Drop dead D! 7
いつも読んでいただきありがとうございます。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、毎週月曜日18時更新しています!
「もう体は十分回復していますが、1週間ほど療養しましょう」
白い壁、白いカーテン、前に入院した個室と全く同じ個室のベットに横になっていた。
横には前に死にかけた時に見てくれたお医者さんとちょっときつい美人の看護師さんが立っていた。
話を聞くと、回復ヒーローがあの戦いの現場に出動して、治療をしてくれたそうだ。前回ほどボロボロではなく、治療後は念のための検査等のため、こちらの病院に運ばれたらしい。
「いくらSランク怪獣が相手だったとはいえ、自爆するような技は今後控えてください。どんなヒーローにだって家族や友達、それにファンがいるのですから」
お医者さんはため息を吐いて、個室から出て行き、去り際に看護師さんが
「抜け出してラーメン食べに行かないでくださいね」
と無慈悲な言葉を投げかけて出て行った。でも、病室のテーブルの上には出前に来てくれるお店のリストを置いて行ってくれた。言動に似合わないなかなかの天使っぷり。この人、多分ツンツンツンデレなんだと思う。
メニュー表を取ろうとそっとベットからはい出ようとすると、ノックの音が聞こえて返事をする。
「ヒーロー局情報課の遠藤です」
一瞬誰だろうと思ったが、僕にヒーロー局の知り合いだなんて、僕の契約を取ろうと説得をした髪の毛の薄くなった遠藤修さんくらいしかいない。
僕は体をベットに戻し、しおらしい感じの美少女っぽい表情をして、遠藤さんを招き入れた。
「体調の方は大丈夫ですか」
「はい、問題ありません。回復ヒーローの腕が良かったのだと思います」
そうですか、と遠藤さんは呟き、
「ちょっと聞きたいことなどありますので、横に座らせてもらいます」
と言って近くにあった椅子を持ってきて、僕の横に座り、ビジネスバックから、紙包みを取り出した。
「まずお礼です。ヒーロー局札幌支部に対する襲撃で、生き伸びた職員たちからの君へのささやかながらのお礼です」
紙包みを見ると、ヒーロー局の売店には必ずあるヒーロー饅頭だ。6個入りの白あん入りの饅頭で、ヒーローがデフォルメされて描かれており、初代とか魔女っ子等の誰もが知っているヒーローがランダムに入っている。
ありがとうと言って受け取ると、
「私も助けられた一人です。本当にありがとうございます」
と遠藤さんがそう言い終わると、急に遠藤さんは表情が消える。
「ところで、どうしてせたな町の沿岸にいたSランク怪獣に戦いを挑んだんですか」
あ、やべぇ、これ結構なレベルで怒っている時の雰囲気だ、と察した。僕は下手な返答はヤバいな、むしろ元々僕が男で近所に住むお爺さんと釣りをしていたら成り行きで戦うことになった、と本当の話をすると、元々だらしないおっさんの見た目が変わって美少女になっていることがばれるので言えない。
僕が返答に困っていると、
「別に、どんな理由で挑んだかはどうでもいいです。Sランク怪獣を討伐失敗したらどうするつもりだったんですか。あなたは自分の選択で勝手に死ぬだけでおしまいですが、周りは大変な迷惑を被ります。想定していた作戦時間からずれてSランク怪獣が動き始めて沿岸どころか内陸部まで入り込まれて被害に及んだかもしれませんし、もしくは別の外国の方へ進んで、外交問題に発展したかもしれません。あなたが単独で戦ったことがどんなに危険なことだったかわかりますか?」
と、やっぱり遠藤さん激ギレしている。無表情でキレている。こういう時は、絶対に言い訳をするとさらに怒らせてしまう。絶対に言い訳や、いえいえこういうわけでそれしかできなかったんです、という説明はしてはならない。
「す、すみません。二度としません」
僕は頭を下げた。前髪で僕の顔がすだれ状に隠れた。すだれ状の髪から遠藤さんの顔をちらりと見た。反省してないと思われたら面倒なので、ちょっと怯えるような感じで表情をつくろった。
遠藤さんは、僕の表情をじっと見つめて、深くため息を吐いた。
「こんなこと、10代の女の子に私も言いたくありませんが、成り行きで成りたくもない情報課のトップになったので、ヒーローへのしっ責については私がしなければならなくてね。管理職なんてろくでもない面倒な仕事ばかり押し付けられる……」
よくよく遠藤さんの髪の毛みたら、前よりも隙間ができて悲しくなっていた。そうなんだよなぁ、管理職ってデスクワークできて指示命令できるから、マジで楽そうと思うけど、実際は責任は重たいわ、ちゃんと動かない部下の尻ぬぐいをしなければならないわ、役職になるから時間外手当というものがなく、正直、下手な役職への昇進はご遠慮したい。
「まだニュースは見てませんか?」
唐突に遠藤さんが話題を変えて、病室の個室の中にある電源のついていないテレビを指さした。僕は首を振った。
「みんな、あなたをSランク怪獣を倒した英雄として褒めちぎっています」
「怪獣、私が倒したんですか?」
「ええ、全く知らなかったんですか?」
「爆発するパイルバンカーをダイヤモンドタイマイの目玉の裏から脳に向かって撃ったことまでは覚えているんですが、その後は全く覚えていなくて……。沿岸の被害はなかったんですか?」
「あなたがその自爆技で死にかけた以外は何もありません。強いて言えば、いつもの国のヒーローが手柄を横取りしようと自分がやったと延々と言っていたくらいですね」
「近くにいた漁師のお爺さんは大丈夫でしたか?」
「ああ、それがあった。漁師のお爺さんは全然大丈夫だったけれど、そこの船に乗っていた30代の男性が行方不明でね」
それ僕ですわ。遠藤さんの顔をじっと見るが、僕に何か疑いの目があるわけではなさそうで、よくある怪人、怪獣の被害を語るようであった。
「そうですか……」
僕はそれはそれはとても残念です、みたいな感じで落ち込んだ表情を作った。背中には冷たい汗が一筋流れた。
「いずれにせよ、札幌の市街地をAランク怪人による砲撃から身を挺して守って撃退し、札幌支部を救い、Sランク怪獣を被害最小限で単身で倒し、語り継がれるべきヒーローの一人と周囲は認識しています。だからこそ、もう二度と無謀なことは絶対にしないでください」
遠藤さんは腕時計を見て、もう時間か、と呟き立ち上がった。
「ヒーロー業に復帰する時は早急に連絡してください。あと、こっそりまた病院を抜け出してラーメン屋に走らないでください。いろんな人があなたのことを注目しています。余計なことでメディアやネットで叩かれたくなければ行動を律するようお願いします」
うぅ、前に抜け出してラーメン食べに行った件はヒーロー局に筒抜けだったか。
遠藤さんが個室から出て行ってすぐ、しばらく何も食べてなかった僕のお腹が鳴った。
僕は早速ヒーロー饅頭の紙袋を開け、ケースを取り出すと、見知った顔が6個現れた。
デフォルメされた美少女ヒーロー椿の顔だった。
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年末にもう一つあげられそうなら頑張って書き上げます




