ACEは落ちない 1
更新遅くなりすみませんでした。
札幌民報 16面
4月○日、ヒーロー『椿』さんにより、札幌市東区北16条東8丁目に出現した、Aランク怪人ヒトデナシとAランク怪人猫の手が駆除されました。
椿さんは地域住民の避難誘導をするとともに、怪人2体を引きつけながらの戦いで、不利な状況が続きました。しかし、粘り強い戦いを続け、気の緩みによるものなのか怪人による同士討ちがあり、そこから畳み掛けて、駆除に成功しました。
市民は「椿さんのおかげで怪我人が少なかった」「あんなキモくてトラウマになりそうな怪人は椿ちゃんじゃなきゃ倒せない」とヒーロー椿さんを称賛していました。
【ヒーロー椿を丸裸!】椿ちゃんの本名は? 学校はどこ? 彼氏はいるの? 今後のテレビ出演は?
北海道のヒーローと言えば、この人「ヒーロー椿」
凛々しい立ち振る舞いや近距離における魅せる戦いで多くの道民だけでなく日本中のファンを虜にしています。
謎の多い椿ちゃんの真相に迫ります。
『椿ちゃんの本名は?』
ヒーローweb図鑑には本名は登録されていません。
Facebook等のSNSの登録もなく、本名にたどり着く情報はありませんでした。
『学校はどこ?』
ヒーロー椿は札幌東区で現れることが多いので、札幌東区居住ではとSNSでささやかれています。
スクランブル出動も同区では断トツで多い状況です。
調査した結果、東区内の学校のホームページ内の写真や学校関係者のツイート等からは解明に至りませんでした。
『彼氏はいるの?』
……
北海道ラーメンランナー 23ページ
激戦区!札幌東区特集
『超英雄』
豚骨ラーメン専門店。こってりどろりとしたスープはクセがあり、人を選ぶ味だけど、ファンは多い。
スープの濃さは札幌随一。是非、替え玉や半ライスをスープにぶち込んで食べてほしい。
あまりサインを書かない『ヒーロー椿』のサインがあり、常連との情報もあるので、もしかしたら椿さんに出会えるかも。
えぞ小町 2ページ
『ヒーロー椿』風コーデ
椿の花柄を可憐にゴージャスに春らしくコーディネート
えぞ小町 3ページ
『ヒーロー椿』ちゃんにインタビュー
【ヒーローを続ける理由】
私の知っているヒーローって格好いい、というイメージが強いんです。
目の前の敵から決して逃げず、立ち向かう。そんな姿にとても憧れています。
だから、私も目の前の脅威から決して逃げたくないんです。
【ヒーローになっての失敗談】
初めてヒーローに変身した後、ヒーロー変身の解除方法がわからなくて、泣きそうになりました。
インターネットに載っている情報って本当にあてになりませんね。
【これからの抱負】
今までたくさんの人のお世話になりました。その人たちを失いたくありません。
また、北海道、日本、いえ世界中には素敵な場所がたくさんあります。
それらのために、ヒーローとして戦いたいと思います。
ちょっと偉そうな言い方なんですけど、とにかく頑張りたいかなーって、そんな感じです。
ヒーローインタビュー web版
【今日のヒーロー】
『ヒーロー椿』(北海道 Aランク)
札幌市内におけるスクランブル出動により、市民を守りながら、同時に2体のAランク怪人と戦い、駆除に成功。
市内への被害を抑えるため、全て近接攻撃による戦いを強いられ、怪人ヒトデナシによる触手攻撃、怪人猫の手による肉球触手攻撃という卑劣な攻撃を受け満身創痍になるも、命に別状はありません。
椿さんは、もっと次は被害を少なくしたい、と熱く語りました。
濃い豚骨スープの匂いを近くに感じた。
エゴサーチしまくりのタブがいっぱいの携帯端末から視線を上げると、マリンカットの麺屋超英雄の店長が、出来たてのラーメンの入った丼をカウンターに置いた。
いつも来る、ランチタイムから外れたこの時間はお客さんはほとんどいない。
「本当に儲かっているの?」
「吾郎さん、一応、人気店なんすよ」
店内の壁には僕が美少女姿で訪れた時に、店長からねだられた僕のサインのレプリカがある。壁の中でも一際目立つ場所に1つだけあった。他の有名人とか地元のテレビアナウンサーのサインもあるのだが、あれらは別のところに固まっていた。
「ふーん、椿様々なんだろ」
