地球の間引き
「今、この地球上にいる人類は、恐らくこの私で最期です。私は伊藤守です。」
荒廃した街の中の廃墟の一室にて机に向かい、ペンを走らせている一人の男がいた。以下はこの男の手記である。
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私はかつては普通の高校生で、未来に希望を抱き、無邪気に人生を謳歌していた。しかし、あの日から全てが変わった。
──世界人口遂に100億人を突破。
ニュース速報でこのような報道があった。
その日、何かが始まった。世界中の全ての刑務所で一夜のうちに全囚人が謎の死を遂げる、という怪現象が起こったのだ。原因は全くもって不明だった。
しかしながら、犯罪者が一掃されたとして、人々の中にはこの現象を喜ぶ人も少なからずいたという。また、多少の人口減少により、食料や水不足の解消、環境負荷の軽減、インフラの普及に繋がると唱える有識者もいた。
だが、安堵もすぐに恐怖へと変わる。一般市民へと怪現象が及び始めたのだ。しかも、死亡者数は日々膨れ上がる一方で、止まるところを知らない。日々テレビで報道される死亡者のリストを見て人々は震え上がる。そして、原因究明を求める声がますます強くなった。しかし、全世界の最も優れた頭脳を持ってしても原因は依然謎のままだった。
私たちは絶望した。誰もが次に死ぬのは自分なのではないかと常に怯えていた。自暴自棄になり暴動を起こす人々、落ち着いて自らの死の運命を受け入れようとする人々、本当に様々な人々がいた。
「死にたくない。」それは、どのような境遇、立場の人であっても同じであった。
私の周りでも、次々に人が死んでいった。親しい友人が、家族が、ある日何の前触れもなく突然命を落としていった。しかし、悪魔は私たちに人の死を悲しむ間さえも与えてはくれなかった。昨日まで元気に会話していたその人が、あの人が、突然目の前で倒れ、瞳から光が消えてゆく様を何度見たことだろうか。
遂に私の周りから誰もいなくなった。今はニュースで周囲の状況を知ることもできないので、私の他にまだ生存者がいるかどうかすらも分からない。もし、いらっしゃるのでしたら、いかがお過ごしですか?
人生はいつ何が起こるか全く予測がつかないものだ。高校生の頃の私は、まさか今こうして一人でペンを走らせていることなど、夢にも思わなかっただろう。思えば、今までの人生でやり残したことが沢山ある。私は、あまりにも無頓着過ぎた。
おい、地球の野郎、俺たちを滅ぼそうとする理由は何だ?
母さん、父さん、皆んな、俺を置いて逝かないでくれ。俺に最後まで残る資格なんかないんだ。なぜか手が震えて思うようにペンが進まないよ。しかも、目の前が滲んで──
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──ガチャン。全人類の間引き完了。