童貞よ、永遠に 3
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回の話は元道りなの視点になります。
このまま本文を読まれるとわかりづらいよな、でも素敵な文章でうまく導入できるかなと色々挑戦してみましたが、全く無理でしたので、前書きでアナウンスさせていただきました。
見るも無惨な人の形をした塊がまだ息をしている。
ヒーロー用医療カプセルに詰め込まれた、死んだ方がまだマシのような状態のヒーローに先輩が手を伸ばし、能力を行使する。
白い手の甲には白い蛇が巻き付いた杖のタトゥーシールが見えた。
力を行使する先輩は、黒くて長い髪、二重瞼の大きくて吸い込まれそうな優しい瞳で、その目の下には涙ぼくろではなく真っ黒なクマが疲労感を強く感じる。
そんな先輩の服装は膝の下から素足の和服の晴れ着風のコスチュームという、あたしが男ならたまらん服装だった。
あたしこと、元道りなは、この先輩のことを心の中で焼きゲロ先輩と呼んでいる。
とある航空自衛隊基地に住み着いて数週間、仏のような、焼ゲロ先輩の指導のもと仕事に励んでいる。
焼きゲロ先輩はスプラッター映画のようなヒーローの大怪我を治しながら、焼肉食べたい、というちょっと頭のヤバイ人だ。
ただ焼肉食べたいと言うだけならまだ可愛い方だ。
「このあばら骨のところ、炭火でゆっくり焼いて食べると美味しいんですよ」
「ホルモン焼きもいいなあ」
などと力を行使している際に、体からはみ出てきた内臓があったら、無理やり医療カプセルを開いて、はみ出た内臓をヒーローのお腹に戻しながら言うもんだからヤバイ。頭絶対にイッちゃってるやつだ。焼きゲロ先輩の治療しているところで何度吐いたかわからない。
「慣れだから仕方ないですよ」
と焼きゲロ先輩はあたしを励ましてくれるが、焼きゲロ先輩の言葉で誘発されたゲロなんですけどね。
そんな先輩は、ヒーローの治療に向かうヘリコプターでゲロを吐く。当然、帰りのヘリコプターでも吐く。帰りで吐くのに、現地の食べ物を食べないと帰れない、とよくわからないことを言うから、その食に対する執着心もヤバイ。
そういうわけで、あたしの中で先輩は、治療中の焼肉話題とヘリでの往復で必ずゲロを吐くので、敬意1割を込めて焼きゲロ先輩と呼んでいる。
焼きゲロ先輩は回復ヒーローとしてのランクはBと言われていて、蘇生や急速な復元は出来ないものの、切った貼ったの治療、時間はかかるけど部分的な復元はできる。
本人は、病気の治療が出来ないので、仮病を申請する子達にヤキを入れられない、と言って悔しさで歯軋りしている。よくわからないけど、張り切りすぎなバイトリーダーを見ているような気持ちになる。お前、まず、正社員になれよ、と。
そんな焼きゲロ先輩の仕事への誠実な対応は本物だし、仲間の回復ヒーローへの気の使い方は、即戦力にして楽をしたいという気持ちが満ちあふれているので、とても教え方が親切丁寧だ。
焼きゲロ先輩は達観した表情であたしの治療風景を見ながら、内臓がはみ出ているなら素手で戻すのは当たり前、消毒は忘れちゃいけない、もっと患者のことを意識して治療する様に、と指示した。
熱心な指導に少し涙が出たけれど、はみ出た大腸をお腹に戻すのもなんとなく慣れました。
北海道から上陸したガタルカナルというスープカレー屋さんで遅くなった昼食を先輩と食べる。
先輩はオーソドックスなよく煮込まれたチキンの入ったスープカレーを食べていた。あたしは期間限定のスープカレー、パリパリに焼かれたパイ生地で覆われた容器のパイ生地を割って食べ始めた。
甘くて、味が濃くって、うまい。
焼きゲロ先輩はあたしの食べるスープカレーを見つめて呟いた。
「たまに腸が破けるとですね」
「それはこの系統のお店で言ってはいけません。追い出されるかもしれません」
私はぴしゃりと話を終わらせた。
