Fラン 3
鏡がダメならば、と携帯電話のカメラもダメだった。多分映像素子を通すとダメなのだろう。
僕のリビドーはもうどこかへ行ってしまった。
端的に説明すると、
美少女ヒーローへの変身後にエロ利用はできない
ということだ。
僕がエロいことを想像して、その姿を鏡で映したり、デジタルビデオカメラなどを通すと、元の姿、しかも黒のブーメランパンツ一丁の姿が映し出される。
裸眼で見える腕や足のほっそり加減から、変身自体は解除されていないようで、あくまで、鏡やビデオカメラを通した姿のみ黒ブーメランパンツおじさんとなっていた。
自分の身体利用もそうだが、いわゆるエロ本、エロ動画などを見て性的興奮を高めたり、他人を見ても同様に、鏡に映されるのはブーメランパンツのおっさんだった。
性の搾取は無かった。安心して欲しい。このおっさん犯罪者ではなかったんです。
まあ、未遂罪で言えば外的要因でその犯罪が中止される、障害未遂なんですけどね。
そんなことどうでもいいんですよ。
エロヒーローチューバーとしての収益化の夢が途絶え、この先、僕が生き残るにはどうしたらいいんだ。
普通に仕事を続けるしかないっすよね。まじふぁっく。
札幌市。創世紀元年の怪人、怪獣発生による被害は甚大だった。
ビジネス街の大通り地区に繁華街の狸小路や薄野地区は瓦礫の山になった。
復興事業を進めるにも、瓦礫の撤去からだし、いつどこで怪人が急に発生するかわからない。
そんな時現れたのは、復元のヒーロー『元通リン』だった。人の記憶を元に、瓦礫に謎の力を注ぐと、あら不思議、建物が復元されるではないですか。しかも、耐震、耐火性能もバッチリ、怪人からの攻撃も数回程度では壊れないとの耐性付きで、復元された建物は200年以上維持されることとなった。復元の神と讃えられる元通リン、そのおかげで建築業界が弾けたので『建築業の破壊神』とも言われている。
そういうわけで、札幌市の町並みは創世記以前から変わってない。ススキノにはでっかい蟹の足が動いているビルがあり、ワイが育てた旨言い残したクラーク博士の北海道大学や、その北側にある大雨で時々浸水する環状通エルムトンネルとかも未だなくならない。札幌の主要な建物はほとんど元通リンによって復元されたのだ。
僕の今日の配達ルートはいつも通りの札幌市東区の丘珠だ。
丘珠は現在札幌市中心部の郊外で、住宅や大型スーパー、大型ホームセンターなどがあり、丘珠空港もある。
創世記元年に丘珠空港も破壊されたが、元通リンによって復元されている。当時のとおり、北海道以外へ行く便は静岡県行きしかない、小さな空港だ。
ちなみに、復元する際に地元のおばあちゃんの記憶を参照して復元したら、瓦礫まみれの空港跡地は、一体どういうことでしょう、一面綺麗な玉ねぎ畑に早変わり。丘珠空港ができる前、丘珠地区は札幌黄という品種の玉ねぎの特産地だったので、玉ねぎ畑となったのだ。復元された玉ねぎ畑で収穫された札幌黄の糖度は通常の札幌黄に比べ、5パーセントも高く、札幌リンという新種として現在も育てられている。もちろん、空港の管理者がゲキ切れしているんだか号泣しているんだかわからないような顔で元通リンに迫って再復元してもらい、現在の丘珠空港となっている。これを丘珠空港玉ねぎ畑事件として語り続けられている。
玉ねぎのことを考えていたのは、配送拠点から丘珠地区へ向かう際、玉ねぎを一個まま入れる美味いカレー屋の前を通ったからだ。
そして、そんなどうでもいいことを考えている時、出来ればやめてほしい仕事中というタイミングで、怪人・怪獣発生のアラームが町中に鳴り響き、少し遅れたタイミングでもらった携帯端末からの出動要請が入った。
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