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童貞よ、永遠に 5

いつも読んでいただきありがとうございます。

また、別視点の話になります。

主人公の視点のみで書きたいと思っていたのですが、全く書けなかったのでこのようになりました。

クリムゾンレッド Cランク


 俺の父親はお袋にヤリ逃げして消えたクズ野郎だ。

 そのヤリ逃げの搾カスが俺だ。なんでお袋が俺を産んだのか意味わかんねえし、安いバイトをしながら育てたのも俺の家7不思議の一つだ。

 俺はそんなお袋の姿を見て、勉強を頑張ったとかバイトして生活費の足しを作ったとか、そんなことはなかった。自堕落に生きて、ダチと一日中遊び、金が必要になったら地面に転がっているやつの財布をくすねた。地面に転がっているやつは、俺の手が当たって動けなくなったやつだ。

 そんな俺の人間関係は地元の悪そうなヤツばかりがダチになり、ヒーローになった今でも時々損得勘定抜きでツルんでくれている。

 俺は元々ちゃんとした仕事もしたくないのでヤクザに弟子入りしたいと思っていたが、ヤクザは実入りが少ないし、ほかの反社でもやっていく自信がなかった。刺青を入れて、見栄だけでも張ろうかなと思っていたら、マジもんのヤクザに入った地元の先輩から、刺青はチキン野郎が付けて見栄を張る臆病者の印と教わったので、刺青はやめた。

 どこにでもいそうなクズ野郎の俺は5年くらい前にヒーローに覚醒した。

 炎を操り、喧嘩で培った拳で怪人、怪獣を倒していった。

 得た力が結構当たりだった。サクサクと怪人たちを殺せた。

 順調に毎日を過ごし、住民からは感謝され、お金にも困らなくなった。抱く女も困らねえどころかあっちから勝手に近寄ってきた。俺すげー、と調子に乗っていた。


 一年前、同ランクの怪人と戦った。

 死にかけた。誰も助っ人で来てくれなければ死んでいた。

 あのきざなSランクの黒の夢が一瞬で片付けて、なんかムカつくけどこいつには敵わねえな、と思った。

 俺の体は病院に運ばれて、医療カプセルにぶち込まれた。

 緑色の液体が流し込まれ、肺まで満たされた。溺れ死ぬと思ったがそんなことはなかった。

 全身にしみる痛みに耐えながら時間が経つと、医療カプセルの前に、長髪の明るい和服を着た若い女が立っていた。目の下には緑色の液体を通してもわかるクマができていた。多分、回復ヒーローなんだろうと思った。

 カプセルを開けて俺のぐちゃぐちゃになった手を握り、何かぶつぶつと呟くと俺の体が心地よい熱を帯びて、手を元の形に修復していく。

 以前、別の回復ヒーローはもっと強引な感じで無理矢理元に戻すような感じで不快な感じと痛みが走った。目の前の和服の女はそれと全く違った。

 内臓を元の位置に戻そうと直接手で触りながら、さらに回復技を続けた。

 不思議と何かが満たされていくような感じだった。


「起きているなら、そう言えばいいのに」


 女は俺の手を掴んで引っ張り起こした。

 すると、肺の中の液体が急に吐き出され、和服にかかってしまった。高いのだろう、弁償する、と伝えると、女は首を横に振って


「ヒーローコスチュームなので、後でなんとかなります」


 改めて女の顔を見ると、酷く整った顔に、酷く不釣り合いクマがあった。興味なさそうに、でも優しく俺の手を握った姿。俺には天使に見えた。


 しばらく安静にするように、と医者から言われて病室で休んでいると、お袋が現れて泣いて体を抱きしめられた。

 そういえば、お袋は俺が報酬で得た金を一切受け取らなかった。こんなごく潰しで喧嘩ばかりして、ヒーローになっても一度も顔を見せなかったやつのところまでわざわざやってきた。

 その後、ほとんど会わなくなった昔からのダチどもが病院に押しかけてきた。看護師に、絶対安静の面会謝絶中だから会わせられません、と言われてもなかなか帰らなく、いつも通りのめんどくせー奴らだなと思って、窓を開けてさっさと帰れと呼びかけると、どうせ病院で暇なんだろ、抜け出して飲みに行こうぜ、と言われ、さらに看護師の怒りを買っていた。俺も後で怒られた。美人だったかせいか余計に怖かった。

 知っている人で病院に来たのはそれだけだった。

  

 病室のベットでしばらく俺は考えた。

 結局のところ、俺はヒーローになった後に俺に近づいてきたのは、ヒーローとしての俺や、俺が稼いだ金目当てしかなかったんだ。病室で死にかけた俺に手を差し伸べて来てくれたのは、お袋と昔からのダチどもだけだった。

 見返りを求めない、そんな人間関係である者を俺は強く守りたいと思った。


 その後、俺は地元の怪人、怪獣のみとしか戦わなくなった。

 腰抜けだとか言われることもあったが、どうでも良かった。

 俺は俺が大切だと思ったものだけを守りたい。


 SNSで拡散されていた回復ヒーローの日常の番組が目についた。

 拡散されていた理由は内容がブラック勤務過ぎてヤバい、ということで番組がコピーされてSNSで流され、消されるとさらに拡散されていくということが続いていた。

 嫌でも目についた。

 すると、その動画に映っていたのは、俺を助けた和服姿の回復ヒーローだった。

 あいつは、お金のためじゃない、1人でも多くのヒーローを救いたい、そのためならゲロを吐いてでも頑張る、みたいなことを言っていた。ゲロが日常とか頭おかしい、と思ったけれど、そんな中で俺を救ってくれたことを思うと、あいつに何かあれば守ってやりたい。


 俺は地元のダチどもと酒を飲みながらこのことを語ったら、面白そうだからちょっと手伝うわ、とかふざけながら言って、医療のシンボルマークを手の甲にタトゥー入れてみたらという話になった。一般人がタトゥーとか敷居高い、というごく普通の意見により、タトゥーシールを作って手の甲に張り付けるブラック回復ヒーローの地位改善運動を始めることになった。

 それをSNSで拡散させ、ネットでそのタトゥーシールを販売し始めた。ほとんど儲けなしだし、資機材費用は全部俺持ちだった。でも、ぶっちゃけ金は余っているし、お金の問題じゃねえ。少しでも助けてやりたい、ただそう思ったんだ。

 この俺のバカげた活動が思っていた以上に反響があって、思っていた以上にタトゥーシールが売れたし、俺の知らねえ誰かが手の甲にタトゥーシールを無駄に誇らしげに張り付けている。俺も無駄に誇らしくなった。


 和服の回復ヒーローが過労死した。

 今まで俺がやった活動が急に色あせた感じがした。

 でも、大したことではなかったんだ。

 俺が勝手に始めて周りを巻き込んだバカ騒ぎのようなもんだ。

 そうなんだけどよ、でも、納得いかねえじゃねえか。

 俺たちがやった活動が全く、ヒーロー局の胸には響かねえというか、ただゴミムシが飛んできてうざってえな、と思って振り払われた、という結果だった。

 俺はダチどもにタトゥーシールの活動の引継ぎを頼むと、ダチどもは何かを感じ取ったのか、わかった、行ってこい、とだけ言って俺を見送った。


 ヒーロ局札幌支部正面に俺は立った。

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[一言] >俺たちがやった活動が全く、ヒーロー局には胸が響かねえというか、ただゴミムシが飛んできてうざってえな、と思って振り払われた、という結果だった。 ヒーロー局「ちゃうねん。 回復ヒーローの数が…
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