Enjoy Dungeon 2
いつも読んでいただきありがとうございます。
過去に泣く子も黙る伏古公園と呼ばれた公園があった。
そこは、同性愛者、特に男性側の巣窟だった。
ある曜日の夜、口笛の音が聞こえるとその者たちが公園のベンチに集まり、今日のペアになるものを品定めした後にペアになったものはどこかへ消えて行ったり、周囲の道路に止まった駐車車両は女装した男性が乗っており、通行人と目が合うとウィンクされる。
趣味趣向はそれぞれだから、良い悪いを言及することはよろしくない。彼らの掟では基本的にはノーマルな人には手を出さないらしいが、彼らのグループではないよそ者についてはどうだかわからない。
近くのアパートに住む人たちは、たまに男性が男性に追いかけられて悲鳴を上げて逃げていた、という噂をしている。
そんな場所を夜にパトロールするお巡りさんが、伏古公園の実情を知らずにたむろする若者グループを見つけては
「夜は治安がいいとは言えないから帰った方がいい。連れの女の子じゃなくて、男の子の君たちが危ない。めっちゃヤバい」
と注意して回っていたそうだ。
そんな伏古公園の姿はもうない。
というのも、ダンジョンができてしまって、現在では伏古公園ダンジョンと呼ばれており、それに関する商業施設なんかが出来上がり、世間の少数派の人たちは別のところに集まることにしてどこかへ消えてしまったそうだ。まさに現代のフェアリーとでも言うべきだろうか。
伏古公園ダンジョンはモエレ山ダンジョンと似たような構成であるが、伏古公園ダンジョンはモエレ山ダンジョンに比べて深く、2層に到達した時点から複数のアクティブモンスターに囲まれやすい。パーティ向けの中級者のダンジョンになる。
マジで気合入ってる系の冒険者たちが入っていくので、冷やかしレベルの冒険者は行ってはいけない。
そんな、伏古公園ダンジョンの近くには、僕の好きなラーメン屋の一つがあり、いかにも湯気が立ちそうな名前のお店がある。冒険者向けのようなカロリー高めのこってり系の背油の入った豚骨ラーメンがメニューに入っていて、これもうまいのだが、こってり豚骨だしに鶏がら出しを混ぜた少しこってり系のラーメンもうまい。何より、トッピングされた生の小松菜がいいアクセントになっている。小松菜の苦みがこってりした味のスープにとても合うのだ。
伏古公園ダンジョンに潜る前の腹ごしらえを、そのラーメン屋でする。もちろん、豚骨だしと鶏がらだしを混ぜた味噌ラーメン、大盛り、小松菜を追加トッピングだ。流石に35歳のおっさんには完全こってりの豚骨だしだけの物はちょっと辛い。
カウンターに座った僕の席の前に湯気の漂うどんぶりが置かれ、ずるずると麵をすする。人気店なのでカウンターは全部埋まっており、左隣にはスーツ姿のお兄さんがこってり豚骨ラーメンをすすり、右隣には中学生か高校生くらいの女の子が大盛りこってり豚骨ラーメン、小松菜追加トッピングをすすっていた。
ん、できるな、この女の子。座っているから身長はよくわからないが、腰までの黒い髪をした、細身の体つきだった。顔も丸々っとしているわけではない。ふとましい子ががっつり食べに来たという感じじゃない。ラーメンのゆで汁の湿気が漂う店の中で、なぜか帽子とサングラスまでつけていた。
有名人なのかと思って、横目でちらちら見るが、ぱっと見で思いつく人がいない。なんか見たことがある気がすると思うのだが、なかなか思い出せない。そもそも全くそんな人ではなく、自意識過剰系の痛い子なのかもしれない。よくそういう子が冒険者間で姫プレイすることを聞いたことがある。
※姫プレイ=男だらけのネットゲームの集まりで一人だけ女性がいるとめちゃくちゃちやほやされちゃいます。少し語尾に音符マークつけるくらいの感じで優しくボイスチャットで話しかければ、接待は当然だし、欲しいものも、欲しいと言っていない貴重なもの、リアルマネーまで手に入ってしまう、異性として悲しい男の性を感じる遊び方。上手にネカマをすれば当然ネカマなのに姫プレイができます。これもまた悲しい男の性なのです。なお、ネットゲームをしたことがあるほぼ全ての男性が姫プレイの被害に1度は遭っています(当社調べ)。
