Drop dead D! 6
いつも読んでいただきありがとうございます。
どうしても椿吾郎視点で素敵な感じに書けませんでしたので、以前登場した北海道唯一のSランクヒーロー黒の夢の視点で書かせていただきます。
北海道を管轄とするSランクヒーロー黒の夢とは僕のこと。
黒いロングコートに白いスーツに黒色のドレスシャツに赤色のネクタイを締めて、気障ったらしい黒色のロングヘア。
細マッチョな体付きについた切長の瞳で世の女性という女性の心を奪う。
という設定です、はい。
本当はただの陰キャです。
高校を卒業して大学デビューを果たすんだと、思っていた時期が僕にもありました。
服の雑誌を見て、しまむらやユニクロじゃない札幌駅や大通の服屋さんに行って服を揃えて、メガネもおしゃれな感じのメガネに変えて、香水まで手を出して、色々頑張ってみたけれど、なんていうかさ、自分から同性にすら声かけるのできなくってさ、大学デビューは不発に終わって、気がついたら高校生活同様にボッチになりました、はい。
別に、ヒーローに覚醒した後、僕のことをあまり気にしてくれない世の中に一矢報いたい、だとかそんなことは思ったことはないです。
強いて言えば、僕がぼっちなのは仕方ないことなのかなぁ、って。
ギター買って弾き始めれば陰キャから離脱できると思ったら、ただのギターが好きでアニソンばっかり弾いている痛い人と思われたり、服をこだわっても、このおどおどした口調だからファッションオタクだと思われただけだったり、美容室行っても上手く声を出せなくてUターンしてきたり、もう僕は陰から離脱できないんです。
もう、いっそのこと陰から出て行かないで、自分が好きなことをしてそのまま生活していければそれでいいんじゃないかって思いました、はい。
人は嫌いじゃないです。父も母もすごくいい人だし、兄弟もいいやつばっかり。近所の人も気にかけてくれるし、仕事行く宛がなかったらうちで働かないか、と近所に住む友達の親が自分の会社を勧めてくれる。
ただ、自分がちょっとだけ陽キャみたいになれたなら、と思うことはあるけどね。
怪人が現れて、自分の近所や家族が危ない目に遭おうとした時に、僕はこの性格に見合わない力を得て、怪人や怪獣を次々に倒した。黒いコートをはためかせると、黒色の羽根が飛んで行き、怪人を機銃で撃ち殺すようにバラバラになったり、空を飛んで鼻歌を歌うと、怪人は動きが止まり、そこへ僕は指パッチンすると怪人の心臓から大きなバラの花が咲いて即死した。
もう、チートだ、チート。あり得ん、やばいやつ、みたいなバカ性能のヒーローだった。この力を使う僕でさえ、これ高性能過ぎてヤバイやつだわ、と思うくらいにヤバイ。
しかも、ほとんど爆風を立てたり衝撃波を出したりしないから、住宅街のど真ん中でも戦える。
ヒーローに覚醒して1か月経たないうちに僕はSランクヒーローとして登録されていた。
ヒーローになってから、大学ではまるで誰にも気づかれないチリみたいな存在だったのに、急に陽キャの軍団や肉食系の美人たちが寄ってきて、僕が前からの知り合い、むしろダチみたいな感じで近づいてきた。
別に、そういったことをしようとするのは、全て悪いことだとは思わない。
でも、元々陰キャだし、アニメや漫画しか興味ないし、彼らのアウトドアなキャンプとか、飲み会でキャッキャウフフとか無理だった。
僕はそんなふうに誘われる生活や、大学からも、大学の広報に載ってくれと依頼が来たり、研究室に在籍するだけで卒論の単位まで何とかする等と言ってきた有名な教授からのお誘いとか、そういうのに耐えられなくなってしまったのだ。
大人ならば、きっと、上手くそれらを利用して自分の立ち位置をよくしたり、人脈を作って困った時やここぞという時に使うのかもしれない。
でも、僕には無理だった。陰なりにあった居場所が大学にはなくなってしまった。
僕は大学を辞めた。
ヒーローとして戦っていても、いいようにまた使われるのは嫌だった。それで、僕はこの世の中で同性で1番ムカつくと思う存在、超絶頭の悪いホストみたいなキャラクターをロールプレイし、誰も近づきにくいようにした。変身を解除した後はいつもの陰キャに戻って誰とも関わらないように生活し始めた。
でもまあ、頭の悪いホストキャラは、これはこれで楽しかった。普段のストレスがクィッと吹っ飛ばされるような感じだった。
こんな馬鹿げたことをしても、昔からの自分を理解してくれている、家族や兄弟、旧知の知人や近所の人は受け入れてくれていた。
だから、この人たちは何があっても、守りたいと心に誓った。
でも、僕の身の周りの人だけを守れるならそれでいい、とは思わない。
一人一人それぞれに大事な人がいて、僕を利用したいだけの人だって当然大切な人がいるわけですよ、はい。
だから、僕は駄々をこねて、お前らざまぁーみたいなことはしたくない。格好悪いからだ。そんなのヒーローじゃない。
だから、『俺』は偽りの仮面をかぶって、今日も『黒の夢』と名乗り、中2病ロールプレイをするホストとなるのさ。
北海道の西の沖でSランク怪獣ダイヤモンドタイマイが現れた、と連絡があり、ヒーロー局札幌支部仮設本部に急いで向かうと、転送ヒーローが待っていて、僕はそいつに転送された。
ぶっ飛ばされた先は、寿都町や岩内町の南方向にあるせたな町。正確にはせたな町にある太田トンネルという道道上で一番長いトンネルから南西方向の沖合だ。僕が空を飛べなかったら今頃溺れていたのだと思う。
