの再会と発覚

あれから数日。俺、カイトの異世界ルーキーライフは、まあ……うん、地味の一言に尽きた。


今日の依頼は『下水道のスライム駆除(ノルマ10匹)』。泥と……なんか得体のしれない臭いの中で、ひたすら棍棒を振るう。キラキラした冒険? 美少女エルフとの出会い? そんなもんはラノベの中だけだ、ちくしょうめ!


「カ――イ――ト――ッ!! 遅いー! さっさと終わらせて飯行くぞー!」


背後から鼓膜を破壊する勢いで、能天気な声が飛んできた。振り返るまでもない。この声の主は一人しかいない。


「うおっ!?」

「よっと!」


ドカッ!と軽い衝撃と共に、俺の背中に誰かが飛び乗ってきた。いや、軽くはない。普通に肋骨に響いた。


「リリア……重い……降りろ……」

「えー? スライム相手に手間取ってるカイトが悪いんでしょー? ね、あと何匹?」


ひょこっと俺の肩口から顔を出したのは、燃えるような赤毛をポニーテールにした少女、リリア。俺がこの世界に来て、ギルドで半ば強引に組まされたパーティーメンバーだ。


歳は俺と同じくらい。顔立ちは……うん、正直かなり可愛い。母親譲りなのか、スタイルも駆け出し冒険者とは思えないほど良い。ただし、性格はその、なんだ……ガサツ? いや、天真爛漫? とにかく、エネルギッシュで、距離感がバグっている。今みたいに平気で背中に飛び乗ってくるし、肩を組む(という名の締め技)も日常茶飯事だ。


「あと2匹だ……。つーか、お前こそ依頼終わったのかよ? 『街路樹の毛虫退治』」

「とっくに終わったね! 火魔法でパーッと!」

「パーッ、じゃねぇよ! 木、焦がしてギルドマスターに怒られてただろ!」

「ちぇっ、細かいなー、カイトは。それよりさ、終わったらウチ来なよ! 今日、母さんが張り切ってシチュー作ったって言ってたし!」

「いや、俺は宿で……」

「だーめ! 来るの! 絶対!」


有無を言わさぬ笑顔(と、俺の腕を掴む万力のような握力)。こいつの押しには誰も勝てん……。


結局、スライムをあと2匹(リリアの無駄に派手な火魔法の余波で半分溶けてた)処理し、俺はリリアにずるずると引きずられるように、彼女の家へと向かうことになった。


「それにしてもさー、うちの母さん、美人だけどマジで変なんだよねー。この前なんか、『冒険者の服はしたないですわ! もっとこう、フリルとかレースとか……』って言い出してさー。そんなんで戦えるか!」

「はは……(いや、あんたの母さんなら魔法でなんとかしそうだな……)」


先日のエレノアさんの顔を思い出し、乾いた笑いを浮かべる俺。まさか、この数分後に、その「変だけど美人な母さん」と再会するなんて、この時の俺は知る由もなかった。……いやマジで。


「着いたー! ここだよ、カイト!」

「え……?」


リリアが指差したのは、見覚えのある店構えだった。

上品な木彫りの看板に、『エレノア魔法具店』の文字。間違いない。数日前、あの美しい人が困っていた場所だ。


(まさか……な? いやいや、そんな都合のいい……ラノベじゃあるまいし……)


※ラノベです。


ゴクリと唾を飲む俺の心配をよそに、リリアは店のドアを勢いよく開け放った。


「ただいまー! 母さーん、お客さん連れてきたよー!」


カランコロン、とドアベルが鳴る。

店の中は、外観通り、落ち着いた雰囲気だった。壁際には怪しげな薬草や鉱石が並び、カウンターには水晶玉や古びた魔導書が置かれている。そして、そのカウンターの奥から、ふわりと現れたのは――


「あらあら、リリア。お帰りなさい。そんなに大声を出さなくても……まあ」


白いエプロンをつけた、絶世の美女。

数日前と変わらぬ、いや、生活感のある格好が逆に色香を増しているような……エレノアさん、その人だった。

彼女の穏やかな紫色の瞳が、俺を捉えて、ふわりと細められる。


「まあ……! カイトさん。先日はどうも。ふふ、本当に『すぐ』でしたわね」

「え……あ……えええええええええ!?」


俺の口から、素っ頓狂な声が飛び出した。あまりの衝撃に、脳みそがフリーズする。


「へ? え? なに!? 母さん、カイトと知り合いなの!? 『先日』って何!?」


目を白黒させている俺と、にこやかに微笑むエレノアさんを、リリアが交互に見比べてキョトンとしている。状況を理解できていないのは、リリアと、俺の停止した思考回路だけらしい。


「うふふ。カイトさんには、先日ちょっと困っていたところを助けていただいたのですよ。ねえ、カイトさん?」


エレノアさんが、悪戯っぽく片目を瞑る。その仕草に、俺の心臓が跳ねる。いや、跳ねてる場合じゃない! この状況、マズくないか!? めちゃくちゃマズいんじゃないか!?


だって、目の前にいるのは、


数日前に助けた、なんかヤバそうな薬の材料を落としてた超絶美人エレノアさん

その娘で、距離感ゼロの、これまたスタイルの良いパーティーメンバー(リリア)

……え、なにこの死亡フラグ詰め合わせセット。俺、なんかした?


「へー! カイト、隅に置けないじゃん! やるぅ~!」

リリアが俺の背中をバンバン叩く。痛い。マジで痛い。


「! い、いや、俺はただ、偶然……!」

「偶然でも、わたくしにとっては幸運な偶然でしたわ。ね、カイトさん? よろしければ、夕食でもご一緒にいかがかしら? 先日のお礼も、ちゃんとしなければなりませんし」

「えっ、いや、そんな! 滅相も……!」


全力で辞退しようとする俺。本能が警鐘を鳴らしている! 『ここから先は地獄(天国?)だぞ』と!


「遠慮しないで! ね、カイト、食べてきなよ! 母さんの料理、美味しいんだから!」

「そうですわ、カイトさん。リリアもこう言っておりますし」


母娘の完璧な連携(と、エレノアさんの有無を言わさぬ微笑み圧)の前に、俺の抵抗はあっけなく霧散した。


……こうして俺は、エレノア魔法具店の奥にある、居心地の良さそうなリビングの食卓に座らされていた。

右隣には、ニコニコと人懐っこい笑顔を向けるリリア。

左隣には、優雅にお茶を淹れながら、時折意味深な視線を送ってくるエレノアさん。


(…………詰んだ?)


俺の胃は、早くも限界を訴え始めていた。これから始まるであろう夕食が、どんな味になるのか……想像もしたくなかった。


女神様、あんたのご都合主義、マジで容赦なさすぎませんかね……?

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