再会
再会 ――十月二十一日(土)十六時二十五分――
指定場所である朽ち果てた建物の前に、一人の女性が立っていた。
スラリと伸びた長い手足、大人びた端正な顔立ち……。
畑中香澄だった。
香澄は、用心のために左右を見回した。生垣の外側から敷地内を遠巻きに見つめている、数人の男たちの姿が見えた。男たちは、香澄の視線を感じたのか、怯えたように物陰に隠れた。
香澄は、小さく深呼吸をし、男たちを無視して敷地内に入った。そのまま、建物内に足を踏み入れると、足音を忍ばせながら、廊下を進む。
香澄は、廊下の突き当たりまで進むと、僅かに開いたドアから部屋の中に目を凝らす。
少しずつ、暗闇に目が慣れてくる。
まるで倉庫のような、広々とした空間だった。その奥に、高校の制服らしい服装に身を包んだ人物が、後ろ手に縛られた状態で座り込んでいた。
香澄は、縛られたまま俯いている人物の顔を、細部まで確認する。
石塚紗季に間違いなかった。
十年近くの月日がたっているが、当時の面影がそのまま残っていた。紗季の横には、一人の長身の人物が佇んでいた。
人物の顔は、闇に紛れているため、判別できない。その人物は香澄に気づくこともなく、紗季に話しかけた。
「できの悪いミステリー小説みたいなこんな作戦が、ここまで上手くいくとは思わなかったよ」
高揚しているのか、やや早口だ。
「あの監禁写真が自作自演の写真だとも知らずに、のこのことやってくるなんて……。笑っちゃうね。外には、何人か見届け人もいるみたいだし、最高の見世物にしないと」
紗季が、ほんの少し顔を上げた。
香澄は腕時計を見る。時計の長針と短針は、ちょうどライブ配信がはじまる十六時二十五分を指していた。
時計の秒針に急かされるように、香澄は二人がいる部屋の中に足を踏み入れた。そのとき、右足の爪先が、床に転がっていたコーヒーの空き缶に触れた。空き缶が床を勢いよく転がり、大きな音がガランと室内に響いた。
その音に、紗季の前に立っている人物が、振り向きながら叫んだ。
「誰!」
九年前とはずいぶんと雰囲気が変わってしまっていたが、見覚えのある顔だった。いや、忘れようとしても、忘れられるはずがない。小学校低学年までの幼い時期を共に過ごした妹、その人だった。
香澄は、思わず呟いた。
「葵……」




