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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第12話 魔法訓練と、読まれ放題の思考回路

新しい鎧は、確かに良かった。エレノアさんの魔法付与(と、リリアが選んだ肩当て)のおかげで、軽くて動きやすいのに防御力も以前とは段違いだ。これを着ていると、なんだか少しだけ、まともな冒険者になれた気がする。……気がするだけだが。


そして、鎧の新調以上に大きな変化。それは、俺自身の心持ちだ。

もう、エレノアさんやリリアの前で、いちいち思考を取り繕うのはやめた。無駄だからだ。諦めたら、妙にスッキリした。……ような気がする。


例えば、エレノアさんのお店の倉庫整理を手伝っていた時。

「あら、カイトさん。その薬草の束、もう少し丁寧に扱ってくださいまし。繊細なのですから」

「あ、はい、すみません……」

(うわ、またやっちゃった……。でも、エレノアさん、薬草に詳しいんだなぁ。さすが魔女……って、また考えてる!)

以前ならここで内心パニックになっていたところだが、今は違う。

チラリとエレノアさんを見ると、彼女は俺の思考に気づいているのかいないのか、ただ静かに微笑んで薬草の手入れを続けている。……うん、多分気づいてるな。でも、いちいち指摘してこないだけ、マシになった……のか?


そんなある日の午後。俺はエレノアさんの店の裏庭にいた。

「カイトさんも、棍棒だけでなく、最低限の護身魔法くらいは使えた方がよろしいでしょう」

というエレノアさんの鶴の一声(と、「カイトが魔法使えたらカッコいいかも!」というリリアのキラキラした瞳)により、俺はエレノアさん直々の魔法訓練を受けることになったのだ。……光栄なんだか、公開処刑なんだか。


「まずは、基本的な『光球ライト』の魔法から。マナを指先に集めて……そう、その感覚を……あらあら」

エレノアさんが、俺の手を取り、マナの流れを誘導してくれる。……近い! 距離が近い! しかも手が柔らかい!

(うわわわ、集中、集中……! でも、エレノアさんの手、綺麗だな……いやいや雑念!)


「……カイトさん、マナの流れがそこで滞っていますわ。もっと、こう……頭の中のイメージを明確に……。ふふ、雑念が多いようですわね?」

エレノアさんが、楽しそうにクスクス笑う。

……やっぱり、思考、読まれてますよね!?


「す、すみません!」

「構いませんわ。最初は誰でもそんなものです。さあ、もう一度。光る玉を……そう、掌の上に作り出すイメージで……」

俺は、必死に雑念を振り払い、言われた通りにマナを集中させる。すると……ポッ。

俺の掌の上に、米粒ほどの、か細くて頼りない光が灯った。


「……おおっ!?」

「まあ、初めてにしては上出来ですわ。才能があるのかもしれませんこと?」

「やったじゃんカイト! でも、ちっちゃ!」

隣で素振りをしていたリリアが、駆け寄ってきて俺の手のひらを覗き込む。


(よ、よかった……! なんとかできた……! エレノアさんに褒められた……嬉しい……! って、また!)

俺の内心の喜び(と雑念)が顔に出ていたのか、エレノアさんは満足そうに頷き、リリアは「へへん、私だってこれくらい!」と、拳くらいの大きさの火球をボッと出して見せた。……レベルが違いすぎる。


「次は、防御魔法の基礎、『障壁バリア』を試してみましょうか」

その後も、エレノアさんの(俺の思考を先読みしているとしか思えない)的確すぎる指導は続いた。

「カイトさん、イメージが曖昧ですわ。もっと『硬い壁』を……ああ、いえ、それはただの『分厚い板』ですわね」

「マナの練り込みが足りませんことよ? ……あら、リリアへの対抗心がマナに混じっていますわ。ふふ」

「……」

俺は、もはや羞恥心をかなぐり捨て、言われるがままに魔法の練習に没頭した。思考を読まれるのは……もう、仕方ない! 逆に、この指導を活かしてやる! という、妙な開き直りすら生まれていた。


訓練が終わる頃には、俺は汗だくになっていたが、掌に蛍ほどの『光球』を安定して灯せるようになり、頼りないながらも半透明の『障壁』を一瞬だけ展開できるようになっていた。……すごい進歩だ!(当社比)


「ふふ、短時間でよく頑張りましたわね、カイトさん」

エレノアさんが、労うように微笑む。

「へー、カイト、意外とやるじゃん! じゃあ、そのヘナチョコバリアがどれくらい持つか、私が試してあげるよ!」

リリアが、ニヤニヤしながら拳を構える。


「や、やめろ馬鹿! 粉々になるわ!」

「大丈夫だって、手加減するから!」

「それが一番信用できないんだよ!」


いつものドタバタが戻ってきた。

思考を読まれようが、からかわれようが、なんだかんだで、これが俺たちの日常なのだ。


(……まあ、たまには、思考を読まれて助かることもある……のかもな?)


エレノアさんの的確すぎる指導を思い出し、俺は少しだけ、そんなことを思った。

もちろん、次の瞬間には「いやいや、やっぱり恥ずかしい!」と全力で打ち消したけれど。


「さあ、カイトさん、リリア。頑張ったご褒美に、冷たい飲み物でもいかがかしら?」

エレノアさんが、店の中から冷えたフルーツジュースを持ってきてくれる。


諦めの境地は、新たなスキル(と、新たな胃痛の種)をもたらしたようだ。

この不思議な関係性が、これからどうなっていくのか。

俺は、冷たいジュースを飲みながら、やっぱり少しだけ、先のことを考えてしまうのだった。……そして、その思考も、きっと隣の魔女にはバレているのだろうな、と思いながら。

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