童貞よ、永遠に 4
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鏡の中の自分に睨まれている、これは何という呪い現象なのでしょうか、と言いたいところですが、目の前にいるのは僕がヒーローに変身後の、格闘ゲームなら2Pキャラクターのような色違いの女の子、『元道りな』だった。
スクランブルで出動して熊怪人クマンを倒してから、しばらくお仕事は与えられなかった。マジでヒーロー課から干されているんだろうな、と思いながら1週間程経過したころに、ヒーロー課から電話があり、月給制の仕事の依頼があった。
話を聞けば、回復ヒーローとなった元道りなの護衛として勤務してほしいとのことだった。拘束費用としての月給と、何らかの突然のアクシデントという名の暗殺紛いの事案があった際は程度と結果に応じて報酬があるらしい。
しばらくダンジョン生活はできないが、安定した給料が貰えるのでありがたい。
でも、いつ護衛で死ぬかもしれないし、病んだ元道に刺されて殺されるかも、と思いながら仕事とか頭おかしくなるんじゃね、と気づいたのはお金に目が眩んで、やります、と回答してからしばらく経った後だった。
ヒーロー課にある一室に元道と僕を顔合わせる機会を設けられた。その席で、元道は僕を胡散臭そうな顔で見ながら
「あなたが護衛をしてくれると聞いたんだけど」
と35歳の童貞おっさんに詰め寄ってきた。
自分で同じ顔に可愛いと評価するのもなんだけど、可愛い顔で急に近づいてこないでほしい。やはり、いい匂いも感じるわけです。まあ、立つものも今はないし、賢者の指輪で性欲も抑え込んでいるから防犯カメラにうっかりブーメランパンツのおっさんが映りこんだりしないので安心である。
しかし、今日は豚の餌とも言われる二郎系のラーメン屋で野菜とニンニクをマシでがっつり食べてきた後だ。近かれるとニンニク臭に気づかれると恥ずかしいのでやめてもらいたい。
「そうですが、もしかして違いましたか? 元道りなさんで合っていますよね? Eランクヒーローの椿です。よろしくお願いします」
一応握手しようと手を差し伸べると、
「そういうのはいいから仕事しっかりやってください」
僕の右手は空に浮いたままで、元道から手が差し出されることはない。マジで嫌われている。あのスライム系怪人と撮影した民放の女性職員とネットでコラ作って流した奴ら許さねえ。
「えっと、嫌われているのは薄々わかってはいました。ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした。まさか私とここまで似ている人がいるとは考えたことありませんでしたので。でも、元道さんに嫌われていても護衛の仕事はそれとは関係ないのでしっかりやりますのでご協力よろしくお願いします」
元道はむすっとした顔で僕から目をそらした。
これは先が思いやられるとか言う以前に、胃がヤバくなるやつだわ。
ほんと、僕にこの仕事を卸したやつマジふぁっきゅー!
早速この日、元道に仕事が入り、一見双子に見える僕たちは仲睦まじいことはさらさらなく自衛隊のヘリコプターに乗り込み、どこかの県のヒーローの治療に走る。
ヘリコプターには慣れず、ゲロを吐いた。元道も虹色のゲロを吐いていた。なんやかんやだけど、これでゲロ友だね。
病院に入り、ヒーロー用の医療カプセルの場所まで連れられてくる。病院のスタッフさんが、
「やっぱり、双子だと同じタイミングでヒーローに目覚めたんですか?」
と僕らの顔を見ながら言って来た。元道がムスッとした顔を作って何か当たり散らしそうな雰囲気を感じて
「実は赤の他人なんですよー」
と僕がにこやかに答えて、険悪な雰囲気になりそうな場を和ませた。
医療用カプセルは透明な緑色の液体が入っていて、なかには肉の塊みたいなものが入っていた。
吐き気が込み上げたが、ヘリコプターで全部吐き出した後だったので、二郎のニンニク臭だけが吐き出された。
元道は医療用カプセル越しの治療を始めた。体の形が幾分人の原型に戻り始めると、カプセルを開け、素手ではみ出ていたものを元に戻したりした。
ニンニク臭いの強いゲロの透かしっぺが口から出る。予め吐いていて良かったぜ。やってて良かった公文式。
嗚咽が収まると、やることもないのでじっと内臓モミモミが見えない位置から元道の作業を見守る。
そういえば、僕も死にかけて医療カプセルの中に入れられたと聞いていたけど、こうやって回復ヒーローが治療してくれたんだな。
痛みで苦しんでいた記憶しか残ってないけれど、ぼんやりとだけ、透明な緑色の液体の奥に、和服を着た天使がいたように感じた。
治療が終わり、食事を食べに行くと元道が言ったので付いて行く。僕も腹が減ったので付いて行く、というのもあるが、ここからが本当の仕事の護衛だ。
まあ、全く襲われることはなかった。仲の悪そうな双子が歩いているくらいの視線くらいだ。
食事中、スマホをいじっている元道が、おおぅ、と呟いたのでどうしたのかと声をかけると
「焼きゲ……回復ヒーローの先輩、死んだって。ニュースに出てる。ああ、色々言われているけど過労死っぽいって」
何、回復ヒーローが自分を治療すること出来ず過労死とか、よくわからんパワーワード。
「先輩って、つい最近テレビ報道されて、あまりの仕事量のブラックぶりにネットで炎上して、局の配信データから速攻で消されたんだよね」
元道にとって大事な先輩かもしれないと思うと、なんと声をかければいいかわからない。そう思っていると、元道はご飯に箸をつけ始めた。
「まあ、進んで過労死しそうな思想の先輩だったからね。あたしは気をつけよう」
元道はそうあっけらかんな顔をしながら、またおかずに箸をつけた。
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