桃太郎の鬼、デスループで頑張るも人間サイドが鬼畜過ぎる
ジャンル迷子の為、その他ジャンルで投稿していましたが、ポップホラーというお言葉を感想欄で頂けたので、10/1ホラーにお引っ越ししてみました。
そんなわけで、ホラーとしては怖さ控えめ(作者比)です。
どうぞ宜しくお願い致します。
昔々、あるところに鬼ヶ島という島がありました。
そこには多くの鬼が住まい、みんなが陽気に暮らしていました。勿論、島から出て人間を襲ったりなどしません。
そんなある日、島の外から一艘の小舟がやってきました。
鬼達は歓迎してやろうと宴の準備をして訪問者を待ちます。ところが舟から降り立った一人の男と犬、猿、雉の家来がこう言ったのです。
「我こそは桃太郎なり! やい、邪悪な鬼どもめ! 成敗してくれる!」
鬼達は突然のことに驚き、逃げ惑いました。が、無慈悲な桃太郎とその家来は女子供に至るまで鬼達を惨殺しまくりました。鬼よりも鬼畜です。
最後に桃太郎と対峙した鬼の頭領も粘りましたが、遂には倒されてしまいます。
「む、無念……桃太郎よ、この怨み覚えておけ。末代まで祟ろうぞ……」
頭領は呪詛の言葉を遺し、こと切れました。視界が真っ暗になったかと思うと、次の瞬間パアッと明るくなり、頭に後光が指す老人が現れました。
「おう、おう、これはちと気の毒じゃったのう。どれ、やり直しをさせてやろう。少し時間を巻き戻すぞい」
「は……?」
突然の事に理解が及ばぬうちに頭領はハッと目覚めます。
「夢……か? ……いや、少し酔っていたかな」
手にした盃を見て苦笑いする頭領。今は訪問者を迎えるため宴の準備中でしたが、うっかり先に呑んでしまったのだと思いました。
しかし、聞こえてきた桃太郎の名乗りに、一気に血が凍る思いをします。
「我こそは桃太郎なり! やい、邪悪な鬼どもめ……」
◆◇
頭領は再びハッと目覚めました。慌てて周りを見回すと、島のみんなは楽しそうに暮らしています。宴の準備などもしていません。
「なんだ、やっぱり夢か……」
頭領はホッと息をつきましたが、残念ながらその平穏はすぐに失われます。
「おーい、あそこに舟がいるぞ!」
「おう、なんだか手を振っているようだな」
「よし、歓迎の宴だ! 準備をするぞ!!」
「おう!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て……!!」
頭領はみんなを止めようとしましたが、久しぶりの訪問者を疑うことなぞ露ほども考えない陽気な鬼達は、いそいそと準備を始めてしまいました。
そして三度目の惨劇は起きるのです。
◆◇◆
頭領はみたび、ハッと目覚めました。
慌てて周りを確認しますと、まだ島の近くに小舟は来ていないようです。
頭領は少し余裕ができたので首を捻りました。
(理屈はわからんが、ワシが桃太郎に殺される度に時間が前に戻っていってるのか? ワシが桃太郎を祟ろうとしたから、そもそもあやつを倒さぬ限りはずっと繰り返すのかもしれぬ……)
そう。鬼の頭領はデスループしていたのです。
「みんな! よく聞いてくれ。これからこの島を襲う恐ろしい敵が舟で来る! みんなで返り討ちにするぞ!」
頭領の言葉に島の鬼達は半信半疑でした。長い間ずっと鬼ヶ島は平和だったのです。
◆◇◆◇
四度目の目覚め。
平和ボケした鬼達は、恐ろしい敵と聞かされた相手がたった一人の人間と三匹の動物だと知ると、頭領の冗談だと思い込み大笑いをしました。そしてあっという間に桃太郎とその家来に殲滅させられたのです。
頭領はその反省点を活かし、今度はみんなに慎重に話をしました。そして桃太郎を待つ間に弓矢や盾を作らせ、桃太郎達を鬼ヶ島に上陸させないように作戦を練ったのです。
しかし頭領の考えには穴がありました。桃太郎だけではなく、その三匹の家来も鬼畜だったのです。
「行け、雉!」
「ケーン! ファーストストライク!」
「ぎゃああああ!!」
雉が空中からきりもみ回転をしながら繰り出す嘴の攻撃は、一撃で多数の負傷者を出す必殺技です。
