ACEは落ちない 4
いつも読んでいただきありがとうございます。
なかなか筆が進まず時間に間に合わず、すみませんでした。
クラーク博士、北海道で知らない人はいない、とても有名な人である。
クラーク博士と大泉洋とGLAY、大黒摩季、サカナクションを知らない人は北海道人ではないと言っても過言ではない。
クラーク博士と言われている、ウィリアム・スミス・クラーク氏は、札幌農学校(現北海道大学)の初代教頭として札幌に約9か月間滞在し教鞭を振るった。教育課程は自己が学長であるマサチューセッツ農科大学(現マサチューセッツ大学アマースト校)の物を移植したそうだ。
皆が聞いたことがある『Boys, be ambitious(少年よ、大志を抱け)』は各説あり、実際にクラーク博士が言ったのか、そもそも別の言葉だったんじゃないか等と言われている。
しかし、大事なのはそんなちっさなことではない。
「ぼーいずびーあんびしゃすらいくでぃすおーるどまん(少年よ、この年老いた俺のように野心的であれ)……じゃあ!」
北海道大学の緑の多い敷地内で、ふりっふり、ふわっふわの白黒ゴスロリドレスとカチューシャ姿、齢10歳くらいの女の子が叫びながら、その身長の4倍ほどの長さの大鎌を持って走り回って、つまづいて転んでいた。
明るい茶髪に同じ色の瞳に涙がたまり、目が潤んでいた。
泣きっ面の顔を上げると、鼻の下にはちょび髭がピーンと伸びてカールしている。
多分、怪人だと思う。多分、怪人だ。怪人オーラはなんとなく感じるし。考えることをやめようとするのは良くない。
「こんなにたくさん育てたんじゃあ! 全部私のものだから、自由気ままに刈ってもいいんじゃないかのう」
逃げていく北大生を涙しながら見つめ、鎌を持っていない手を強く握ってプルプル震えていた。
米農家さんが稲を刈るような感じで北大生の首を刈り取ろうというようなこと言わないでほしい。
避難警報が鳴り響き、幼女となったクラーク博士風の怪人、怪人クラークたんと呼ぼうか、そのクラークたんから人は遠ざかり、彼女?彼?の目的は達成できそうにない。
そんな中、北大の男子大学生らしき人がクラークたんに近づいてきた。多分、怪人とは気づかないのだろう。見た目は可愛らしい外国人の女の子だ。アジア系の顔つきでは絶対に勝てない天使のような顔。しかし、つけ髭っぽいちょび髭ありだが。
男子学生はクラークたんをなだめながら立ち上がらせ、親はどこだい、とか、ここは危ないから避難しようなどと言っていた。
「うう、すまんのう、みなは私が育てたのじゃがな。年はとりたくないのう、ありがたいのう」
クラークたん、あなた怪人なんですよね?
男子学生はクラークたんの手を取り、歩き始めた。
当然、多目的トイレに連れ込まれることもなく、避難所に向かっていた。まあ、僕のおっさん姿ならば間違いなく通報案件だ。日本の警察は優秀だからすぐに職務質問してきて捕まるぞ。
避難所へ歩いて行く2人を見つめながら僕はクラークたんの目的を考えたのだが、避難所に潜り込み、そこで暴れ回ることくらいしか想像がつかない。
仕方ない、そろそろ止めにはいるかと、2人の前に姿を現す。
「見た目には騙されない。避難所で人を食い散らかすつもりか、怪人」
幼女クラークたんは顔を真っ赤にした。
「なっ、そんな低俗なこと! いやそれもいいかもしれんのう。しかし、お主もやるのう。私の見た目や抑えたオーラに騙されることなく気がつくとは」
空気を切る音が聞こえて、その場から横跳びする。
先ほど転がっていた大鎌が僕のいた場所を切り裂きながら、幼女の元へ戻っていく。
男子学生が悲鳴をあげて走り去って行くのを、クラークたんは見つめていた。
「そなたの優しさや労り、褒美としては1単位分かのう」
クラークたんが僕の方へ鎌を向けた。
「いい不意打ちだと思ったんじゃがのう」
急に僕の居る辺りの地面が柔らかくなる。こ、これはッ! 力の踏ん張りがきかないッ!
