Bad end 2
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1週間後、僕は特に異常もなく健康体ということで退院した。
退院したら、脂っこくて濃い味の物が食べたくなる。出前だけでは満足させてくれないのだよ。
特にラーメンだ。あの熱々で出来たてのものが欲しいのだ。
僕は変身解除しないまま、ランチタイムのとっくに終わった麺屋超英雄に入った。
この店のこの匂い。いいね。上品な豚骨の匂いを肺一杯に吸い込んだ。店には客は僕一人しかいなかったので、あまり深呼吸すると目立ってしまうので、そそくさとカウンターに座った。
店長は僕の変身姿を覚えていたようで、『おっ、また来てくれたんだ』というような驚いているような喜んでいるような表情をしていた。そうだよね、女性のお客さんに来てもらいたくて女子大の近くにお店を作ったのに、味がこんなにこってりな豚骨だから客層は脂っこい男ばっかりだからね。
僕はラーメン一つだけ注文した。あとで替え玉を食べたいからね。
この店もそうなんだけど替え玉に少しタレをかけて出してくれるお店はすごく出来たお店だと思う。
替え玉のゆで汁分、ラーメンどんぶりのスープが薄くなるので、タレをかけてくれないお店はちょっとがっかりしてしまうのだ。
注文してラーメンがすぐ出され、それを無心にすすった。
これだよ、これ。生きてもう一度食べられて良かったと思う心強い味わい。店長の豚骨愛を身に染みて感じる。
「お姉さんはこの辺の人なの?」
マリンカットの似合う細身の店長が、僕の様子を窺いながら声をかけた。
「いえ、ちょっと遠いです」
「マジか、また来てくれてありがとう。この味、結構気に入ってくれた?」
「かなりガツンと来ていい感じです」
「いやあ、良かった。あんまり女性がこの店こないもので、女性のお客さん来ると気になっちゃって」
すまん、僕の中身はおっさんなので、全然、客層の参考にならないのに、
「やっぱり宣伝なのかなぁ。もっと、SNSで……」
とか考え込んでいらっしゃる。マジですまん。
「そういえば、お姉さんは参考までになんだけどどちらの出身ですか。出身で味の好みが違うと聞いたことがあったんだけど」
「北海道の〇〇町です」
「ああ、吾郎さんと同じところか……吾郎さん味濃いの好きだからなあ……○○町の人味濃いめが好きな傾向にあるのか……」
すまんね、〇〇町の町民の皆さん、僕のせいで店長に町民みんな濃い味が好きだと思われているわ。お医者さんが聞いたら、腎臓専門のお医者さんが病院を急いで建てるレベルだ。
それにしても、実家の〇〇町にしばらく帰ってないな。母さんの作るボルシチが食べたくなってきた。父さんのバナナの木も気になる。あれ、手入れちゃんとしないと死んじゃうから、気になるんだよな。しばらく会ってないから、きっと白髪も大分増えただろうな。
実家に帰れば、〇〇町から離れなかった友人がいるだろうから、酒でも持って遊びに行こう。なんだかんだで金と時間はある。ヒーロー局からの呼び出しがない限りは。それにいつか、この自爆技のことがばれて使うことを強要されて使う羽目になるかもしれないし。今のうちに時間を有効活用しよう。
美少女ヒーローの変身を解除して実家に向かう。自宅で変装して外に出て、トイレで普段着に着替えて出かけるとか、僕の本当の姿はどっちなんだよ。
札幌駅からバスに揺られて3時間30分くらい経過して、バスを降りる。
〇〇町。奇跡的に怪人、怪獣らの出現がなく、建物もほとんど生き残っていた。
国道沿いのバス停から町の中を歩くと、田舎特有の、知らないやつだ、という目で見てくる高齢者にすれ違う。おいおい、美少女ヒーロー姿じゃなくて、いつものおっさん姿だぜ。お、〇〇さんところの息子かな、みたいな感じで見てくれないと困る。きっと、認知症の爺婆に違いない。
日中からシャッターの閉まった商店通りを通り過ぎ、大きな公園を横断して、実家の前にたどり着いた。
実家は無かった。
実家の建物はなく、土地は荒地だった。芽が出始めたクローバーやふきのとうの蕾もところどころにあり、しばらく使われていない土地なのは明らかな感じだ。
おいおい、僕の知らないうちに解体したとか、何してんの父さん、母さん。
隣に住んでいるおばあちゃんに声をかけると
「え? 隣の家なんて30年くらいないよ」
何言ってんだ。俺今年で35歳なんだぞ。高校生くらいまで住んでいたぞ。
僕は、言葉を丁寧にしておばあちゃんに話しかけ、詳しく話を聞きだしたが、
「椿なんて人、ここに住んでいなかったよ。ここは●●さんの土地だったよ」
と言うのみだった。
「そんな馬鹿な」
僕は呟きながら、おばあちゃんの顔をよく見る。このおばあちゃんの顔、隣に住んでいたはずなのに知らない。
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