僕は割り箸を割ってラーメンを丼の底から少し混ぜてすすりはじめた。
いつも通りの味、豚骨に捧げる愛の深さほど濃い味だ。
「前からだよ。まあ、椿ちゃんのサインを飾ってからは、それ目当てのお客さんが増えたよ」
サインは2回盗まれたらしい。他のものは盗まれないから、それだけ価値があるそうだ。サインくらいならと書いて渡した。その時に記念撮影と言われて写真も撮られた。それらはサインのレプリカと一緒に店内に飾られてある。本物のサインは安全なところに保管しているそうだ。僕の適当なサインに価値が出るなんて思ってもいなかったな。
そういうわけで、要らぬトラブルを起こさせないためにサインは断るようにした。面と向かって断るのは辛いものがあるので、できる限り怪人を倒した後は早急にその場から離れるようにしている。
「正直でよろしいことだ。今度函館のダンジョン潜りに行くんだけど、どこか美味しいラーメン屋さんない?」
一応、この椿吾郎はダンジョンに潜る冒険者だ。間違ってもヒーローで生計を立てているわけではないのだ。怪しまれないようたまには冒険者ムーブをしなければならない。
店長は、はあ?、と僕に向かって声を出す。僕、客なんだけど。
「それ、ラーメン屋に聞く? というかラッキーピエロに行けばいいんじゃないっすか。ラーメンも出してくれる店舗あるっしょ」
「ラッピは絶対外れないんだけど、開拓したいんだよ。わかる?」
「そっすか……吾郎さんが好きそうな感じなら、函館の……煙が上がってくるような名前のラーメン屋さんかな」
「なんだよそれ」
「いや、忘れちゃってね、名前。味は本当に俺んところに近いよ。出汁の種類は魚介豚骨っすよ」
「それは期待できそうだ。そこの店の店長と知り合いなの?」
「全然。行きつく先が同じだっただけじゃないっすかね。そういえば、椿ちゃんとは親戚かなにかなの?」
「顔全然似てないだろ」
「いや、ラーメンに対する心構えというか、何か近いんすよ」
「半分でも似ていれば、今頃モテただろうな」
「いや、キン肉マンのアシュラマンになってたと思うっすよ」
「顔半分だけ椿ちゃんで残り半分僕とかクリーチャーだろ。ダンジョンにいたらマジ逃げるレベルだわ」
「俺も逃げるっす。それにしても椿ちゃんのヒトデナシとの戦いは動画で上がってないけど、なんかあったんすかね」
「噂だと、ヒトデナシの触手は衣類だけ溶ける特殊な酸がね、あと、肉球触手は一度触ると触り続けたくなるらしい」
店長は窓のそばまで行き、深くため息を吐いた。
「動画は公開されないっすね……なんで、そういう怪人引いちゃうんすか、あの子」
「マジでそういう星の下に生まれたんだろ」
怪人ヒトデナシの触手で、美少女ヒーロー椿のコスチュームはモザイク必須のボロボロ加減となり、怪人猫の手の肉球触手が触れる気持ち良さで張り詰めた緊張感が急に気が抜かれて、包悦してしまい、全裸よりエロい格好で悦に浸る顔付きとか、マジで悪夢だろ。動画が出回れば僕ではなく、瓜二つの元道りなが悪夢を見ることになる。アイコラ動画、風評被害待ったなし。
まあ、奇跡的にも、法悦に浸ってしまった時は、性的な快感ではなかったので、カメラを通してメタボリックブーメランパンツおじさんが映し出されたわけではなかった。でも、安心してください。パンツは一応穿いています。まあ、美少女姿から元のおっさん姿に戻ったらドン引きですね。
とりあえず、その撮られた動画はヒーロー局の機転で即時回収されたそうだ。
僕はおっさん姿でいる時間は少なくなって来た。正直、ヒーロー変身して美少女ヒーロー椿の姿のみで生活をした方が便利なのだ。
しかし、ヒーロー椿の姿は目立つし、変装してもバレてしまいやすいし、カラーコンタクト入れてガチガチに変装すれば元通りなと思われてしまう。
よく行くラーメン屋の超英雄に行けば、普通に店長に変装に気付かれるようになっただけでなく、頻繁に来るからこのラーメン屋の近くにコアなファンが隠れて見ているらしい。
恐ろしいこった。
まあ、そんなわけもあって気楽なおっさん姿も悪くない。おっさん姿に戻るためにはお酒がとんでもなく必要だけどね。
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