Enjoy Dungeon 6
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イケメンオークは僕の方を見て、鼻で強く息を吐いた。
変身しなくとも、ヒーローのオーラを感じられるのだろう。
マジクソだ。
Fランクの怪人と対等に戦うことができる冒険者はレベル数百と言われている。そんなレベルの冒険者なんて現実に数人しか存在しない。
木端レベルの冒険者なんて、怪人からすればマジで赤子の手をひねる程度の脅威なのだ。
ヒーロー変身する前に、Fランクよりランクの高い怪人にタゲられるこの絶望感。
マジパネっすわー。
装備を詰め込んだ大型のリュックサックから盾と棍棒を取り出す。
元道も、あっ装備するの忘れてたー、と言わん顔で鞄にくくりつけた釘バットを取り外していた。
心配を顔に出して元道を見てしまったのが悪かった。
イケメンオークはヒーローオーラを感じる僕から、ターゲットを変えて、元道の方へ体重が移動する。このままでは一瞬で元道が肉片に変わると思い、イケメンオークの移動予測をして体を割り込む。
全身に衝撃を感じると共に僕は意識がぶっ飛び、地面に叩きつけられた衝撃で目を覚ました。
目だけを動かすと何が起こったかわからず固まったままの元道と、元道を狙った一撃がずらされたイケメンオークが見えた。
「ヒーローかと思えば違うのか。それにしても、ヒーローでもないのに、よく一撃をはじけたものだ」
人間の言葉を使ったイケメンオークがこちらに歩いて近づいて、足を僕の股関節と太ももの間に乗せた。
メキリと音が響いて、声すら出せない激痛が走る。
「ヒーローになる可能性のある者の芽は潰さんとな」
僕の頭にイケメンオークの手が乗せられようとした時に、イケメンオークの頭に何かぶつかって地面に落ちた。一本の釘バットだ。
「こ、今度はあたしが相手よ」
元道、お前は馬鹿なのか、と小一時間問い詰めたい。
怪人にはヒーローしか戦えない。
目の前で見たじゃないか。
防御タンクが盾でガードしたのに一撃で瀕死なんだぜ。
ホント、今時の若い奴はわけわかんねーわ。
本当はビビっているのに、それを顔に出さないように、装備もないもんだから、一丁前に拳を構えてさ。
お前、右利きなのにサウスポーのボクシングでもするのかって構えだし。
イケメンオークはにやりと笑って、元道へ振り返った。
「メスガキは女騎士と違ってわからせなければならない生き物だと聞いていてね。どんな風にわからせられたいのかな」
イケメンオークが一歩元道に足を踏み出すと、元道も一歩前に踏み出す。
「メスガキのくせに、ビビらないところは褒めてあげようか。でも、後ろから釘バットを投げつけるのは、ゴブリン以下だな」
イケメンオークは釘バットを拾い上げ、振りかぶった。
「戦って抑えつけられて、性的にわからせられると思ったか。私はメスには興味なくてね。メスは例外なく潰すことにしている」
同性愛者だなんてこんな時に言わんでもいいだろ。イケメンオークが、あッーと嬌声を上げているところを想像しちまうだろうが。
元道に釘バットを投げつけられる直前に、僕は破壊されてない片方の足一つで元道の方へ飛ぶ。すると、すぐに僕を追いかけて釘バットが飛んでくる。相対速度で若干遅くなったその釘バットを丸盾を使って角度を変えさせる。
全力を使って弾いた釘バットは元道の近くを通り過ぎて、地下鉄駅出入口にあたって、出入口が崩れた。
僕の丸盾はベッコリと凹み、腕に固定した盾の金属部分が、曲がってはいけない方向に曲がって、僕の腕を千切るように折った。折れた腕からは骨が突き出ていた。
僕は惰性で転がり、元道の側で止まった。
もうダメっすわ。
痛みと眩暈で、やべぇんだわ。
出血もやべぇんだわ。
ヒーロー変身できるほどの微々たる体力すらねんだわ。
おじさん、おじさんとか言いながら介抱しようと元道が身体を揺らすんだけど、逆に痛いだけだから。腕が主にアッー!
まあ、こんな風に美少女に看取られて死ぬなんて童貞冥利に尽きるかもわからんね。
咳き込むと吐血した。周りは怪人が振るった一撃で建物は崩壊して怪我人だらけだ。こんな重傷の僕が病院に担ぎ込まれたらトリアージ黒色かもわからんね。
ゆっくりとイケメンオークが、近づいてくる。
「に、げろ……」
と呟くが、元道は泣きじゃくり、僕の声を聞いてない。
こりゃダメなんだわ。ワイが作った元道が生き延びれるかもチャンスが無駄になる。
そう思った瞬間、無数の黒い羽根が地面から浮き出るように現れた。
これはソロSランクの…
無数の黒い羽根がイケメンオークの全身を貫通していき、爆砕した。
「ヘイ、冒険者のお嬢さん、大丈夫かい」
キザったらしいいい方。背中に黒い翼を羽ばたかせながら降りてくるザ・ホスト風のスーツ姿。いかにも中2病の男子が描いたようないでたち。
でも、実力は北海道で唯一のSランクヒーロー、名前は黒い夢。
名前を思い出すだけでもにやついてしまうが、全身の痛みでさすがに笑えない。
「あちゃー、酷い状態だね。今から病院に運ばれても…」
元道がキザ野郎を涙ぐんだ目で睨んだ。
そんなに僕のために怒るほど、長い付き合いではないだろうに。本当に若い奴らはすぐに気持ちを出しやがる。
そう意味では若さは弱点でもあるけど美しくもある。もう、おっさんにはそんな直情では動けないんだ。
すると、うっすらと元道が輝き出す。
どこかで見たような光景。ヒーローチューブなんかでアップロードされているヒーローに覚醒する瞬間だ。
輝きが収まると、元道は一見して魔法少女みたいな服装なのに、服装は色は真っ白だった。
一瞬、尊い感じがしたが、僕と同じ面構えだから尊さが半減以下だ。
元道が手をかざした僕の体に光が差し込み、酸素を取り込まない肺や鼓動を弱めていた心臓が元の動きを取り戻していった。盾を取り外し、腕が治療されていく。
この土壇場で回復系ヒーローに覚醒とかあり得んだわ。
僕は元道による治療を終えて、安堵したのか意識が遠のいていった。
意識が遠のく最中、ヒーロー課の情報部の方々に取り囲まれてドナドナされていく元道の姿が目に映った。
回復系ヒーローの闇はマジで深い、そう思いながら僕は意識が途絶えた。
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