Enjoy Dungeon 3
いつも読んでいただきありがとうございます。
女の子は元道りなと名乗った。
本名かどうかはわからない。
元道の愚痴のような若干長い話をダンジョン3階への階段前の地べたに座って僕は聞いた。
まあ、落ち着けよと年上の余裕を見せつける様に水筒に入れた熱いコーヒーをカップに入れて渡すと、甘くないの飲めないので、と軽く拒否された。見ず知らずの男から飲み物をもらわないとか出来た子だぜ、ふぁっく。
元道に未開封のペットボトルに入ったアクエリアスを渡すと、ありがとうございます、と言って、封を確認することなく開けて飲み始めた。本当に甘くないコーヒーが飲めないだけのようだった。
自分を過剰に卑下しただけだった。
「前までは良かった。私はヒーローでも何でもないのに、ツバキちゃんなんでしょ?、なんて言われて、勝手に自分の評価がうなぎのぼりだったの。もちろん、私とツバキちゃんは違うってみんなに言っていたし、ツバキちゃんが戦っている時に普通に学校で授業受けていたりしたから、みんな他人の空似だと思ってた」
うつむいて元道は面白くなさそうにそう言った。僕は変身して戦った結果、喜ばれるような場面があったと思うと、少し嬉しかった。
「私とは別人だけど、私と同じ顔をした同世代の子が頑張って戦っているところはとても誇らしかった」
ペットボトルを煽る様に元道は飲んで、地面にドンと置いた。
「でもさ、不可抗力とはいえさ、全裸で戦って放送までされるって流石にないでしょ」
ですよねー。普通に激ギレ案件ですよね。マジ、スマン。
でも、僕は一度もあの全裸勝利映像を放送していいですなんて言ってない。むしろ被害者なんだ。
あの時、少しでも僕がエロいことを考えたら突然のブーメランパンツおっさんの登場で、全国民が被害者になるんだぜ。
「その時から私なんてクラスで変態扱いだし、ツバキのほぼ裸の動画に私の顔を合成されて、その上その動画が拡散されたの。見た感じ胸のサイズまで同じ感じだから、余計に面白おかしくされて」
僕はチラリと元道の胸を見ると慎ましい感じのサイズ感を感じた。変身時に自分の胸を触った感じは、片手にちょうど収まる感じのジャストフィットサイズだった。
おいおい貴様、地味に胸のサイズをサバ読んでんじゃねえよ。むしろ、そのサイズであることを誇りに思うべきなんだ。胸はサイズじゃない。どんなサイズにも良さがあるんだよ。お前さんはその辺を理解できてないところはお子様なんだよ。そんなおっぱい紳士の僕は童貞なんだよ。
元道が突然キリっとした目で僕を見た。
しまった、胸を見たことがバレたか。
「もう、私、社会的に殺されたような状態で、まともな仕事に就けられない。だから冒険者をやろうって」
運が良かったようでバレてなかった。ちなみに胸への視線は大体バレているらしいので同志諸君は気をつけるのだ。
というか、マジすみません。そんなことよりも僕は、変身後の姿が瓜二つの元道が人生をマジで棒に振りかけていることを知り、謝罪の言葉ばかりが頭に浮かんでくる。むしろ、僕が養います。接触しないで口座にお金を定期的に振り込みます。他に養ってくれる人が現れるか、自立できるまで養います。
でも、そんな申し出なんてできるわけない。
元道は僕がヒーローの椿だって知らない。ただダンジョンで一緒になっただけだ。
「でも、なんで僕に手伝ってほしいんだい。ぶっちゃけ、同年代の冒険者と組んだ方がいいじゃないか」
「私も最初はそう思いました。でも、私を見る目がみんなそういう目で……。同性の冒険者も私の事を笑うんです」
すまん、まじすまん。もう謝罪と賠償しかできない。
「だから、サングラスしてダンジョンに潜るようになって……私の顔を見て、そういういやらしい目で見ない冒険者はおじさんがはじめてなの」
はい、おじさんが初めてなの、いただきました。下ネタに走るの大好き椿吾郎です。
それにしても、おじさんか。35歳は、もうおじさんなのか。そうだね、僕が中高生の時は絶対おじさんだと思うね。ふぁっく。
でもね、お嬢さん、僕からすれば君は鏡に映る自分みたいにしか見えないし、そもそも賢者の指輪で性欲がいつもゼロなのだよ。だから、別に高尚な人間ではない。むしろ、物で賢者モードになっているクズ野郎だ。
「わかった。僕をそんな理由で信用するのは構わないが、冒険者はマジで厳しいぞ。僕なんてまだダンジョン歴1年目で偉そうなことは言えないけど、さっきのゴブリンなんて序の口だよ。毎度3階でオークに腕の骨を折られるし、この階層のハウンドドッグなんて見た目はまあまあ良さそうな犬だけど餌付けしようとしたら殺されかけたし」
「ハウンドドッグに餌あげたんですか? それで内臓食べられていた冒険者がいるから気をつけてとネットで書かれていたんですけど知らなかったんですか?」
「その内容、多分僕の件で誰かが書いたんだ。書き込みされた時期は3か月くらい前じゃないか」
「元ネタ、おじさんだったんですか。よく生きていましたね」
「たまたま通りすがりの冒険者が回復魔法使えてね」
「運がいいですね。私も回復魔法使えるんで、やばくなったら言ってください」
さっきポーション飲んだのはなんでなんだよと視線で言う。それに気づいたのか元道は
「でも、回復魔法も結構集中力が必要で、自分の痛みでいっぱいいっぱいになっていたら使えないんですよ。要演練ですね」
と答えた。
「たしか、回復魔法の使える冒険者って結構少ないらしいな。元道さんはかなりレアじゃないのか?」
「そうです。めちゃくちゃレアです。引き当てたのはきっと血筋です」
ささやかな胸を強調してえっへんと元道が言った。
「両親がお医者さんかい?」
「えーと、そんなところだと思います」
へんなことを言うやつだな。自分の両親の仕事ぐらい言えないのかな。
というか、自分から振ってきているだろ、その話題さ。
飲み干したペットボトルやコーヒーの入った水筒をしまい、小休憩を終えた僕と元道は3層の単体オークのみを連携して潰してレベル上げに励み、ダンジョンから出た後は3日後の午前10時にまたこのダンジョンの入り口で、とダンジョンへ潜る約束をした。
「おじさーん! ありがとー! またね!」
元道の透き通る声が響いて、おっさん、ちょっと恥ずかしくなる。若い子っていうのは、なんというか、少し余るくらいの元気がちょうどいい。
感想、ブックマーク等ありがとうございます。いつも励みになってます。




