Drop dead D! 2
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冬の日本海の波は高い。
風が強くなるせいで、波の高さ3メートルはザラで、6メートルとか7メートルなんかという日も当然ある。
粉砕された波が、白く跳ねては飛び散り空気と混じり、霧みたいになり、強風と共に大地を舞った。
風の強さは酷い時は風速10メートルを超える。ちなみに、風速10メートルで外を出歩くと、向かい風でゴミが目に入ったり、子供や老人は足をすくわれて転んだり、車のドアを迂闊に開けるとドアが勢いよく開いて、隣に駐車している車にぶつかったりする。
その代わり風力発電所は元気よく回り、エコなエネルギーを大量生産してくれる。
北海道の風力発電所は、寿都村で1992年に設置されて以降、泊村、瀬棚町、江差町等の日本海側の町村で次々と設置された。
僕はせたな町に出来たマンモス岩ダンジョンの入り口の近くで潮吹きを浴びながら銀髪に赤い瞳の美少女ヒーローに変身した。
ちなみに、瀬棚町もせたな町も誤字変換ではない。瀬棚町は過去に存在した市町村名であり、せたな町は市町村合併によってできた町だ。
せたな町は北檜山町と瀬棚町と大成町の3つの町が市町村合併でできた町で、キャッチコピーは『またせたな(待たせたな)!』で、ゆるキャラは『セターナちゃん』である。
後期高齢者時代真っ只中の町であるが、町の雰囲気は明るく、いい人ばかりで性格も人懐っこい。浜言葉で話すものだから喧嘩腰で何か言われているような気がするが、大体の人がいい人。
ちなみに、海の側の住宅に住もうとして近所にあいさつをして回ったら、
「おめさ、何悪さして引っ越してきた?」
と、漁師のじいさんにニコニコしながら言われた。好き好んで引っ越ししてくる場所じゃないから冗談交じりでこんな風に聞かれることが多い。
せたな町はぶっちゃけて言うと魅力はかなりない。
高速道路はない、鉄道も通ってない、大きな店も、24時間やっているコンビニもない。
子供の医療費は高校生までは無料で、高齢者の助成もかなり頑張っている方だが、立地が悪い。
札幌からも函館からも遠く、不便極まりない。
しかし、魅力はその逆で、取り残された北海道らしい北海道に住める、ということだろう。
広大な土地での農業や、実際の距離は遠いけど心の距離感が近い住民。
不便さはあるが、ネット通販で買い物できるしamazonだって来てくれる。
田舎の役場の人って正直変なイメージがあったけど、しっかりしていて困った時は相談にも乗ってくれる。
意外と住めば都的な町なのだ。
でも、ぶっちゃけさ、札幌だとかの都会生活が長くて、農業したことないやつが、思い付きで農業やりますとか無理なわけ。
農家って天気でマジ泣きする難しい仕事だし、その土に合う野菜をうまく育てるとか、野菜のために土を作るとか、生かす微生物や殺す微生物を学んだり、レベル高いんだ。
土が合わないと、普通にまいた種から芽が出なかったり、苗を植えても根が腐ったりする。
タイミング合わずに肥料を入れると、これも苗をダメにする。
肥料を入れなければ、当然小さい出来上がりだし、雑草を小まめに取っていかなければ、商品として販売できるものではない。
自動化を目指さなければ労働時間が多すぎるし、自動化するにはとんでもなく初期費用がかかる。
どの町でも、農業で喰っていくなら、農業や酪農の知識があり、収益のビジョンがあって、自動化を目指した初期費用がなければマジで借金だけ作って元の町に戻らなきゃいけない。
それに、北海道は雪がある。冬はえぐい程の除雪量だ。仕事する前から全身疲労するし、冬の収益がない農家さんはアルバイトに走らなければならない。自宅を構えた農地から離れた住宅街まで毎日圧雪アイスバーンの道を通うのだ。
北海道の農業に憧れて、数年後に地元都心部に戻っていく方々は結構多い。
僕こと椿吾郎は海の岩場で隠れていつもの美少女ヒーロー姿で様子を窺っていた。
海中を潜ってウニやアワビ、ナマコを密漁するわけではありません。
せたな町の南端であるせたな町大成区長磯にはマンモス岩という奇岩がある。
その名のとおり、マンモスの形をした岩だ。心の汚い人には女性が尻を突き出したように見える。はい、童貞をこじらせた35歳のおっさんは心が汚かったです。
このマンモス岩は現在はダンジョンとなっており、尻を突き出したように見えるところ、おっと、マンモスの前足と後ろ足に見える部分の間とその反対側が入り口となっている。
残念ながらこのダンジョンはほとんど人は来ない。
というのは、ダンジョンから得たドロップアイテム等を売る場所はせたな町の中心部の北檜山区の役場にある買い取り出張所というところまで行かなければならない。
役場からマンモス岩ダンジョンまで車で約50分。
それに、マンモス岩ダンジョンのドロップアイテムはあまり魅力がない。売っても利益が少ないものばかりで、普通に頑張ってもアルバイトで半日頑張りましたくらいの収益になるそうだ。
そして、冒険者が一番困る、経験値量が普通のダンジョンの低階層での得られるものの1.5倍である。
え、それいいことなんじゃね?、と思う方いると思いますが、冒険者はレベルが上がると税金が上がる。それに、そんなに強いモンスターではないので、経験値量も中層以降の強いモンスターと比べればゴミレベルだ。冒険者のてっぺんを目指してレベル上げしたければもっと別のダンジョンがおすすめなのだ。
つまり、年間収益が税金に見合わないダンジョンということになるわけです。あと、命の重さもね。
それでですね、ダンジョンの入り口までモンスターがみっちみちに埋まっているんです。モンスターハウスです。
モンスターはダンジョンから出られない、というルールがあるようで過疎が激しい地域の美味しくないダンジョンはこんなふうになっている。
ちなみにダンジョンに入らずモンスターを倒しても経験値を得られるそうです。高額納税者待ったなしだね。
そんなダンジョンの入り口に向かって僕は全力で石を投げつけた。小石でも十分。ヒーローの投石は、弾丸のスピードを上回るのだ。
ヒーローの力はダンジョン内では使えないが、物理法則は残るみたいで、小石はそのままの速度でダンジョンの入り口へ突き進んだ。
弾丸以上の速度の石がモンスターに当たれば、そりゃあ肉片へ変わりますよ。
僕はみっちみちに溜まったモンスターハウスに向かってとにかく石を投げまくった。
変身を解いてそっと、モンスターハウスだった入り口を覗くと、いったい何ということでしょう。
魔石等のドロップアイテムがゴロゴロ転がっているではありませんか。
ちなみに、こんなやり方での採取は最初の一回限りだと思うでしょう。
このダンジョン、数日で元通りになるんだぜ。絶対バグだ。まともな冒険者からすれば絶対攻略する気にならん。モンスターの復元の早さが早すぎて、補給が間に合わない。
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