Bad end 5
いつも読んでいただきありがとうございます
狸小路は北海道で最古の商店街である。狸小路の商店街の上にはアーケードがあり、雨や雪、強い日差しを避けてくれる、素敵な通りだ。
狸小路7丁目、狸小路の端っこである。そこはアーケードは著しく古く、端っこな分だけ栄えていない。
しかし、端っこに佇むお店程、素敵な掘り出しものなのだ。
現在既にないが、北海道最古のメイド喫茶は狸小路1丁目に存在していた水出しコーヒーを入れてくれるマジ本気の喫茶店だったり、7丁目には謎のタロット占いをしてくれるお店や、有名なラーメン屋レッドスターがある。近くにミニシアターなんかもあり、ほんの少しの胡散臭さがスパイスになって、超絶おしゃれでドキドキするんだ、この界隈。
狸小路7丁目のアーケードからほんの少し外れたところにある男向けのイタリアンのお店がある。この居酒屋は、値段はそこそこかかるが、がっつりとイタリアンをお酒と飲みたい時におすすめなお店だ。もちろん、女性にもおすすめのお店だ。
外観と比べて広く感じる店内に、間接照明に照らされた置物がとてもいい感じだ
「椿ちゃんの快気を祝ってかんぱーい!」
音頭を取る高橋お姉さんが中ジョッキのビールを掲げて半分ほど飲み干した。白井君はそれを遠い目をしながら見守っていた。
ああ、そういうところなのかな……白井君といい関係が深まらないのは、と思いながら、ワインカクテルを飲む。白ワインとジンジャーエールを混ぜたオペレーターだ。甘いお酒が好きな僕にはたまらない。お肉盛り合わせからハムを摘んで口に入れて、またお酒を飲む。うん、うまい。美味しいものとアルコールの組み合わせは語彙力をどんどん崩壊させていく。
そうだそうだ、どうせ明日はやってくるんだ。嫌なことは酒を飲んで全部忘れちまうんだ。
「ところで椿ちゃん」
高橋お姉さんが、2杯目か3杯目の中ジョッキビールを右手に持ちながら体をグイっと近づけてきた。いい匂いとほのかな弾力を感じた。ヒーローのAランクと言っていたが、多分上半身の一部はEかFだ。賢者の指輪をしていなかったら、致命傷になるほどガン見しているに違いない。
「ははは。そんなに私の胸が気になるの?」
笑いながらそう言われたので、多分、僕が羨ましそうに見ていたように見られていたのだろう。実際はまあ、すげえなくらいの感じで見ていたので、全く外れというわけではない。
「どうやったら大きくなるんですか?」
そう僕が言ってみると、ふふん、と高橋お姉さんは鼻息を出して、
「遺伝!」
と胸を張る。あまり自慢にならんすよ。苦笑いする僕を見て、高橋お姉さんは少し笑った。
「思ったより元気そうで良かった。実はさ、椿ちゃんすごく気落ちしているように見えたから、結構心配だったんだ」
「そ、そうですか?」
「ほら、どもってる。椿ちゃんて顔や表情に出やすいよね」
そんなに顔に出やすいのかな、と思いながら周りを見ると、空気を読まなそうな元道とめちゃくちゃ空気を読んで料理を取り分けようとする白井君がこちらを見ていた。違うな、白井君は多分胸の話題にちょっと反応したやつだ。男のサガというやつだよ。僕なら絶対反応して、見るね。顔と胸をね。
「心配させてすみません」
「そんな謝ることじゃないよ。それで男にふられたたの?」
「違いますよ!」
「だよねー。店員さん、すみませーん! ビール中ジョッキ1つお願いしまーす! 私も最近困っちゃってさ、りなちゃんがさー」
高橋お姉さんが店員さんに手を上げてアピールした手をそのまま、ピッっと元道に向けた。
「ちょっと! あのことは言わないで!」
元道が高橋お姉さんの口を抑えようと必死になって後ろから羽交い絞めする。ああ、美少女たちが組み合っている姿とか眼福です。白井君もじっと見ていた。こりゃあ眼福ですね、と心の声が聞こえるようだった。
美少女姿になって良かったことは、こういうシーンが目の前で行われやすいことだ。流石におっさん姿ではなかなかこのようになることはないだろう。
考えても見てほしい。おっさんの目の前で美少女が組み合うとか、チートハーレムおっさんか親のどちらかくらいしかない。
白井くんはいいよね、イケメンだから不自然感がない。
ちっ、イケメンに出来立て熱々のピザを投げつけても許される法律ができることを心から祈ろう。
「あの大通りのピエロの怪人なんだけどさ、怪人だったんだよね?」
高橋お姉さんがチリ産の白ワインを飲みながら皿から今にもこぼれそうな山盛りの貝の酒蒸しを取って口に咥えた。貝の中に残った汁が旨いんだ。でも、この汁、リゾットにしてくれるから皿に溢れたやつを勝手にすくって飲むわけにはいかない。くっ、ころせ、と言いたくなる我慢を強いられる。
「多分、そうだと思いますが。怪人……ですよね?」
「放送で見たんだけどさ、怪人ってあんまりしゃべらないことが多いんだけど、ピエロはかなりしゃべっていたからヒーローの暴動かなって思ったんだけど」
そう言いながら高橋お姉さんが席を僕に寄せてきた。アルコールと高橋お姉さんの甘い匂いが濃くなった。
「私さ、ここだけの話だけどさ、元々結構ヒーロー殺しが仕事で来るからさ。ヒーローかもな、って思ったんだ」
耳元でささやかれた言葉に息をのんだ。
ちょっと耳元の響き方や息の感じ方がムズムズして、このまま持って帰りたい気持ちにならなくはないが、それよりもヒーロー殺しって何よと、思うわけです。やべえ、実は僕狙われてね?
「結構、力におぼれたヒーローとかさ、力を悪用するヒーローがいてね、何かよくわからないけど私はそういう適性があるみたいで、そういう仕事が多かった。だから、そういう仕事が入らない限りはりなちゃんの護衛任務に着けられているんだよね」
じゃあ、元道の側に高橋お姉さんがいない時は……考えないでおこう。きっと、迷惑系ヒーローが裏で一人また一人と減るだけなのだ。
「そういえば、椿ちゃん、昔にヒーローを倒したことあったでしょ。クリムゾンレッドだったっけ。炎使いの」
ああ、ヒーロー局札幌支部にカチコミしたヒーロー、いたなぁ。焦げた嫌な臭いを鼻腔が思い出す。
僕はうなずくと、高橋お姉さんは
「殺した後、力が体に入り込むような感じしなかった?」
そこまでその時は気にしていなかった。その時は、本当に気持ちが落ち込んでいたから、全然気にしていなかった。
でも、何とも言えないやるせない気持ちが流れ込むような、そんな感じはあった。それは今思えば別の意味合い、例えば元の体の解析とかそういうシステムが働いていたんじゃないかな、と思うけど、本当にそうかはわからん。
「公表はされてないし、そういう情報も教えてもらったことはないから、経験からしかわからないけど、ヒーローを殺しても怪人を殺しても、ステータスの倍率上昇があるの。上昇率は同ランクの怪人と同じくらい」
感想、ブックマーク等ありがとうございます。
誤字脱字報告も感謝してます。
ワインはあまり詳しくないのですが、ナイアガラみたいな甘いものが美味しく感じます。でも、たまにガツンとくるチリワインもいいですよね。私の舌は繊細ではないのでフランス産とかはあまり分かりません。わかるようになりたいものです。
とりあえずオペレーターは飲みやすくて美味しいです!




