Enjoy Dungeon 5
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格好良く言うと個人事業主、格好悪く言うとモンスターを殺して一獲千金を狙う根無し草の冒険者たちはダンジョンから出た後、新鮮な空気を深呼吸した後に、自分の臭いをクンクンと嗅ぐと、マジで嫌になる。
僕もそうだし、元道もスンスンと自分のあまり無い胸の方に鼻を寄せて少し眉間にしわを寄せた。汗臭いし獣臭も鼻に残っている。
早く家に帰って風呂に入りたい。温泉やスーパー銭湯はだめだ。いや、とても体力は回復する感じはするけど、高価ではないが装備が万が一盗まれたら困る。ロッカーに鍵すれば盗まれないだ? 東区なめてんのか、ここに住んでいる悪ガキは小学生の内から自転車の鍵を壊して乗る方法を知っているし、悪ガキが中学生になったらコンビニに置いているエンジンかけっぱなしの車を勝手に盗んで電柱にぶつけて遊ぶんだぜ。100円で施錠できるあんなちゃちいロッカーのカギなんて簡単に壊すに違いない、と勝手に思い込んでいるのは僕の完全な先入観だ。
でも、自転車の鍵の壊し方はマジで悪い先輩から伝承されているから気を付けた方がいい。
「今日の稼ぎは結構な金額になると思うけど、休まず明日も来るかい?」
「もうちょっとでレベル上がりそうな感じがするんですよ、そうしたらもしかしたら新しい魔法が覚えられる気がするので、明日もまた10時に集合させてもらえないですか? それに、スカッとするんですよね、醜いオークの頭を潰すと、あの醜いあいつらの頭を潰した気分になれます」
あいつらって、きっと、僕の全裸画像に元道の頭をコラした野郎のことですよね。原因を作った僕のことではないですよね、と僕はモンスターを殺し回った汗の他に、背中に危険を感じる冷や汗が流れた。
「いいっすよ。じゃあ、僕の方でドロップ品は売っておくから、口座に半分送っておくよ」
苦笑いしながら、僕は明日もオーク狩りかとため息をついた。
ちなみにドロップ品の売却は全部僕がしている。流石に、人の目を気にしている元道にドロップ品を売りに行けとは言えないし、お前、倒した数少ないから割り当て少なくするからな、とかは言えない。ちょっと大人として格好悪い。何回も折れかかった腕を治してもらっているので、むしろ金を取られても文句言えない。その上、心配そうに声をかけられながら、汗と香水が絶妙に混じり合った匂いをさせる未成年美少女に治療されるとか、なんかのそういう性癖の方御用達しのお店のサービスなんですかね、とも思えてならない。
まあ、とても残念なことに僕は賢者の指輪ことEDの指輪を付けているし、そもそもヒーロー変身したら同じ顔をしているので、スネークもビックリなくらい性欲を持て余さない。
「おじさん、ありがとー。またね」
フードを目深く被った元道が軽く手を振り、そして人混みに紛れていく。僕は万年赤字の地下鉄東豊線に消えていく元道を見届けた。
少しというか幾分、心を病みつつある元道も、そんなにヤバイ奴ではない。一度、冒険者休みの時に混雑しつつある地下鉄内で、元道が座っていた座席を妊婦さんマークをつけた女性に譲っているところを見た。簡単に出来そうでなかなかできない。みんなやろうと思っていても恥ずかしくてできないし、当然全く譲る気もさらさらない奴もいる。それらがいいか悪いかを議論するつもりはないが、他人のために何かしてあげようという気持ちを他人の目を気にせず実行出来るのは凄いことだ。
元道なんて、人間が嫌いだ、とマジで言ってもいいくらいの酷い目にあったのにそんなことできるなんて、控えめに神レベルだと思う。つまり、元道にやらかした奴は神罰が下されるに違いない。元凶の全裸放送の僕を含めてね。
一息つこうかと思って、コカコーラの自販機の方へ足を向けると、携帯端末から音が鳴った。久しぶりの音だったので、自分の携帯端末を手に取って、間違っていたと気がつく。
スクランブル要請だ。ヒーロー課から貸与された携帯端末からだ、と左ポケットに入れていた端末を手に取る。
情報を見ようと、パスコードを解除すると、後ろから悲鳴が上がって振り返る。身長約180センチメートル、体重70キログラムくらいに見える、乙女が悦びそうなイケメンオークがいた。くっころさんなら、あの汚らしいのではないとだめなのだ、と多分ガッカリするやつだ。
もしも、ゲームの世界なら倒したら仲間にするイベントがあったりするかもしれないが、所詮人型の豚野郎だし、怪人特有のオーラを感じる。プレッシャーからするとDランクからEランク相当だろう。
イケメンオークの腕の一振りで近隣の建物が崩壊し、悲鳴を上げる人々の声でその場が包まれた。避難放送の音のせいで、余計に混乱してしまう。
物陰に隠れて変身をしようと、瓦礫の隙間に潜り込もうとすると、地下鉄駅から走って戻って来る女子高生だか女子中学生と目があった。
「おじさん、避難誘導しながらの撤退戦するよ!」
美少女元道の真剣な眼差しが眩しすぎる。
て、ちょっおま、ヒーロー変身の邪魔すんなし。そういうの歪んだ正義感っていうんだよ。
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