Camellia bloom 2
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大手不動産屋の方々から、門前払いを受けた。どういうことだろうか。僕はブラックリストに登録されるようなことはしていないはずだ。今のアパートだってしっかり家賃を払っているし、入居する時も……。
僕はとぼとぼと歩きながらコンビニへ入ろうとする。コンビニに入って落ち着こう。外は寒いのだよ。氷点下の世界はお肌に悪いのだ。表面がかさっかさになる。お肌以前に、内臓のどこかが悪くなってきているんじゃないかと思うくらいの、かさっかさ具合だ。必ず加湿器が必要な北海道の冬をなめない方がいい。
コンビニの出入口に僕の姿が映り、自動ドアの表面が鏡になっている珍しいコンビニだ、と思いながらそのまま歩くと、鏡の中の人とぶつかる。
「あ……すみません」
頭がバグったのかなと感じながらぶつかった相手に頭を下げる。同じ女性の体をしているのに弾力が若干少ない気がした。
「ちょ、おま、どこ見てんのよ」
何、この狂犬。よく見たら顔が瓜二つの元道りなだった。椿吾郎で会った時はいい子だったのに。
「りなちゃん、先歩くのやめて。護衛の仕事が……あれ、椿ちゃん」
元道りなのすぐ後ろから駆け寄ってきたのは、彼女の護衛の仕事請負中の高橋お姉さんだ。こちらにぶつかっていたら、胸の弾力がそれなりで気持ち良かったかもしれない。いや、そういうことじゃない。そこで僕は先ほどのことを思い出して、元道の両肩をつかんだ。
「お、お前のせいかあああああ!」
「つ、椿ちゃん、ビークールだよ、びーくぅーる!」
コンビニを出て、近くのコーヒーチェーン店のドトールコーヒーに入る。
注文した品を受け取り、二階席の端っこに3人で座った。元道と高橋お姉さんが何を頼んだかあまり聞いていなかったが、僕はハニーカフェオレのラージサイズだ。ドトールコーヒーの中にあるハニーカフェオレは僕の心の安定剤だ。どんな時も僕の心に寄り添ってくれるような優しい甘さとコクがたまらない。
「ツバキ、変装したら私と間違えられて不動産屋から追い出されたって? マジうけるぅー」
元道がやり返してやったぜ、イエーイ、というように僕に嫌らしく笑った。
元道の親族元通りんは建築物を直す特殊な能力のヒーローで、建築業界や不動産業界から心底嫌われている。元道も彼らから嫌われており、命まで狙われているのだ。
そんな元道に瓜二つの僕が髪の毛を帽子で隠して、黒色のカラーコンタクトを付ければ、元道と見間違えられる。こんなところで引越しの出鼻をくじかれるとは。
「ちょっと、りなちゃんやりすぎだよ」
高橋お姉さんがたしなめてくれた。35歳のおっさんも流石に堪忍袋の緒が切れそうだぜ。どんな気持ち?、と煽られている熊のAAみたいな状態だぜ。
「まあ、そんなわけで、住むところに困っているわけですよ」
「そんなに引っ越ししないといけない理由でもあるの?」
「最近、注目されまくりみたいで、身の危険を感じてオートロックある共用玄関とか、自分の部屋の出入り口が見えないように玄関前に壁がある部屋とかを探していて」
「そうだよねぇー。椿ちゃんD以下のランクの時から目立っていたし、Cランク以上になると結構な取材が入ったりするし、家がばれると家の出待ちとかファンにされたりカメラ向けられていたりすることあるからね」
「ちなみに高橋お姉さんは結構そういう目に遭っているんですか?」
「家ばれた時は、プレゼント送られてきたり出待ちされてサインねだられたりしたのは可愛い範囲かな。他にも、頼んでいないピザが帰って来たと同時くらいに届いたり、数軒先の部屋から、自宅の窓に向かって常時望遠カメラで録画されていたりしたよ。最後のは流石にヤバい人だったみたいで捕まってたよ」
「どんなに身体が強くても休まらないっすね」
「そうだよね、外で待たせていると思うと行かなきゃいけないような気分になるし、気を遣うし、だらしない格好してゴミ出しに行けば、こんな格好もするんですね、みたいな感じでカメラ回されるしね。ファッション雑誌買う様になったわぁ」
「高橋さん、引っ越そうよ!」
「うん、流石に引っ越したよ。あのままだと病んじゃうよ。椿ちゃんも早く引っ越した方がいいね。聞く限り、オートロックも無いし、部屋もどこの部屋に住んでいるか丸見え状態なんでしょう?」
「そうなんですよ。でも、変装しないと目立つし、目の色とか黒にしないとね。そうすると元道さんと間違われて不動産屋に入れないんですよ」
「ホント、うけるぅ―」
「りなちゃん!」
「はいはい。……ツバキ、あたしの持っているマンションに住む?」
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