Enjoy Dungeon 4
いつも読んでいただきありがとうございます
元道の後ろを歩くといい匂いがする。若い女の子の匂いは素晴らしい。同じくらいの年の女性の匂いも素晴らしい。ほいほいついって行ってしまう。ダンジョンの中じゃなかったら、どう見てもストーカーです。パーティーメンバーのすぐ後ろを歩くという合法的なストーキングをしながら歩いていると、元道が、
「私、近接兼ヒーラーですよね。おじさん、近接タンクですよね。おじさんが少し前にいた方がいいんじゃないですか」
と、お前ちょっと頭おかしいんじゃね、という顔で僕を見た。僕もいい匂いを堪能したいのに、お前なんで空気読まねえの馬鹿じゃね、という気持ちを35歳のおっさんは顔に出さないように気を付けた。
「ああ、すまない。ちょっと考え事していた」
「ダンジョンなんだから真剣に」
「いや、わかっている。でもな、レベルアップによる税金が増えてくるから、金策をどうするかとね」
「それでいいことでも思いついたんですか」
「仲のいいラーメン屋の店主が豚骨のかわりにオーク骨でだしを取ってこってり系のオーク骨ラーメンを作って食べさせてくれたんだけど、かなり旨かったんだ。これの商品化を進めるように言って、オーク骨を卸そうかなって」
「そんな簡単にうまくいくんですか? オーク肉とかオーク骨なんて一部の人しか食べませんよね。冒険者がよくオークに食べられるグロ動画をみたら、ちょっと食べる気しませんよ」
「そうなんだよな。僕も騙されて食べさせられて、旨いって言った後に、オークだしですなんて言われて吐きそうになった」
「それ、仲がいいんですか?」
「多分」
豚骨に愛を捧げるこってり豚骨の超英雄の店主の顔を思い出すと、最近行ってないなと思うことと、酷い目にあったり、酷いことを言われたりしたことを思い出して、いつか必ず仕返ししてやりたいと思った。
ところで、ダンジョン内では魔法を使えるようになる。薄暗いフィールドに灯をつける『ライト』、治療をする『ヒール』、炎の塊が飛んでいく『ファイアーボール』等、どういうわけか急に使えるようになるものだ。僕も遠距離攻撃系の魔法がいくつか使えるのだが、結局ヒーローに変身して使えるものではないし、他の冒険者に比べて魔力は低いので決定打としてはあまり使えないので、あえて覚えても封印していた。
かわりに元道はライトと回復魔法しか使えなかった。そのうち覚えるのかなと思っていたがなかなか覚えないところを見ると、元道はほぼ回復魔法極振りでしか覚えられないのかもしれない。しかし、回復魔法はレアなのだ。冒険者1000人の内2、3人くらいしか『ヒーラー』を名乗れるくらいの効果のあるものを使えない。だから、元道と組むこと自体にめちゃくちゃ価値がある。
僕が死にかけた時にたまたま通りすがりのヒーラーに助けられたのはマジであり得ない確率だったし、35歳童貞のおっさんがヒーラーの女子高生、ん、女子中学生?の女の子とパーティを組むなんて天文学的数字になる。一生の内に3回落雷に遭うくらいの確率だと思う。
元道と数日に渡り黙々とオークを駆逐する。
盾のガードを失敗して腕が折れても回復してもらえる、この幸せ。全く嬉しくない。ポーションの使用頻度減少や経験値効率や生存率は高くなったが、ぜんぜん嬉しくない。
でも、たくさんの失敗がちょうどいい角度を身体に覚えさせるわけだから、なんとも言えんよね。
「なんで盾にこだわるんですか。最近増えているんですよね、とあるヒーローの真似をして盾を使う人」
おじさん、絶対椿のファンでしょ、あの私の人生の泥棒猫のね、と言わん顔でこちらを見る元道。むしろ本人っすわ。
「どうなんだろう。僕はあんまりテレビとか見てねえからわからないっすけど、そういうの、はやりなんですか?」
がんばれ、35歳童貞のスルースキルと心で呟く、元凶の本人。
「増えてますよ、特にダンジョン初心者。盾で防御するくらいなら、近づかれる前に遠距離からでバスバス攻撃した方がいいのにね」
「そうだろうね。僕は魔力は同レベルの冒険者に比べて少ないし、そもそも魔法も覚えれてないから、盾がないとマジでヤバい。早く魔法覚えないかなー」
「おじさん、なかなかのスキル運の無さですよね」
スルースキル成功だぜ!
実際のところ、近づかれる前に殲滅できたり、タンクでも防御系よりも回避系タンクの方が立ち回りも安全だ。防御系はダメージをくらうような状況になるほど、動きが鈍くなる。レベルにあった階層で回避しながら遠距離攻撃が絶対いい。
僕みたいな、盾装備の立ち回りを覚えながら戦うことを目的としていなければね。
僕の変身した時の美少女顔がじっとこちらを見た。スルースキル失敗したか
「そんな状態でも、おじさん、冒険者を続けているだなんて、マゾなんですか?」
うるせいわい、クソ未成年!
そんな感じに平和に1週間くらいオークの駆逐を続けてレベル上げに励んだ。
なお、お互いに連絡先は交換しなかった。理由は簡単だ。明らかに35歳の童貞おじさんとは釣り合わない顔つきの女の子の連絡先を持っていて、通話や通信して、後日警察に職務質問を受けたらどうなるか、ということを考えてもらいたい。
しかも、冒険者という名の怪しげな個人事業主。
万が一、元道が売春なんてやっていたら、元道が補導されるなりして警察にペラペラ話して、携帯電話のデータを警察に見せたりすれば、そこから芋づるで警察署に連れて行かれてやってもいないことで取り調べを受けるんだぜ。買春すら怖くてできない童貞を児童買春の被疑者だと思い違いをして頑張って警察官が取り調べるんだぜ。
僕も警察官もお互いに幸せにならない。
というわけで、連絡先はお互いに知らず、明後日の午前9時にまたここに集合ね、みたいな感じで続けていた。
危険にはあえて近づかない。リスクは絶対に避けるべき。性病もだぜ。それが僕のジャスティス!
感想やいいね、ブックマーク等ありがとうございます。
とても励みになります。
ありがたいことに久しぶりにまとまった書ける時間が取れました。
でも、書く速度は遅いのでなかなか更新できずすみません。
追記
r4.7.8から7.9にかけて、初めて日間ローファンタジー〔ファンタジー〕 BEST100 (73位)に入りました。あわせて確認したら、2か月くらい前にはPV50000越えていました。
読者の皆さんがこのつたない小説に応援してくれたり、誤字脱字を報告してくれたおかげだと思います。
本当にありがとうございます。
30分後に確認したら普通にランキングから消えていたので、もしかして幻覚…




