俺のクローンと、嫁のクローンを双子として育てることにした話
フィクションです(念のため)
言わずとも知っている。
これが禁忌であることなどは。
だから誰にも明かすつもりはない。
俺と嫁の、二人だけの秘密だ。
これは、そう。
俺と嫁が、天罰を受け死に至ったその時に
俺の息子と嫁の娘に真実を告げるため。
これを読みし我が息子、最愛の嫁の写し身よ
決して人に明かすことなかれ
さて、では語ろうか。
そもそものきっかけは、俺と嫁の、強烈な自己嫌悪から始まった。
俺達は、そもそも不完全な生き物だ。
自分だけで生きていくことは叶わず、他者に迷惑を押しつけ合っている。
生まれたときから餌を与えられ。
同時に周りとの競争が始まる。
醜くも泣き喚き、自分勝手に我が儘を請う。
周りを愚劣と見下すほどに、俺もそれらと変わらないと自嘲する。
だから俺は、何者をも愛することなどなかったし、何よりもそんな俺自身に嫌悪して生きていた。
なぜ生きるのか、などと聞かれると、答えを持ち合わせないので困惑する。
強いて言うならば、それでも死ぬ理由がないという、その程度なのかもしれないが。
そんな俺に、あるとき転機が訪れた。
それはまさに、天井から指す一筋の光りだった。
無機質な蛍光灯の光を受けた目は、まっすぐに俺だけを睨み付けていた。
汚れた俺の本質を、まるで見透かすような澄んだ瞳。
それこそまさに、様々な邪悪をくみ上げて、奇跡的に発生した奇跡のような存在だった。
何か一つ不足しても、それだけで崩壊してしまう。
何か一つ加えただけで、泥水のように濁ってしまう。
それは俺から見たお前であり、お前から見た俺だった。
見た瞬間に理解した。俺がこの世に存在し続けていたのは、こいつと出会うためだったのだと。
同時に、ひどく不安になった。
相方がいなくなった瞬間に、おそらく俺は死を選ぶ。
それはひどく恐ろしいことだ。何よりこの美しい存在が、この世界から失われてしまうことが。
俺の死は嫁の死に。嫁の死は俺の死に。
その瞬間に、初めて俺は、俺の死を恐怖した。
そして一つの結論に至る。
俺と嫁、それぞれの予備を用意しようと。
第一案として、俺と嫁を混ぜ合わせたそれを作ろうとした。
だが、途中で断念することになる。
俺も嫁も、遺伝子が混合して不完全になったそれを、愛せるとはとても思えなかったのだ。
それは俺達の子供であると同時に、俺達のどちらでもない存在だろう。
そんなものを、不完全な俺達が愛せるとは到底思えない。
やがて俺達は一つの結論にたどり着く。
世の中を勝ち抜いて得た全ての財と、貪欲に学び続けた英智を集結し、俺達だけで全てを調えた。
俺の遺伝子で俺の息子を。嫁の遺伝子で嫁の娘を。
培養器で育てたそれを、俺と嫁の双子として育てることにした。
始めて顔を見たときに、確かに確信した。
奇跡が再び起こったのだ。そこには嫁の現し身がいた。
嫁も同じことを考え、俺と嫁は手を取り合って喜んだ。
この文章を、お前達が読んだということは、俺と嫁はおそらくすでに居ないのだろう。
お前達が、互いのことをどう思っているかは知らない。
俺達と同じように、相互依存に陥っているのかもしれない。
もしかしたら、俺達とは違う結論に至ったのかも、しれないな。
そしてそんなのは、俺の知ったことではない。
だから、まあ好きに生きるがよいさ。