Camellia bloom 7
いつも読んでいただきありがとうございます。
たくさん書ける時間があったので更新します。
マクドナルドで食べ残したマックポテトL2個と飲みかけのコーラを取りに戻ろうととぼとぼと歩くが、もう冷え切ってしまっているだろうし、コーラの氷もきっと全部溶け切ったころだろう。
美少女ヒーロー姿で目立ちまくっている中、マクドナルドに戻ればめっちゃくちゃ人だかりができそうだし、お店に迷惑をかけてしまう。
いや、戻ったら、ヒーローで怪人を倒すのに頑張ったで賞で同じ商品をもう一度もらえるような気がする。……やっぱり無理だ。かなり恥ずかしい。とりあえず変装用で使っていたコートを探した。戦闘中に着ていると速攻でボロボロになるので道端に脱ぎ捨てて放置していた。
すると、中学生くらいの男女4人が僕の脱ぎ捨てたコートを持ってきてくれた。
「す、すみません、椿さん、写真いいですか?」
とその中の女の子の一人が上目使いでスマホを見せて言う。コートを拾ってきてくれた人たちのちょっとした依頼を無下に断るわけにはいかない。
「コートありがとうございました。写真ですね、いいですけど、みんなで入って撮りましょうね」
と言って4人を密集して集めて写真を撮る。当然、エロいことは思いませんよ。自分の人生、自爆したくないっす。
でも、この写真のボロボロのコスチュームとか、ちょっとやばいよね。ほら、男の子、ちょっと赤くなっているじゃん。チラチラ胸のあたりとか見てるじゃん。だから、そういう視線はわかるもんなんだぜ。というか、これの中身が35歳のメタボ童貞おっさんとか知ったら、君らの性癖歪むぜ。絶対に言えないね、彼等の明るい将来のためにも言えないね。
受け取ったコートは羽織らず、もう一度感謝を伝えて、そのまますぐに空に向かって飛びあがってビルの屋上へ着地する。変装する時の姿を見せたら流石に変装の意味がない。変装していても普通に指さされてばれるのは明らかだ。コートの中のサングラスを付けて、別のビルの屋上へ、そして別のビルの屋上へと飛び、人のいない路地を見つけて降り立つ。
ヒーローは人類の希望であり、希望となる者が嫌われるわけにはいかない。でも、全部が全部の希望に添えられるわけではない。でも、少しぐらいのサービスなんて減るもんじゃない。ぶっちゃけ、全裸で撮影されても僕はなにも減るものがない。本体は35歳の童貞おっさんで、実在しないヒーロー椿なんて全くの無傷。痛いのはコラされる元道だけだ。
いや、やめておこう。元道からのヒーロー椿に変身時の僕へのヘイトが高まるだけだ。最近減って来たのに、あえて元道と戦争をする理由がない。せっかく入れてもらった部屋を何らかの法的手段で撤去されるかもしれない。そんな法律知らないけど。ふぅ、それにしても……
「……腹減ったなぁ」
降り立った路地の周囲を見渡すとまだ大通り付近だ。何かいいお店ないかなと考えると、いいお店があるじゃないかと思い出した。
北海道のラーメン史、いや日本のラーメン史を語る上で外せない店だ。
味噌ラーメンの発祥のお店である。
どこだかのテレビ局が、客から豚汁にラーメンを入れてくれ、と言われたのが始まりと言っていたが、取材が足りない。
実際は、初代オーナーが、味噌は体にいい、という理念を元に味噌汁をヒントにして、ラーメンを味噌で味付けできないかと、開発されたものだ。
そのラーメン屋さんは過去にはすすきので経営されていた。当時の状況を知る人の話では、その店に来るためだけの本州からツアーが組まれたほどの人気だった。現在は大通りにある大丸藤井セントラル4階に移転している。
当時ほどの異様な人気はないが、客が途切れることがない。
店員さんの服装は昔ながらの中華屋さんのスタイルの白い服。店舗はカウンター席だけ。店員さんから席を勧められて座ると、
「コートは後ろにかけれますので、どうぞ使ってください」
と言われる。コートを脱ぐと僕はいろいろと困るので、曖昧にはにかんで笑う。もちろん、コートの中は全裸ですとか事案の格好をしているわけではないからね。
僕は味噌ラーメンを注文して、しばらく待つと濃厚な味噌の香りが漂うどんぶりが置かれる。
「下に味噌がたまっているので、下から上に混ぜてから食べてください」
と食べ方を丁寧に教えてくれる。ちなみに、その教えを無視して食べても怒られるわけではない。混ぜて食べないと気の抜けた味がするということもなく、むしろそちらの味も味わってから食べるべきだと思うレベルだ。しっかりとした中華だしがきいている。
でも、不思議な感じがしないかい。出されたばかりの味噌ラーメンの汁の味噌が既にドンブリの底に溜まっているって。
どんぶりに箸を入れて麺を混ぜると白色の味噌がどんぶり全体に広がっていく。
麺をすすって味わう。昔ながらの味、というものではない。新しい、でもない。コクがあり、甘みも感じ、しっかりとした出汁が混ざり合った味噌ラーメン。
札幌のラーメン屋さんは当然浮き沈みが激しい。
その中で戦後間もない昭和の時代からの生き残りのお店の味、これは伝統だから残っている、というものではない。昔ながらの味なんてすぐに掃いて捨てられるレベルだ。
この店の味噌ラーメンは一つの味噌ラーメンの完成系の味なのだろう。恐らく時代ごとに味は少しずつ変わっているのかもしれないが、生き残るラーメン屋の味が何なのかわからせられてしまう、メスガキ的な意味で。
味が濃すぎるわけでもない、こってりさせているわけでもない、目新しい具材を入れているわけではない。人間という種が旨いと感じる一つの黄金比を完成させたものであり、次の世代に引き継がれるべき一つの遺産だ。
お客さんは途切れないとはいえ、ランチタイムを大幅にずれ込んだ時間だから客はほとんどいない。僕を入れても3人しかいない。
店員さんがシューマイを1個小皿に乗せて僕の前に置いた。
「お姉ちゃん、良かったらこれも食べて。旨かったら今度来た時に注文してよ」
店員さんのさわやかな笑顔がまぶしかった。僕はあわてて、ありがとうございます、と伝えた。多分声が裏返るか噛んだかしたと思う。
仕事に疲れてげっそりしたおっさん姿で来た時にはライスを無料でつけてくれた。多分混んでいない時間だからしてくれたサービスだと思うけれど、こういうなんか人情のあるサービスをこっそりしてくれる人たちだからこそ、旨いラーメンを提供し続けることができるんじゃないかなと思う。商売も大事だけど人柄も大事なんだ。人柄が良いお店には、もう一度来たくなるもんだからね。
今度来た時、サイドメニューも注文しよう。
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