「行け、猿!」
「ウキッ、ストラックアウト!」
「うわああああ!!」
猿は舟の上で器用にバランスを取りながら、事前に用意しておいた石を投げつけてきます。それは時速200キロ超えの豪速球で、当たればひとたまりもありません。
「行け、犬!」
「ワオーン! 犬走!」
「それは必殺技じゃなくて家の周りの部分……きゃあああああ!!」
「ストライク繋がりじゃないんだ……ってうわあああああ!!」
地味な技名でしたが、犬走が一番凶悪で殺傷力が高い技でした。舟から飛び降りた犬は何故か海の上をコンクリートの上を走るように駆け抜け、浜辺の鬼達に突っ込んで大量に吹き飛ばします。
「そ、そんな……」
あっと言う間に鬼達はやられてしまい、頭領は気づけば、生臭い息を荒げイッちゃってる目をした三匹に取り囲まれていました。
◆◇◆◇◆
早くも五度目のデスループです。
はいはい。デスループデスループ。どうせ「目覚め」とかオブラートに包んでもすぐ死ぬし。
「あの三匹が居たら無理だ……なんとか桃太郎とタイマン勝負に持ち込まねば! その為には情報収集だ!」
またまた頭領は作戦を練りました。たった一人で舟を漕ぎ、鬼ヶ島を出て人間の里に向かいます。
実は鬼は力こそ大変強いですが、見た目は人間よりも少し体が大きく少し肌の色が赤いだけなのです。
ですから砂浜でゴロゴロして肌を砂だらけにすればギリギリ人間のフリができるのです。
頭領は旅人に変装して人間達に聞き込みをしました。どうやら鬼達が人間に対して悪さをするので桃太郎が鬼退治に行くそうです。
それを聞いた頭領は腸が煮えくり返る思いでした。思わず大声で叫びます。その声は雷のように辺りに響き渡り、人間達を驚かせました。
「なんという濡れ衣だ!! ワシらは鬼ヶ島から出ずに平和に暮らしているというのに!!」
「えっ!?」
「きゃああああ!!」
「鬼だ! 鬼が出たぞー!」
「誰か桃太郎を呼べ!」
かわいそうな頭領は、身の潔白を訴えただけなのに駆けつけた桃太郎と家来達に退治されてしまいました。
ほら、やっぱりすぐ死んだ。
◆◇◆◇◆◇
六度目のデスループ。
頭領は前回の反省から人間達に自分の潔白を訴えることはグッとこらえて、再び変装し桃太郎を探しに行きました。
すると犬を勧誘する桃太郎を見つけます。
(しめた! 犬を家来にさせなければいい!)
「やあ、犬。僕は今から鬼退治に行くんだ。この喜美断後をやるから僕の家来になれ」
(なんかきびだんごの発音おかしくないか? っていうかよく見たら、色もなんか変だぞ……?)
「わんわん!」
頭領は疑問を持ちましたが、可愛らしい白い犬は疑うこともなくきびだんごを食べようとします。慌てて頭領はそこに割り込みました。
「ちょっと待った! ワンちゃん、家来なんて止めてうちの子にならない? ほら、こっちには美味しいお魚があるよ~」
「わふ!?」
目を輝かせて魚の方を向いた犬を、がっしと捕まえた桃太郎は犬の口にきびだんごを押し込みます。
「ヴ、ヴル……グルアアアア!!」
きびだんごを食べた犬は、たちまち毛が逆立ち、身体がムクムクと大きくなり、咆哮をあげました。
「ど……ドーピングきびだんご……!!」
普通の人間なら恐ろしさに逃げ出すところですが、流石は頭領、肝が座ってます。驚いて呟くのみ。しかし本当はここで逃げておくべきだったのです。
「ははっ、ババア特製の喜美断後さ。もっと欲しいか?」
「ワオン! クレ……モットクレ!!」
(犬、猿、雉が喋って必殺技を繰り出すなんておかしいと思ったが、このきびだんごが原因か……しかも中毒性までありそうだ)
犬の目が完全にイッちゃってるのと、異常にきびだんごを欲しがる様子からそう判断した頭領。
「じゃあそこの目撃者を殺せ。そうしたらやろう」
「ワオーン!」
「なっ!?」
犬は頭領に襲いかかります。しかし一対一なら頭領に分がある筈です。頭領は犬の攻撃をかわし、その横腹を殴り付け……
ザクッ!