僕を飛ばした転送ヒーローは、僕が飛べること確認したのだろうか。心配になる。
その後、続々とSランクのヒーローが到着した。青森支部登録のりんごちゃんというふざけた名前の少女とか、秋田支部のなまはげさんというリアルなまはげみたいな鬼の形相をしたおっさん、新潟支部の絶対領域という名のおばさん、山形支部のスノーモンスターと言われている謎の着ぐるみ、石川支部の声がきれいなことで有名な能登さん。
なんだかんだで全員Sランクだ。Aランクが10人集まってもSランク1人分の火力に満たないと言われている。
ほぼ同時時刻に対岸から中国、韓国、ロシアのSランクが1名ずつやってきた。こいつらは基本一切の手出しをしない。万が一、自分の国側に怪獣を行かせないように立てた見張りだ。しかし、ダイヤモンドタイマイが死にかけたころに横槍入れて手柄を横取りしにくるかもしれない。
雰囲気が悪くなる前に、仲間に声をかけて和ませなきゃいけない。ホストだし。
「さて、俺目当てのお客さんも来ているし、早くパーティでも始めないかい、りんごちゃん」
僕は片手でふさぁと前髪を揺らして、1番年少のりんごちゃんに話しかけると、りんごちゃんは本当に嫌そうな顔で、
「気安く呼ばないでくださいクズホスト」
と呟いた。
いいね、この感じ。できる限りヒーローの姿では嫌われていたい。でも、りんごちゃんみたいな小学生に真顔で言われると、心が病むね。
鬼の形相のなまはげさんがどこからか出現させたでかい斧を肩に乗せて近づいてきた。
なんかもうね、私の好物はニンゲンの子供の頭だ、とか言い出しそうでまじ怖いっす。ちらりとりんごちゃんを見ると見事にぶるっていた。
「お前の店では、どんな酒を出すんだ、ゲロまずい偽物のドンペリか、腐った焼酎か」
「そもそも、俺っち店やってないんで。あと日本酒が好きです」
「お前、俺と気が合いそうだな、ガハハハ」
「ダイヤモンドタイマイ、さっさとやっちゃいましょう。夜までに終わったら、スッキリして美味しい新潟県の日本酒でも開けて飲みましょう」
年齢に相応しくないヒラヒラレースが多用されたミニスカコスチュームにニーソックス姿の絶対領域さんがそう言って僕にウィンクした。ぞくっとしたので、早く終わったら素早く札幌支部に帰ろう。
僕らがそんなくだらないことを話していると、ダイヤモンドタイマイは大きく体を震わせた。
こいつ寝てたんじゃなかったのか。
僕らは急いで攻撃体制を整えていると、ダイヤモンドタイマイの口から涎のような血のようなものが出てきた。よく観れば片目が既に潰れている。
「おい、どういうことだ、ダイヤモンドタイマイ死んでるぞ」
既にダイヤモンドタイマイの体は崩れ、チリが宙に舞い始めた。
チリがなくなると、一艘の漁船があり、そこには1人のお爺さんが乗っていた。生きているように見えたが、意識がないように見えた。
そして、ダイヤモンドタイマイがいたところには、女性1人が海中に仰向けになって浮かんでいた。
お爺さんの船に乗っていた人か、と思いながら近づくと、見たことのある顔だと気がつく。ボロボロの白色下地に赤い花が彩られたコスチューム。胸を急に突かれるような美しい容姿をした白人とアジア人を掛け合わせたハーフ顔。
「元道りな……ん、違う、こいつはDランクヒーローの椿か」
「だれ、この子?」
「北海道では有名な子だよ」
「あー! 確かAランク怪人を捨て身で討伐したFランの子! 今はDランクだけどね。 あの時の戦いは燃えるよね! 私何度も繰り返して動画見てる!」
りんごちゃんがものすごく興奮していた。いいな、椿さん。
でも、どういう理由かわからないけれど、Dランクのヒーローが単身でなんでいる?
もしかして、Sランク怪獣に単身で挑んだのか?
いや、そうでもしなければSランク怪獣が死ぬ理由がない。
でも、なんで倒せたんだ。理解できない。
僕はふと陸の方を振り向いた。陸にはたくさんの人が出て、ダイヤモンドタイマイが討伐されたことを喜び、歓声をあげていた。中には大漁旗まで振っている漁師もいた。
そうか、この子は住民を守るため単身で戦いを挑んだのか。
この子は全力で死ぬ気で戦ったんだ。このちっぽけな漁村の人たちや、漁村の街並みを守るために必死の戦いを挑んだんだ。例え、自分の身が尽きたとしても、他のヒーローが来て止めてくれると信じて、1秒でも町から怪獣が遠ざかるようにと。Sランクヒーローの攻撃で町が少しでも壊されないようにと。
町の大きさなんて大して重要ではない。そこに住む人々がいる、ただそれだけが彼女を突き動かしたのか……
なんてやつだ。僕みたいなホストの真似事した陰キャでさえ、胸が熱くなる。
僕は町を救ったヒーローに早く手当てができるようにと、そしていち早く功績が讃えられるように彼女を抱きかかえて、ヘリの長距離撮影カメラに向かって叫んだ。
マイクで声は拾えなくても、読唇術に長けたヒーロー局の職員が読み取ってみんなに教えてくれるはずだ。
「椿さんが……うゔぉぇええ、臭ええええ! イカくせえ、腐ったイカの臭いだあああ! ああああネトネトするううううう!」
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それと、誤字脱字報告ありがとうございます。大変助かっています。
最近、余裕があれば、最初のころの文章を直しています。内容自体は変わらないように書いていますので、あまり気にしないでいただければ助かります。




