Drop dead D! 8
いつも読んでいただきありがとうございます。
今年最後の更新になります。
病院から出て僕は、寒さと雪の量に震えた。冬の札幌は毎年降雪量が増えているように感じる。
除雪や排雪が間に合わなく、小道まで管理が行き届かない。本当に酷い時は小道にある自宅へ帰れなくなった車が大きな通りに列をなして一夜を過ごすのだ。
そんな中、頭の狂ったやつが深夜に除雪するな迷惑だと市に苦情を入れるそうだ。お前の家の前だけ除雪してやんねえぞと代わりに言ってきてやりたい。
雪が積もり、道に雪が溢れる寒さになると、身体が芯まで温まる
ポタージュ系ドロドロスープのラーメンを食べたくなる。僕をポタージュ系ドロドロラーメンの虜にしたラーメン屋に向かった。
どこかで変身を解いて、そっと孤独に食べたいと思ったが、途中でスマホのカメラを向けられていることに気づいた。一人二人ではない、本当に注目されているようだった。
僕は適当に服屋さんへ入り、帽子とサングラス、コートを買い込み、店員さんに事情を説明するとありがたいことに裏口から出させてもらった。その代わりサインをねだられた。快く書いて渡すと、家宝にしますとか言われ、逆に申し訳ないと思った35歳の童貞です。
新たに買ったコートと帽子を着込み、ラーメン屋に急いだ。
札幌の中でポタージュ系のこってりどろりのラーメンの走りとなったラーメン屋さんは、その名前と店舗は残っているが、店長が代わりガラリと味が変わってしまった。知らずに行って、なんとも言えない気持ちにされたものだ。
数年後にそのラーメン屋の店長が新たにすすきのに店を構えた。風俗街に行く前にご利用される人が多い日劇ビルから東方向に歩くとそのお店はある。
お店は9人くらいしか座れないL字型のカウンター。何度も通って覚えた懐かしい匂いが室内にこもっていた。
久しぶりに食べるこの店のラーメンに思わずこみ上げるものを感じた。
こってり、どろり、そしてほのかな甘み、一本筋の通る味噌の風味。一口、口に入れると口の中に輝く風が入り込み、大量のコラーゲンが唇にまとわりつく。
出会えた奇跡、もう一度復活して再び出会えた奇跡。残念ながら、既にその店長さんは亡くなってしまったが、その味が存続している奇跡。
ラーメン屋は競争率が激しく、新規の店が1年生き残ることは、ほとんどない。ラーメンは本当に一期一会であり、美味しいラーメン屋に出会えることなど奇跡なのだ。
箸を止めて周囲を横目だけで見回す。一心不乱に啜る人や自分のラーメンを待ちながらスマホを操作する人。今日、怪人に襲われることなく、安心して温かい食事を摂れるのもまた奇跡。
しかし、何度も奇跡は続かない。そう、何度も続かないのだ。
なし崩し的に格上相手に戦う羽目になり、生き残ることは普通できない。もう一度はないだろう。
そもそも、僕が元々ヒーローのランクを上げたいとか、有名になりたいとか思って、禁止されているダンジョンでのレベル上げ等をしているわけではない。質素に生活できる分の報酬を安全に得るために、レベル上昇に伴うステータス上昇により、少しだけでも怪人を楽に倒せるようにと、こそこそレベル上げしただけなのだ。
蛮勇の結果の奇跡等、褒められたものではない。
しかし、奇跡は心に強く焼き付けるような感動や記憶となるのも事実だ。
例え、それが一種のテロリズムであっても。
ヒーロー局札幌支部を壊滅させたヒーローが音頭を取って始めた回復ヒーローの職場環境改善運動の一つの手の甲への医療シンボルのステッカー。
隣に座ってラーメンを啜る女性の手の甲にも貼られていた。
まあ、当然、褒められた手法ではないけどね。
どろりとしたスープを飲み干して、店を出る。手袋のない手はすぐに冷めたくなり、コートのポケットに差し込む。
周りを確認するが、誰も僕に気がついているように見えなかった。
さて、帰るか、と僕は地下鉄駅へ向かおうとすると肩に手をかけられた。思ったより相手の力が強かったので驚いて振り向いた。
「あんたぁー、入院しているんじゃなかったの?」
馴れ馴れしい声で、聞き覚えのある声だった。頬を赤く染めた僕の変身後の顔に瓜二つの顔つき。元道りなだった。夜空に漂う白い息がアルコール臭かった。
「お久しぶりです……ね。お酒飲んだ?」
未成年と聞いていたが、大丈夫か? いや、大丈夫じゃないだろうね。なんか、元道を見ていると、酔っ払って迷惑をかける上司のおっさんを見ているようだわ。
「ちょっと、元道さん、迷惑かけないでください」
元道の後ろから灰色チェスターコートのメガネの若いイケメンが走ってきて元道を止めた。
おお、とうとう彼氏でもできたのか、いや、未成年に酒の飲すのはまずい彼氏だろ。別れた方がいい。というか、童貞戦士は未成年カップルなんて許さん。何より、けしからん。片方が未成年とかもっとけしからん。別れないなら、少子化国家日本のために7人くらい子供を産み育てるべし。
そんなこと思っていると、もう一人紺色のダッフルコートを着て赤茶色のブーツを履いた大学生くらいの女の子がやってきた。
「りなちゃん……あれ、りなちゃんって兄弟いたっけ」
僕の顔と元道の顔を見比べながら、女の子がそう言った。
「違うよ、この子は椿さんだよ、ほら、この前ダイヤモンドタイマイを単独で沈めた」
若いイケメンがそう説明すると、急に姿勢を正した。
「申し遅れました。あの……僕は、ここだけの話なんですけど、ヒーローで黒の夢を名乗っています」
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