「よく耕された土はいいだろう。これから種芋を植えたくなるようなフカフカの土、良く堆肥が混ぜられた、いい土じゃろ。まあ、身動きは非常に悪くなるが」
このままいたらヤバいと、思った時には、幼女は古風な猟銃をかまえていた。
大砲並みの轟音が響き、自分の盾に角度をつけて受け流す。腕に軋むような衝撃が走る。
「昔とは弾の威力が違うのう、いいのう、若いワシいいのう」
連続で数回、轟音と体に痛みが走る。切り裂く音が聞こえて、慌てて地べたに伏せると、回転した鎌が体のすぐ上を通り過ぎた。
「なかなか勘のいいおなごだのう。盾が邪魔だから、鎌の攻撃なら通ると思ったんじゃが」
ヤバイ、思うように動けない。農家の方々の苦労、身に染みて感じるぜ……。
全身土まみれになりながら、転がって仰向けになった瞬間、空に浮かぶクラークたんが猟銃を構えているのが見えた。あと、スカートの中身も見えた。幼女の癖にめちゃくちゃひらひらラグジュアリーの黒だった。お前、絶対に本物のクラーク博士に謝れよ。時を超えて謝りに行け。
「これで終わりじゃ!」
引き金を引こうとする指が動くのが見えた。
狙われているのは頭だ。やべぇ、盾を構えるの、間に合わね。終わる。
引き金を引き終わったクラークたんは目を見開いた。
先程いた、美少女ヒーローはいない。頭の位置に砂煙りが上がり大きく穴が開いていた。すぐ近く、胸があった位置に薄らと光る光の玉を見つけた。
直感で、ああ、先程のヒーローに違いないと思い狙いを定め、撃鉄を引き、引き金を引く。
その光の玉は複雑な飛行を繰り返し、目で追うのがやっとだった。
そして、光の玉はクラークたんに急接近して体当たりする。
クラークたんの体勢が崩れた瞬間、さらに急接近する光の玉はヒーロー椿に変わり、拳の一撃がクラークたんの顔面を捉えた。まさに幼女虐待事件の瞬間にも捉えられかねない。
僕は必死になり、拳で幼女クラークたんを叩き続けた。掛け声はオラオラか無駄無駄かアリアリと言っていたかもしれない。ただただひたすらに両手を振り回して殴り続けた。
死にたくない、負けるわけにはいかない。ヒーローはどんな手を使っても、怪人には倒されてはいけないのだ。幼女虐待の現場と例え言われようとも。
クラークたんが地面に落ち、うつ伏せになった体を、力を振り絞って仰向けになった。
「我が人生が最高に輝いていた、9か月間の札幌。時代が変わっても札幌はいいものだなあ」
確かクラーク博士は札幌からアメリカに戻った後、鉱山事業に手を出して、仲間に裏切られお金を横領され、その後は日の目を見ることなく、失意のままこの世を去った。札幌という異国の発展途上の町での札幌農学校の一期生との熱いやりとりの日々は充実した輝ける日々だった。
幼女クラークたんはもしかしたら、その想いが時代を超えて、怪人となって具現化されたなにかなのかもしれない。
「Could we be like you? (あなたのようになれましたか?)」
どぉんとびぃらいくみ (私のようにはなるな)
僕のつぶやきが聞こえたのか、クラークたんは僕の方を見た。
殴られてボコボコになった顔なのに、何かすっきりとした、通り雨が止んだ晴れ空のような笑顔をクラークたんが僕に向けた。
次第にクラークたんは消えていき、そこに誰かがいた温もりだけが残され、それも次第に消えていった。
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