Bad end 3
いつも読んでいただきありがとうございます。
正直、この内容で更新するかしないか迷いました。
この内容気に食わないという方、これじゃあTSじゃないんじゃね、等と思われる方、たくさんいらっしゃると思います。全然納得いかない、面白くないと思われる内容に感じましたら、私の能力不足に違いありませんのでブラウザバック等必要な処置を取っていただけると助かります。
実家の場所を間違えたのか、そんな馬鹿なことがあるわけない。いや、もしかしたら怪人の精神攻撃か。それとも、前の技による命を持ってかれた際に僕の頭がおかしくなったのか。
僕はまた3時間30分かけてバスに揺られた。本来なら寝て過ごすはずなのだが、気が動転していてそれどころではなかった。
自宅に到着し、おっさん姿から美少女姿になり、頭を落ち着かせるために風呂に入った。
賢者の指輪のせいで、目に入る美少女姿の太ももなどに欲情することがなくて安心である。そんな状態で鏡に映ったら、メタボ童貞ブーメランパンツのおっさんが鏡に映ってマジ怖いもんなのだ。特に今はヤバい。今にも自殺しそうな顔をしているおっさんの顔が映っているに違いない。
気分を少しでも落ち着かせるために、浴槽内に入浴剤を入れて、風呂場へ入る。人工的な森林の香りに囲まれた。
深呼吸する。
変なところやおかしなところはないか。体を触りながら確認する。指の先から髪の毛、足の先。立ち上がり鏡を見つめる。完全無欠のボディーラインのハーフ顔の美少女姿だ。赤い瞳に銀色の髪、ちょうどいいサイズの形のいい胸に、腰のくびれ、ほっそりとした足、艶のある白く磨かれた陶器のような肌、何も違いはない。
浴槽に入り、目をつぶり深呼吸を繰り返す。
ストレスのせいか、頭を使いすぎたのか、頭の中がぼんやりし始めた。
浴槽内の白い湯気が徐々に薄暗くなり、闇のような真っ黒な色に変わる。ところどころ白く、淡い点があった。
とても長い時間だった気がする。目の前には青い球体があった。
青い球体に近づくと、それがやがていくつもの色の集まりで、かなり近づいた時には緑色と土色が入り混じった場所だった。
それが広葉樹の木々だということに気が付き、周りを見渡す。知らない土地だった。
通り過ぎた大きな湖が僕の体を映す。ぼんやりと光る球体だった。
そこで、僕は風呂の中で明晰夢を見ているのだと思った。明晰夢とは睡眠中の夢の中で、夢だということに自覚する夢のことだ。夢の中を自由に行動することができて、記憶にも残りやすい夢だ。
浮いている僕はいろいろな世界を見て回った。雪に閉ざされた大陸、いつまでも抜けられない広大な砂漠、黒い森の中、終わりのない夏を繰り返す熱帯、内戦の続く街、飢えに苦しむ村、人とは違う人を笑う人々の映るテレビ画面。復讐を完遂して喜ぶ子供。
そろそろお終いにしようと思って空へ上がっている時、朝日に照らされた街が見えた。次々に動き出す人々。散歩中に挨拶を交わす高齢者と登校中の小学生。登校中に肩を組んで話す少年や並んで歩く少女、転んだ小さな子を起き上がらせる遅刻寸前のサラリーマン。電車で席を譲る人と譲られる人。それらを見ていると、心が少し和んだ。
仕事に失敗して怒られている人、その人をフォローする仲間、美味しい味を探求しようと厨房で試行錯誤している人、これからのことを話し合う仲睦まじい男女、公園で走り回る子供たち。
どうってことはない、よくある風景が目に入ると、それが妙に暖かった。
もっと、知りたいな、と思い、空を漂っているともう時間は暗くなっており、人の顔が近づかなければわからないような状態だった。
どうせ夢なんだろうと思って、びっくりされても問題ないだろうと、僕は歩いている少女を見つけて近づいた。
少女の顔が、明るくなる。物理的にね、僕が光の玉みたいだからね。
まぶしいからか手を目の前に広げた。
近づいた僕の頭に、急に記録されていくようだった。まるでコンピューターが解析をしているような感じだった。
少女の目が僕を一瞬だけ見つめた。誰かに似ているような感じがした。
少女は僕を見て驚いているようだったが、次第に興味を持って触ってきたり、ニコニコと笑顔を向けてきたりとコロコロと表情を変えた。それがとても可愛らしく、面白かった。
僕はその子から離れ、他の人を探し始めた。