頭領は突然後ろから刀で切りつけられました。
そうでした。この人無慈悲で鬼畜な桃太郎でした。
「む、無念……」
かわいそうな頭領は(以下略)。
◆◇◆◇◆◇◆
七度目。
やっとこさ桃太郎の家を突き止めた頭領。家の横に畑があるのを見つけます。
「こ、これは……」
そこには粟や黍に混ざって、明らかにヤバい葉っぱが栽培されていました。
頭領は、犬達のイッちゃってる目を思い出して身震いします。
「これで団子を作っていたのか……」
と、そのヤバい葉っぱの横にもうひとつ、明らかに分けて畝が作られ栽培しているものがあります。ご丁寧に看板まで立てられ、そこにはこう書いてありました。
『おばあさんのヒミツの薬草・黄金の大根♪ ~抜くなよ! 絶対に抜くなよ!~』
頭領はごくりと唾を飲み込みます。黄金の大根など見たことも聞いたこともありません。抜くなよと言われると余計にどんなものか見たくなってしまいます。
(こ、これも桃太郎の情報を集めるため! 許せ!)
好奇心に耐えられず頭領は薬草のひとつを畝からスポンと引っこ抜きます。すると、今まで聞いた事のない叫び声がヒミツの薬草から絞り出され、それは頭領の鼓膜を破り脳に突き刺さりました。
「おや」
抜くと死ぬ呪いの植物の叫びを遠くから聞いたおばあさんは畑にやってきて、倒れている頭領の手からマンドラゴラを奪います。
「ヒッヒッヒ。看板さえ立てておけば、こうやって代わりに収穫してくれる馬鹿が後を断たないから便利じゃのう。これでまた喜美断後が作れるわい」
おばあさんも鬼畜でした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「こんなもん……こうだ!」
ボッ!!
色んな意味で危険すぎるおばあさんの畑。頭領は畑を潰せばきびだんごが作れなくなり、桃太郎が家来を従えることも出来なくなるだろうとふんで、畑に火をつけました。
「火事だ! 火付けだ!」
「鬼が暴れているぞ!」
「邪悪な鬼め! 成敗してくれる!」
近所の人が火事に大騒ぎし、家から桃太郎が飛び出してきました。
頭領は念願の桃太郎とのタイマンです。
(いける……! 一対一なら勝てる!)
ザクッ!
