童貞よ、永遠に 2
いつも読んでいただきありがとうございます
路上に熊だ。東区の街の中にもまれにヒグマが現れたり鹿が現れたりする。
つい先日もヒグマの雄が現れて、4人けがをして、1人は駐屯地の門に立っていた自衛官だったりする。
自衛官ならその自慢の自動小銃で撃てよ、とか報道のカメラに言っていた人もいて、無知で無責任な人もいるもんだと思った。彼らに貸与された武器で野生動物を死傷させて良いと明記されている特別な法律はない。あるのは刑法第36条『急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない』であって、特別に許可されたものではない。
そんな自衛官が、街のど真ん中で走ってくるヒグマに自動小銃を撃ちまくって、通行中の車に弾が当たって車の損壊または死傷者が出たら、その時に正当な職務執行だったのでしょうか、とか、他に手段があったのではないでしょうか、とかそもそも道路や民家の近くまたは射線上で、ある程度の貫通能力が認められ、跳弾の恐れもある自動小銃を何十発も撃っていいのでしょうか、という話になり頭が痛いことになるのだ。自衛隊の警務科(いわゆるミリタリーポリス、自衛隊の警察)も撃った本人も、各級幹部含めてね。
ちなみにこの時に銃を撃った正当性が裁判で否定された場合、銃砲刀剣類所持等取締法違反になり、また、その銃によって誰かが銃弾で死傷するような事態、過失致死傷罪がくっついて禁錮刑や懲役刑が確定したら、公務員ならば失職することになる。
僕も熊に遭遇した際にそんな境遇と無知で無責任な民衆からの期待に板挟みされたら絶望するわ。
そんなわけで、道民のヒグマ問題の最後の頼みは、Fランクヒーローだ。遠隔攻撃はできないが、ヒグマに怪我を負わされる程の柔肌ではない。
北海道のFランクヒーローを馬鹿にするものは街に現れたヒグマの駆除に助けられている住民やFランクヒーローによるその他の害獣駆除に助けられている農家さんが黙っちゃいない。
ヒグマの出現だからFランクヒーローか、近くにいなければEランクヒーローの呼び出しがかかるはずだ。
そう思っていると、僕のヒーロー課から貸与された携帯端末が鳴り響く。そういえば僕Eランクヒーローでしたわ。
僕は安アパートの共用スペースに入り込み、防犯カメラが無いことを確認してからヒーロー変身ポーズを決める。
久しぶりの銀髪赤目の童貞美少女ヒーロー見参である。どうせヒグマ退治でしょ、と携帯端末の内容を変身後にチェックすると、
付近で熊怪人クマン出現 至急出動されたし
との緊急メッセージを確認した。
あのヒグマ、怪人かよ……
熊怪人クマンの身長は2.5メートル、体重はきっと300キロを超えているだろう。二足歩行で進む足取りは重たく、一歩一歩の音が耳に響く。
近づいてよく見れば、熊というよりはクマのような山男、という屈強な毛深い男だ。マタギのようにも見え、幾つもの熊と、もしかしたら格闘による死闘をしたようにすら感じる。山に感謝して倒した獲物の命を食らうような顔つき。時には水すら確保出来ず苦しんだ日々を感じる深いシワ。アウトドアなんてものじゃない、野生そのものだ。
一つ残念というか、その全ての雰囲気をぶち壊しているのは髪の毛から、ぴょこり、とあらわになっている熊ミミだ。真面目に話をしている人の鼻から鼻毛が飛び出しているというレベルじゃねえ。
僕は盾を召喚し、スイッチを押して警棒を取り出し、一振りして警棒を伸ばす。
パチリと固定された音が鳴ると同時に、クマンからズシンと大きな音が聞こえた。
既に数歩の距離まで迫っていた。
くそ、鈍重そうに見えて速い。
全体重の乗った拳を僕に突き出してくる。僕は相手がトップスピードになる手前、一歩体を左前に進んで、盾を斜めに構えた。拳が盾に触れる瞬間に左から右にスライドさせ、勢いを受け流す。
クマンの一撃は、Eランクヒーローでは荷が重たすぎで、避けられなければ潰されるレベルだ。Dランクヒーローでも無防備で当てられたら即死するそうだ。
オークで学んだ盾での受け流しで、勢いを直接体に当てないように気をつける。
クマンは受け流されるとは想像もしなかったようで、そのままバランスを崩して地面に転がり建物にぶち当たり瓦礫を作り出した。
クマンが瓦礫の山から立ち上がり振り返る瞬間、既に距離を詰めていた僕に振るわられた警棒が、クマンの首に斜め上から叩きつけられ、鈍い音が響き、クマンは砂となって崩れた。
おかしい、クマンってEランクヒーローの上澄みじゃないと倒せないんじゃなかったか?
まあ、運が悪く、たまたま致命傷を受けるクマンもいるはずだ。
ブックマークや評価等ありがとうございます。
とても励みになります。