僕はこの世界のヒトという生き物に興味が出てきたのだろう。
迷惑にならないように、どの程度が迷惑かはわからないけれど、気をつけながら近くに寄っては見て回った。
最初の少女ほどのヒトはいなかったが、とても面白かった。
僕はボロいアパートの窓を透過して進むと、せき込む男の声が聞こえた。男は何度もひどくせき込み、やがて静かになった。男の部屋はゴミ屋敷に近く、汚く、いつ飲んだのかわからない飲みかけの紙パック飲料や、色あせた雑誌が転がっていた。
近づいてみると、体温が徐々に低下しており、心拍もなくなっていた。
この時、光の玉はヒトに興味を持っていた。
この男は今死んだばかりだから、この男の体を貰う分には誰にも迷惑をかけるわけではない、そう思った。
光の玉はその男に入り込んで、全てを奪い取った。
姿見を見て、自分のものになっていることを確認し、取り込んだヒトからのデータ抽出を進めた。しかし、既に死んだ人から得られるデータはエラーが多く、芳しくない。このヒトの記憶が曖昧になって真実かどうかわからないような情報の塊が書き込まれていくようだった。
それはもう仕方ない。色々と調べれば、死んでないヒトを取り込むと、法治国家によってかなり面倒臭いことになりそうだった。
興味のあるヒトとなり少し生活をしてみよう。
少しずつ時間が経過するにつれて、光の球の時にはなかった人格というものが構成されていった。
それからは光の玉はゴミ屋敷になっていた部屋を清掃しながら人のことを学んだ。いつの雑誌かわからない雑誌を読み、趣味だったのかわからないが、おっさんがご飯を食べるドラマのDVDを見た。
清掃を終えたころ、街を歩きながら、人の常識を見聞きし覚えていった。
特に便利だったのは、小さな子供とその親が歩く時だ。小さな子供は、あれは何、なんで、どうしてと聞きまわる。案の定、公園で目の前を歩いていた子供が一緒に歩く母親に
「このお花ごと落ちちゃう花は何?」
と街路樹の名前を聞いていた。母親は面倒くさがることなく笑顔を向けて
「椿っていうのよ。昔はお侍さんの家で植えられていたみたいだよ」
「へえーそうなんだ。この公園を持っている人はお侍さんなの」
「どうなんだろう。わからないなぁ。聞いてみないとね」
そう、悪い悪戯でも成功したような微笑みを母親は作った。
僕はそこから離れていった親子を見守り、落ちていた椿の赤い花を拾って日にかざす。花びらから淡い光が漏れた。
僕は空腹を感じ、その花をポケットにしまって、歩き出した。
近くにラーメン屋がある。そこはどうやら、この体の元の持ち主が好きな店で、何度も通っていたようだ。
ラーメン屋の暖簾をくぐり、引き戸を開ける。ラーメン屋はランチタイムを終えてしまい、お客さんはもういなかった。テレビで再放送のグルメ番組が映っていた。元の体の持ち主が持っていたDVDと同じ、おっさんがただうまい外食をしていくだけの番組だ。
僕はカウンターに座り、いつものラーメンを頼んだ。すぐにラーメンが出てきたので、啜っていると短い髪の若い男、多分店長だろう、がこちらに声をかけてきた。
「お客さん、よく来てくれるけど近くの人?」
「そうです」
そう答えて、若い男の様子を見た。何か考えるような感じで恐る恐る僕に向けて口を開けた。
「ぶっちゃけ、どうっすか? この味」
元の体の持ち主は、濃い味が好きでこの店に通っていたことを思い出しながら答える。
「こくって、がつんとくるかんじ、うまい、です」
そう答えると、若い男は嬉しそうな顔つきになった。
「そうっすか! そういえばお客さん、お名前なんていうんすか?」
名前を急に聞かれて、僕は名前を伝えようとすると、記憶がエラーを起こしていて、名前がわからなかった。困ったな、と思いポケットの中から財布を取り出して身分証明書を探そうとした。
すると、財布以外のものが手に当たった。
「ツバキ……」
顔を上げると若い男がどうしたんだろうと、不思議そうにこちらを見ていた。後ろにはテレビ画面におっさんが旨そうにカレーラーメンをすすっていた。そのおっさんの名前、確か……
「ツバキ?」
「ゴロウ……ツバキゴロウ」
僕は、確かに、そう答えた。
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