先輩は残念そうな表情をしながら静かにスープカレーのチキンを崩してすくった。
食べながら先輩のすくう動きを見ていると、動きで手の甲のタトゥーシールが伸び縮みしていた。
「気になる? でも、これ本物じゃないよ」
「なんとなくシールかな、とは思っていました」
「1枚500円。送料込み」
「高いんだか安いんだかわからない値段ですね」
「絶妙な値段だよね。でも、これ、回復ヒーローへの応援のために作られているって聞いてさ、つい買っちゃったんだ」
焼きゲロ先輩の話によると、テレビ放送された回復ヒーローがあまりにも可哀そうという裏事情が表沙汰になった。それで有志が回復ヒーローを応援するために、医療のシンボルマークとなっている白蛇が杖に巻き付いているアスクレピオスの杖をタトゥーシールにして手の甲に張り付けるという運動をしているそうだ。
儲かった分は怪人等の被害にあった人たちの治療費として寄付されているらしい。回復ヒーローに支援としてお金を渡さないのは、回復ヒーローはそんな募金で集めたお金よりも給料が遥かにいいからだ。それに使うくらいなら、回復ヒーローで治療することができない一般人のために使った方がいいだろう、ということで怪人等の被害者の治療に寄付されている。そういうわけで寄付をしながら回復ヒーローへの応援という啓発活動に勤しんでいるということだ。
まあ、テレビ放送された回復ヒーローについては、本人は気が付いていないのだけれど、焼きゲロ先輩だ。
「そういえば、教えていなかったけれど、回復技は一般人に使わないでね。だいたい、使用すると一般的な人間の体が回復技の力に耐えきれなくて爆発する」
まじで? あたし、おじさんに回復技使っちゃったよ。あれ死んだってこと?
やべぇ、黙っとこ。
あたしは静かに先輩の言葉に相づちをしながら冷や汗を流すだけだった。
「そうそう、研修は今日で終わりになって、明日からは別の人と組んでペアで活動することになっているからね」
「なんですかそれ?」
「あれ、聞いてないの? とりあえず、あなたは転送ヒーローじゃなくて、護衛として近距離に強くて防御に定評のあるヒーローがつくみたい。あなたの親族が元通リンさんなんでしょ。一人で活動させるわけにもいかないし、ましてや貴重な転送ヒーローが一緒になって暗殺されるわけにもいかないからって話だそうよ」
あたしはため息を吐いた。せっかく、息をひそめて生きていたのに、ヒーローになってしまってあたしの存在や所在が明らかになってしまった。変身していれば簡単に殺されないかもしれないけれど、まあ、よりによって元通リンの能力に近い回復系のヒーローだから、もしまた建築業界に関係する何らかの技に目覚めたら、間違いなく狙われる。というか力が弱い今のうちから狙われるかもしれない。
「焼きゲ……先輩、それでそのあたしと組むヒーローって誰なんですか」
「名前忘れたけれど、あなたと顔が同じヒーローだよ」
あたしの持っていた右手のスプーンが気がついた時にはくの字に曲がっていた。ちょうど、手のひらをグーにすると指で潰されたような凹凸まで出来ていて、いったい誰がこんな酷いことをしたのだろうと思った。スプーンを大量生産している機械に謝れ、スプーンをお店に売り込んだ営業マンに謝れ。
そして、あたしと同じ顔をしたアイツ、ツバキ、あたしの人生をぐちゃぐちゃにしたことを謝れ。
更新が遅くてすみません。
そんななか、ブックマークや評価していただいたり、感想を書いていただいたりし、大変ありがたい限りです。
小説の作成状況なのですが、一人暮らしではないので、家族に見られないよう、こっそり皆が寝静まった後にパソコンで作業したり、スマホでちんたら書いております。それで、なかなかうまく進みません。
同じような境遇でこっそり小説を書いている方からいいアイディアあればマジ助かります。




