Drop dead D! 3
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僕は魔石やドロップアイテムをかき集めて、また岩場に隠れてヒーローに変身し、役場のある北檜山区へ走り抜ける。
住宅街に入る前の川、後志利別川の縁に隠れて変身を解いて、いつものおっさんの姿にリュックサックとクーラーボックスを持って現れた。
川から上がってくる際、クーラーボックスを持っているので、以前秋口に同じことをやっていたらお巡りさんに職務質問をされた。多分、鮭の密漁だと思ったのだろう。
中を開けるとダンジョン産の生ものドロップアイテムばかりだったのですぐに
「もしかして最近冒険者で来た人?」
とか聞かれた。珍しすぎて町内の噂になっていたらしい。ダンジョン話でちょっと話が盛り上がった。
「ところで、なんで川のほとりにいたの?」
ともう一人のお巡りさんに言われた。ちっ、馬鹿そうな雰囲気で話をしながらピンポイントで聞かれたらいやな質問をしてくるのがお巡りさんのテクニックだ。
ヤバい、どうやって誤魔化そうかなと思い、体力テストのつもりで川を飛び越えて横断してました、と答え、レベルアップで鍛えた身体能力を使って川の右岸から左岸へひとっ飛びした。
お巡りさん、すげえ、と声を上げて、俺たちで捕まえられないのいたら頼む、と言ってきた。いえ、レベル上げてください、そう言ってあの時はその場から離れた。
役場に併設された買い取り出張所というところで、職員さんにクーラーボックスを開けてドロップアイテムを見せた。
ドロップアイテムは大味のウニが真空パックされたものと大味のアワビが真空パックされたもの、あとは小さい魔石で、それらがクーラーボックスにぎっしり詰まっていた。
真空パック詰めされた物がドロップするとか、ダンジョンは奥が深い。
「また大量ですね」
大味のウニと大味のアワビのパックを取り除いて、職員は小さい魔石を数え始め、102個であると伝えられた。多分アルバイトをしたら5日分くらいの収益だ。
「ウニ11パックとアワビ12パックですか……こっちは正直買値が……」
あのダンジョンがより嫌われるのはこのドロップアイテムだ。
せたなの地元ではこれのもっと美味しい物が取れるわけで、うん、何で下位互換の物がドロップするんだろうね。地元の漁師さんを守っているんですかね。
僕はアワビを6パック取って、残りは全部職員さんたちで食べてくれると助かるというと、職員さんはごめんねぇ、と言って引き取ってくれた。
ウニは嫌いじゃないだけど、おっさん将来痛風になりたくないのよ。
僕は役場であっせんされた家具付きの空き家に帰った。
持ち主は数年前に他界した後、都会に住む家族は相続放棄して残ってしまった建物だ。
たまたま、引っ越ししてきた僕は一人で住むには広すぎる5LDKの家具付きの家を格安で貸し出された。
役場の人曰く、清掃もしてくれてきれいに使ってくれたら助かるとのことだった。
数年分家主のいなかった家は埃まみれだったので清掃するのには時間がかかったが、その分格安ならありがたい。
プロパンガスのガスレンジに火をつけて鉄のフライパンを乗せる。使い方がわからず何度も焦げ付かせた鉄のフライパンだ。最近はちゃんと油の膜を作って手入れができている。
真空パックのアワビを取り出して切り目を付けてフライパンにぶち込んで焼いて、あらかじめ炊いておいたごはんの上にのせて醤油をかけて食べる。
気の抜けた味だけど、まあいいか、と思う。
いずれにせよ、ヒーロー業や冒険者業以外の仕事なんて今更僕には出来ない。とりあえず、冒険者で培ったレベルの力を活かして土を耕したら農家なんてできらあ、なんて無理なんです。
成り行きとはいえ、クリムゾンレッドというイケイケオラオラ系の火を吹くヒーローを殺したり、知っている職員さん達の死体を目の当たりにして、ひどく勤務意欲が低下した。
しばらく仕事をせずにぶらぶらと旅行したら、せたな町の昭和感の残る風景や親切な旅館の老夫婦に癒された。それで、ここせたな町でしばらくは静かに過ごそうと心に決めたのだ。
そんな風にヒーロー業を休止していても、時々あいつら怪人、怪獣は空気は読めませんと言うかのように、こちらの都合関係なしに現れるのだ。
ヒーロー局から貸し出されている携帯端末は電源を切っているので、出動要請は無いが、ヒーローの勘というやつで、なんか近くに怪人いるんじゃね、と気づくことがある。今日もそうだった。
僕は岩場の多い日本海を走っていると、数少ない砂浜であの嫌な勘が冴えるわけです。やつらいるな、絶対いるなと。
休止中に仕事してもお金もらえないんだよおおおお!
そもそもしばらくヒーローの仕事したくないのよおおお!
そう思いながら、浜辺を観察すると、砂浜に時々跳ねる平べったい巨大なものが見えた。大きさとしては仮設の事務所を作る時のスーパーハウス一個分の広さだ。
よく観察すると、カレイかヒラメのように見えた。
ああ、せたな町で時々猛威を振るうテックイさんというヒラメの怪獣、いや怪魚か?
名前の由来のテックイはせたな町の地方の言葉でヒラメを指すそうだ。
危険度はランクCに該当し、海中での戦いでは海の底に擬態しての攻撃や丸呑みにする噛みつきで、何人ものヒーローが犠牲になっている。
で、そのテックイさんは陸に上がっている。
陸でも戦えるのかもしれない。怪獣扱いだし。
それに、僕の目の前に現れる怪人、怪獣は斜め上な性能をしているしね。
ちなみにせたな町にはヒーローはいない。怪人などの出現率は低く、仕事があまりないからだ。最寄りで長万部という町にいるらしいが、急いできても1時間30分はかかる。
仕方ない、町の住民を危険に晒すわけにはいかない。
僕は盾を召喚し、警棒を持ってテックイさんに近づく。不用意に近づき飛び道具を放たれないよう、慎重に足を動かし、盾を構える。
ビクンとテックイさんが跳ね、こちらを睨みつけてきた。
接触まで数メートル。その瞬間、頭に声が響いた。怪獣テックイさんの声だ。
息できなくて苦しい。ころして、ころして
僕は叫びながら駆け抜け、テックイさんの頭に向かって警棒を叩きつけると、テックイさんの頭は陥没し、体は砂のように崩れ去った。
テックイさん、何故、陸に上がったし……
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