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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第18話 聖騎士様は誤解する(そして事態は悪化する)

 あの個性シャッフルポーション騒動から数日。俺の異世界ライフは、驚くほど「普通」の様相を呈していた。いや、もちろん、エレノアさんの思考先読み(疑惑)や、リリアの過剰なスキンシップ(若干マイルドになった気もするが)は健在だ。だが、命の危機に瀕したり、精神崩壊しそうなほどの異常事態は起こっていなかった。


(……あれ? もしかして、俺、この生活に慣れたのか……? これが平穏……?)


 そんな、フラグとしか思えない思考が頭をよぎった、ある日の昼下がり。俺はリリアと二人で、ギルドからの帰り道を歩いていた。


「ねーカイト! 今日の依頼の報酬、半分こだからね! 私の方がいっぱいゴブリン倒したけど!」

「はいはい、わかってるって。……お前、最近ちょっと剣の振りが鋭くなったんじゃないか?」

「へへん、当然でしょ! 伊達に毎日素振りしてるわけじゃないんだから!」

 リリアは、得意げに胸を張る。その様子がなんだか微笑ましくて、俺はつい、ぽん、と彼女の頭を軽く撫でた。


「わっ!? な、何すんだよいきなり!」

 リリアは顔を赤くして俺の手を振り払う。うん、通常運転だ。


 ……と、そんな俺たちの(傍から見れば仲の良い?兄妹のような)やり取りを、少し離れた場所から、険しい目つきで見ている男がいたことに、俺は気づいていなかった。


 その数時間後。今度は俺が一人で、エレノアさんのお店に必要な薬草を届けに行った時のことだ。


「あらカイトさん、ありがとう。助かりますわ」

「いえ、これくらい……。あ、エレノアさん、襟のところが少し……」

 俺は、彼女のローブの襟が少し乱れているのに気づき、無意識に手を伸ばして直してあげた。ほんの、ちょっとした親切心からだ。


「まあ、ありがとう。気が利きますのね、カイトさんは」

 エレノアさんが、ふわりと微笑む。その距離、近い。甘い香りが鼻をくすぐる。……いかん、平常心、平常心。


 ……そんな俺たちの(傍から見れば親密な?)やり取りを、店の外から、これまた険しい目つきで見ている男がいたことに、俺は(以下略)。


 そして、事件はギルドホールで起こった。

 俺が次の依頼を探していると、突如、厳つい鎧に身を包んだ、いかにも「正義感の塊」といった感じの若い男が、俺の前に立ちはだかったのだ。胸には、どこかの神殿騎士団の紋章が輝いている。


「……貴様だな? この街で、ふしだらな行いを繰り返しているという冒険者は」

 男は、鋭い眼光で俺を睨みつけ、低い声で言った。


「へ……? ふしだら……? な、何のことですか?」

 俺は、突然のことに完全に戸惑う。


「とぼけるな! 私は見たぞ! 貴様が昼間、年若い少女(リリアのことか!)に馴れ馴れしく触れ、さらにその後、年嵩の女性(エレノアさんのことか!)とも密会しているのを!」

 男の声は大きく、周囲の冒険者たちの注目が一斉に俺に集まる! うわ、最悪だ!


「ち、違います! あれは、その……!」

 俺は必死に弁解しようとするが、慌てれば慌てるほど、挙動不審に見えるだけだ。


「しかも聞けば、あの二人は母娘だというではないか! なんと破廉恥な! 貴様のような男がいるから、この街の風紀は乱れるのだ!」

 聖騎士たぶんは、完全に俺を色魔か何かと勘違いしているらしい! しかも、母娘関係までご存じで!?


「な、何よアンタ! いきなり来て、カイトに失礼なこと言わないで!」

 聞きつけたリリアが、顔を真っ赤にして割って入ってきた!

「カイトは別にふしだらなんかじゃない! ちょっと鈍感でヘタレなだけよ!」

 ……リリア、フォローになってない! 全然なってない!


「ほう、娘まで誑かしているとは……! 許せん!」

 聖騎士は、ますます怒りを露わにする。まずい、リリアが殴りかかりそうだ!


「あらあら、少々騒がしいようですわね?」


 その時、ひときわ通る、落ち着いた声が響いた。エレノアさんだ。いつの間に……。


「む……貴女は……!」

 聖騎士は、エレノアさんの姿を認め、一瞬言葉を失う。だが、すぐに気を取り直し、険しい表情で詰め寄った。

「貴女も! このような若者にうつつを抜かし、娘まで巻き込むとは、嘆かわしい!」


 エレノアさんは、聖騎士の失礼な物言いにも眉一つ動かさず、静かに微笑んだ。


「まあ、聖騎士様。何か誤解があるようですわね」

「誤解だと!? この目で見たと言っている!」

「ええ、ご覧になったことは事実なのでしょう。ですが、その解釈が少々……早計だったようですわね」


 エレノアさんは、すっと俺の隣に立つと、まるで慈しむかのように(?)俺の腕にそっと手を添えた。ひぃっ!?


「このカイトさんは……そうですね、わたくしと、そして娘のリリアにとって、なくてはならない……『特別』な方なのですわ。ですから、少々、他の殿方とは距離感が違うように見えたのかもしれませんことよ?」

 エレノアさんの声は穏やかだが、その言葉の内容は、とんでもない爆弾だった! 特別!? なくてはならない!?


「「…………」」

 俺とリリアは、顔面蒼白。

 周囲の冒険者たちは、ヒソヒソ……どころか、もう完全に「そういうことか……」みたいな顔で俺を見ている! 誤解が! 誤解が解けるどころか、とんでもない方向に深まってるんですけどーー!?


「な……! そ、そのような……!」

 聖騎士は、エレノアさんの堂々とした(そして意味深すぎる)態度に、さすがに気圧されたようだ。


「ご理解いただけましたかしら? それでは、わたくしどもはこれで失礼いたしますわ。行きましょう、カイトさん、リリア」

 エレノアさんは、有無を言わさぬ笑顔で俺たちの背中を押し、呆然とする聖騎士と、好奇の視線を向ける冒険者たちを残して、颯爽とギルドホールを後にした。


「…………」

「…………」

「……(俺はもうダメだ……)」


 ギルドの外に出ても、俺はしばらく立ち直れなかった。

 なんだ今の状況!? 弁解の余地ゼロどころか、完全に公認の仲みたいになってるじゃないか!


「……ふふ、カイトさんのおかげで、変な虫が寄り付かなくなるとよろしいのですけれど」

 エレノアさんが、楽しそうに言う。……確信犯だ! この人、絶対に面白がってる!


「もー! 母さんのせいだよ!」

 リリアが、ぷんすか怒っている。


 ああ、俺の平穏は、どこへ……。

 ただ普通に生きてるだけなのに、なんでこんなに誤解されなきゃならないんだ……!


 俺は、またしても天を仰ぎ、深すぎるため息をつくしかなかった。

 この街で、俺がまともな人間として認識される日は、果たして来るのだろうか……?

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