頭領は突然後ろから鍬で切りつけられました。
「……あ?……」
頭領が倒れながら後ろを振り返ると、ムキムキで凶悪なツラのおじいさんが鍬を持って立っています。
「む、無念……」
この場合は後ろから切られても仕方ないですね。放火犯は昔から重罪で許されないものですから。
まあ、おじいさんも元々鬼畜なんですけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「逃げよう」
九度目のデスループで漸く頭領は戦わない選択肢を選びました。人間より力が強いと言っても元々平和に暮らしていた民族なのですから、鬼畜な桃太郎達と戦うというのが間違いだったのかもしれません。
「みんな、大至急船を作ってくれ。荷物をまとめて鬼ヶ島を出るんだ」
頭領の提案に反対する者もいましたが、頭領は一人一人言葉を尽くして説得し、なんとか鬼ヶ島を出ることが出来ました。
が、しかし。説得に時間がかかったのが運の尽き。
「待て待て待てーぇい!! 野蛮な鬼どもめ!!」
鬼達が乗った船を、一艘の小舟が猛追してきます。信じられない速度で櫂を漕ぐのは、イッちゃった目をする桃太郎。
「アイツもきびだんごでドーピングしてたのか……!」
道理で強いわけです。アッと言う間に距離を詰められ、雉や猿の遠隔攻撃を受けた船の漕ぎ手の手が止まったところで、海の上を走る犬が突進してきます。
突進された船は大穴が空き、転覆しました。
「うわああああ! どっちが野蛮だよ!」
哀れ、鬼達は海に飲み込まれ全滅したのです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇…………
それから何度も鬼の頭領は逃げたり戦ったりしましたが、上手く行きませんでした。
出発前の桃太郎の家に行き説得も試みました。しかしおじいさんかおばあさんに見つかり問答無用で殺されました。
何度目かの挑戦で桃太郎との単独接触にも成功したのですが、桃太郎が光の無い目でぶつぶつと「鬼……邪悪……絶対成敗」と言うのみで話にならず、頭領は諦めました。
百度以上のデスループを繰り返し、とうとう頭領は赤ちゃんになるまで逆行してしまいます。
ここで頭領は以前から温めていた作戦を実行することにしました。
「ばぶー! おとうちゃん、おかあちゃん、聞いてくだちゃい!」
「なんと、しゃべったぞ!」
「まぁ! うちの子天才! 将来は頭領間違い無しね!!」
喜ぶ両親に、キリッとした赤ちゃん鬼がツッコミを入れます。
「もうそのやり取り、10回以上聞いてるでちゅ! いいでちゅか? 大きな桃を用意するでちゅ!」
「も、桃?」
「なんに使うの?」
「そこにワシを入れて人間の里の川に流すでちゅ! このタイミングなら桃太郎の先を越せる筈でちゅ!」
両親は産まれたばかりの我が子を手放す事はできないと言いますが、百度以上のループで説得スキルがカンストしていた赤ちゃん鬼は、上手く両親を丸め込みます。ついでに自分の代わりに桃太郎を拾って育ててほしいともお願いしました。
こうして赤ちゃん鬼は、大きな桃に乗ってどんぶらこ、どんぶらこ……。
パッカーン!
「おぎゃあ、おぎゃあ」
「まぁ、おじいさん桃の中から赤子が!」
「おお、おお、本当に赤子じゃあ。ちと身体が大きくて肌が赤いがのう?」
「あらいやだ、おじいさん。赤子は赤いから赤子って言うんですよ」
「ほう、そうじゃったか」
「ほんぎゃあ、ほんぎゃあ」
赤ちゃん鬼は泣き真似をしながら心の中でニヤリと笑います。
(ククク。上手く桃太郎と入れ替わってやったぞ! これで鬼ヶ島は襲われない!)
しかし。
「なんて良いタイミングなんでしょう。ちょうど新しい薬草の効果を試してみたいところだったんですよ」
「ははは、あの洗脳するための薬か?」
「ええ。この赤子は神様からの贈り物ですね」
「そうだな、ここはひとつ鬼ヶ島の財宝を奪うよう、鬼は敵だと洗脳してみよう。失敗すれば始末すれば良い。どうせ誰にも知られずに拾った子だしな」
なんと、おじいさんとおばあさんは想像以上の鬼畜だったのです。
(なんて事だ! 洗脳だと……!? 逃げねば……!)
赤ちゃん鬼は逃げようとハイハイしましたが、しょせんは赤ちゃん。おじいさんに捕まってしまいます。
「おうおう、元気な子じゃ」
「うふふ。これは将来が楽しみですね。ほら、飲みなさい……」
赤ちゃん鬼の口がこじ開けられ、おばあさん特製の怪しい液体が注がれます。
鬼の頭領だった赤ちゃん鬼は、頭がぐるぐるとしながらせっかく積み上げた百度以上の人生の集積が崩れていくのを感じ、恐ろしい未来を想像して恐怖で泣き叫びました。
「ぎゃあああああーーーーー!!」
が、それは端から見ればただの赤子のむずかりにしか見えなかったのです。
お読み頂き、ありがとうございました!