Ecstasy7
いつも読んでいただきありがとうございます。
サイン等を求める声を無視して、僕は空に飛びあがると、地面からは
「応援してます!」
「がんばれー!」
「また、札幌を守ってね!」
等という激励の言葉の数々だった。
初めてのことで戸惑って逃げ出さないで、もっと応対してあげれば良かったと後悔した。
僕は札幌市中央区大通に所在するヒーロー局札幌支部の建物に入っていった。
一階の受付に進むと、そこの窓口にいた女性が来訪する人へ作っているニコニコした笑顔で僕を見て、急に目が覚めた猫みたいに目を見開いた。
僕もその表情の変化に驚いて立ち止まると、その女性が大きく息を吸い込んで、
「つばきさん来ました! すぐに出迎えしてください! 情報課の担当者にもすぐ連絡してください!」
と矢継ぎ早に指示を出した。
受付のある部屋は総務部と書かれていて、その部屋の人たちはみな立ち上がり、僕を見つけると一斉に拍手を始めた。
総務部の一番奥にある席から男性が立ち上がって急ぎ足で僕のところまで駆け寄り、
「この度は札幌市を守っていただきありがとうございました。すぐ、情報課の担当者が来るのでお待ちください」
と言いながら、
「立ち話もなんですし、そういえばお体は大丈夫ですか? こちらの部屋のソファーにおかけください」
と総務部の中へ案内されて、来客用のちょっとお高いような本革製のソファーに座った。座ると同時にコーヒーがテーブルに置かれた。作ってあまり時間が経っていない、酸味の少なく香ばしい匂いが漂った。
なんか、自分の身の丈に合わないような接待のような気がする。
会社や公務員の総務部ってエリートな人たちの巣窟だよね。そんなところで応接されるとか、場違いな気がする。
というか、エリートってイケメンや美女の割合が多い気がする。マジで息をしずらい。息を強く吸い込んだら、強く脳の神経が刺激されて素敵な気持ちになってしまい、なんかの罪で捕まる気がする、そんな35歳童貞おっさん美少女ヒーローは思うわけです。
コーヒーを飲みながら、総務部の偉い人と少し話していると、情報課の職員がやってきた。僕がヒーローに初めて変身した後に獲得のための交渉をしに来た頭が寂しくなってきた男性だった。総務部のイケメン美女の顔よりもなんか落ち着くね。
僕の頭も最近抜け毛が激しくなってきたからかもね。
情報課の担当者の男性は遠藤修と名乗った。
前に名刺を貰ったものをここに来る前にチラ見してきた。名前忘れてましたよね、とか嫌味を言われたら面倒くせえなと思う。まあ、名前を忘れましたとか社会人として、服を着忘れてきましたレベルだ。まあ、僕の体は常時エロを考えればそのくらいの体になりますが。
遠藤さんは僕に今回の札幌の防衛のことについて感謝を述べて、少しため息を吐いた。なんか嫌な予感がした。多分、八雲の件だろうかと思ったが、違った。
「今回のA級怪人アルマ次郎の撃破の功績と現在の能力を鑑みて、ランクをFからEに昇格する通知が来ています。それで、うちの偉い人がですね、昇格証と感謝状を渡したいということでしてね」
ああ、ちょっと嬉しいけど、それで走り回らなければならない下々の者と表彰を受ける者が面倒くさいやつだ。
本来、Dランク以下の昇格証には表彰なんて形式を取らず、情報課の職員から手渡されたり、メールで通知されたりするだけと聞いたことがある。
「来ていただき、さらに体調も万全ではない中、大変申し訳ありませんが、この後お急ぎではなければお時間をいただけませんか」
遠藤さんは困った顔をしながら薄くなった頭を下げてきた。
僕もきっとそのうちそんな頭になるんだろうなと、表彰のことよりもずっと大事だなことをボケーと考えて、適当に
「あ、はい、わかりました」
と返事をした。
情報課のソファーに座っていると10分もしないうちに準備が整って、偉い人の部屋に連れていかれた。ヒーロー局札幌支部長と書かれた部屋に連れていかれ、その偉い人から表彰を受けた。表彰なんてされたの、小学校の低学年の時に徒競走で1位を取った時ぐらいだ。
礼式だとかわかんね、と思いながら賞状を貰っていると、写真をバスバス取られた。不意打ちだったので緊張してカチコチだった。
「すみません、もう一度にっこりしてください」
とカメラマンから言われて、無理やり笑顔を作った。
その後、ヒーロー局札幌支部長から少し話をされ、僕はただただイエスマンのように返事をしていた。ヒーロー局札幌支部長と言えば、普通の人からすれば雲の上の人だ。ヒーローとは言え簡単に握りつぶされるかもしれないと思うと、過度に緊張してしまう。
なので、僕は何を言っていたか全く覚えていない。
情報課の部屋に戻ってくると、遠藤さんが
「貴重なお時間ありがとうございました。支部長が申し上げたとおり、テレビへの出演なんですが」
と当然のごとくさらりと会話を始めたので、
「え、そんなこと言ってましたっけ?」
と慌てて僕は質問すると、遠藤さんはこいつ何言ってるんすか、みたいな感じで僕を見た。
「はい、椿さんは、喜んで、とおっしゃっていましたよ。それでですね、明後日に取材スタッフの方がこちらに来ます。怪人と戦っている場面はきっと撮れないと思います。というか撮れなかった方が平和でいいのですがね。それで、日常生活がどんな感じか教えてあげてください。今は、謎のヒーロー椿に全道、全国の皆さんが注目していますので、些細な感じでも結構ですので」
おいおい、どうする。
取材なんて全然心の準備できてないぞ。
万が一自分の部屋見られたら、どう見ても独身のミドルエイジな男性の部屋だとばれるし、取材されて15歳くらいの見た目の女の子の私生活なんて誤魔化して作れるものかよ。絶対、ネットで嘘だと暴かれるやつだ。
下手すると、ラーメン屋でちょっと可愛い女性店員をガン見しながらブーメランパンツ一丁でラーメン食べてるおっさんの絵とか取れて全国放送しちまうぞ。こりゃやっべえ……なまらやっべーぞ。
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