その女の子のすぐそばにはリュックサックと釘バットが立てかけられていた。うん、多分冒険者だと思う。ちょっと危険な感じのする冒険者だ。もしかしたら世の中をちょっと冒険している人かもしれない。
とりあえず関わってはいけないと思い、目の前のドンブリに集中した。スープが絡む麺をすする度に生の小松菜を口の中に入れると、淡い苦みで口の中がさわやかになる。
サングラス越しで隣の中学生だか高校生だかわからないくらいの女の子が僕の食べっぷりをのぞき込んでいた。
このおっさん、できるな、と呟いているように感じた。
ラーメンを食べ終わり、伏古公園ダンジョンをソロプレイしに潜る。
おなかの調子を整える準備運動代わりに、ランニングしながらゴブリンとハウンドドッグの脳天を潰していった。珍しくポーションが出たのでポーションの容器が割れないようにプチプチ君で巻きながらリュックサックに入れる。
今日はなんかついている日だな、と思いながら3層目の階段へさしかかろうとする。
大体、こういうことを思うとろくなことが起こらない。
さっきのラーメン屋の先客の女の子が脂汗を垂らしながらセンスのいい釘バットを両手持ちで構えて、5匹のゴブリンに囲まれているところを見つけてしまうわけです。
これは、くっころ場面で薄い本が熱くなる展開かなとも思って様子を窺おうかなと考えていると、女の子は足首を怪我していて、まともに動けない様子であった。
ここで僕は考えるわけです。助けないべきか、もしくはあえて助けないべきか。下手に助けると、横殴りしたとか痴漢されたとか言われかねない。
まあ、一声かければいいんですよね。コミュニケーション能力に不具合があると無駄に考えてしまうから困りものだ。
「大丈夫ですか? 手伝いましょうか?」
こちらの声で女の子とゴブリン5匹が振り返る。ゴブリン、お前たちを手伝ったらヤバすぎだろ。でも、薄い本がゲキ熱になるかもしれないね。
「ゴブゴブ、ゴブブ?」
お前も混じるか、とちょっと卑猥な表情で言われた気がした。だから、お前たち側じゃねえって。
「お願いします!」
女の子は悲鳴のような声で助けを求めてきた。でも、どこかで聞いたことがある声だな。きっと、テレビで聞いたことのある声かもしれない。
僕の乱入で、ゴブリンの隊列に乱れができて連携が取れないうちに、1匹、2匹とゴブリンの頭を潰すと、女の子の釘バットが前に出過ぎになっていたゴブリンの頭に打ち込まれる。釘バットの見た目だけでも痛そうだ。
5匹すべてを倒し終えると、女の子が息を切らしながら声を出した。
「た、助かりました」
「気にしなくてもいいけど、このダンジョンの2層でソロで対処できないなら別のダンジョンか、もしくはパーティを組んで戦った方がいいよ」
「え、あ、はい……」
僕はあまり他人に口出しするのは良くないと思ったのだが、この子絶対死んじゃうなと思ったので結構厳しく言ってしまった。
「それに、そのサングラスだけど、このダンジョンは薄暗いからやめた方がいいよ。なんか事情があるのなら止めないけど」
ダンジョンは薄暗いので、サングラスなんて自殺行為なのだ。もしかしたらレアなドロップアイテムかもしれないけれど、そんなものを待ち合わせているようなベテラン冒険者には彼女は見えない。強い口調ではないと思ったのだけれど、女の子はシュンとしてしまった。
「はい、ポーション。足首つらいでしょ。これ使って。地層か1層に戻るなら途中まで見送るよ」
「あの……、私、もっとレベルを上げて、ソロで戦えるようになりたいんです。手伝ってもらえませんか」
キタァーーー!姫プレイ希望!
これは断ろう、そしてそそくさと3層に降りよう。
「急にこんな話してすみません。その、うまく言えないんですけど、事情があって……」
女の子がサングラスを取ってしみじみと僕にここ一年の悲しい話をし始めた。
僕はいてもたっても居られなくなり、女の子を手伝うことにした。
どうしてかって、そりゃあ、髪の色と瞳の色以外は、僕が美少女ヒーローに変身した時の姿に瓜二つだからだ。
感想、ブックマーク・評価等ありがとうございます。更新する度に、評価されたり、ブックマークされたりして本当に驚いています。




