表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
19/88

第19話 評判ガタ落ち英雄(?)と、楽しそうな魔女様

 ギルドホールを後にした俺は、もはや魂が半分抜け殻のようになっていた。

 公衆の面前で「ふしだら」「破廉恥」「母娘を誑かす男」呼ばわりされ、とどめにはエレノアさんの「彼は特別なのですわ♪」発言による、誤解の上塗りコンボ。……もう、お嫁に行けない(意味不明)。


「……ひどい……ひどすぎる……」

 俺は、力なく呟きながら、とぼとぼと歩く。


「まったくよ! あの鎧バカ、なんなの!? カイトはそんなんじゃないってのに!」

 隣では、リリアがまだぷんすか怒っている。その怒りが俺に向いていないことだけが、唯一の救いだ。


「まあまあ、リリア。落ち着きなさいな」

 一方、この状況を作り出した張本人(の一人)であるエレノアさんは、涼しい顔で、むしろどこか楽しそうだ。

「エレノアさん! あなたのせいでもあるんですよ!? あの『特別』ってなんですか! ますます怪しいじゃないですか!」

 俺が涙目で抗議すると、エレノアさんは優雅に微笑んだ。

「あら、事実ではありませんか? カイトさんは、わたくしたちにとって『特別』でしょう? ね?」

 悪びれる様子、ゼロ! この人、やっぱり確信犯だ!


 その日から、俺の街での生活は、微妙に、しかし確実に変化した。


 まず、パン屋の陽気なオヤジ。

「よぉ、兄ちゃん! 今日も頑張ってるな! ほら、これはサービスだ! 美人の母娘さんにも、よろしくな!」

 そう言って、なぜかおまけのパンをくれる。……そのニヤニヤ顔が、全てを物語っていた。


 次に、武器屋の寡黙な親父。

 俺が顔を出すと、無言で頷き、カウンターの下からゴソゴソと……妙に艶めかしいデザインの短剣(明らかに女性用?)を見せてきた。……なんでだよ!?


 そして、ギルドホール。

 俺が通りかかると、冒険者たちがヒソヒソと囁き合い、生暖かい視線を送ってくる。中には、「カイトさん……いや、師匠! その人心掌握術、俺にも教えてください!」と、目を輝かせて(アホな)弟子入り志願してくる奴までいる始末! 違う! 俺はそんなんじゃない!


「……もう、外歩きたくない……」

 俺は、エレノアさんのお店のバックヤードで、蹲って膝を抱えていた。完全に人間不信モードだ。


「あらあら、カイトさん。そんなに落ち込まないでくださいまし」

 エレノアさんが、お茶を淹れて持ってきてくれた。その表情は、やっぱり面白がっているようにしか見えない。

「あなたがそれだけ、わたくしたち母娘と親しい、ということの証明ではありませんか」

「そういう問題じゃありません!」


「そうだよカイト! あんな奴らの言うこと、気にすることないって!」

 リリアが、俺の隣に座って励ましてくれる。……のだが。

「もし、カイトのこと悪く言う奴がいたら、私がぶっ飛ばしてやるから!」

 物騒なことを言いながら、拳をブンブン振り回している。……うん、君は通常運転で何よりです。


 極めつけは、俺たちが三人で街を歩いていた時に聞こえてきた、噂話だ。

「なあ、聞いたか? あの冒険者のカイトって奴、実は没落した王族の隠し子で、伝説の魔女エレノア様とその娘が、影ながら彼を守り育てているらしいぜ?」

「へぇー! だからいつも一緒にいるのか! しかも、エレノア様とは夜な夜な……」

「おい、それ以上は……」


 ……誰だよ、そんなトンデモ設定考えた奴は!?

 俺は貴族でも王子でもないし! エレオノアさんとは断じてそういう関係では……!


「……ぷっ……くくく……」

 隣で、エレノアさんが肩を震わせている。笑いを堪えているのがバレバレだ!

「もー! 母さん! 笑ってないで、ちゃんと否定してよ!」

 リリアが怒るが、エレノアさんは「あら、面白い噂ではありませんか?」と、どこ吹く風だ。


 ああ、もうダメだ。俺の評判は地に落ちた。

 いや、ある意味、ものすごく「有名」にはなったのかもしれないが、方向性が完全に間違っている。


(……まあ、いっか……)


 諦めの境地に達したはずの俺の心が、再び深い諦念に包まれていく。

 もはや、何を言っても無駄なのだ。この街で、俺は「美人魔女とその娘に寵愛される、謎多き(そして多分ふしだらな)男」として生きていくしかないのかもしれない。


「元気をお出しなさいな、カイトさん」

 エレノアさんが、俺の肩をポンと叩く。

「その……ある意味で『注目』されているというのは、悪いことばかりでもありませんのよ? うふふ」

 その意味深な言葉に、俺は新たな胃痛の予感しか感じなかった。


 この人の「役に立つ」は、だいたい俺にとってロクなことにならないのだ!


 俺は、またしても天を仰ぐ。

 降りかかる火の粉(主に誤解)を払い続けるのが、俺の異世界での宿命らしい。


 トホホ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