Ecstasy 5
あけましておめでとうございました。
今年もよろしくお願いします。
僕は今、めちゃくちゃ怒られている。
地獄の釜の湯加減を見ている鬼も蒼白になるくらいの勢いだ。
全身真っ白な服を着た白鬼が、いや、看護師さんが10秒間に200字書き込むようなタイピングの速さで、どれだけ僕がやったことがダメなことか捲し立てていた。
僕は35歳童貞だ。無敵の人なんだぞ!
等と反論すれば、またさらに怒られそうだ。いや、そもそも今の姿は白人ハーフのミドルティーン美少女だ。見た目だけは超絶勝ち組だ。病院をラーメン食べるために抜け出したとか、無駄にプライドが高くなった35歳のおっさんのメンタルではとても恥ずかしくて言えない。そもそも、誰も僕のことを35歳童貞おっさんだということに気づいていないわけだから混乱を招いてしまうし、最悪、心の病を負ってしまったヒーローとして精神病棟に連れていかれる可能性が高い。
看護師さんは、スマートフォンの画面を僕の方に向けた。
スマートフォンの画面には、フード付きのジャケットのフードで顔を隠した女性が、黒光る警棒を持って、次々と金髪の気持ち悪いホストの頭を潰していく映像が表示された。こんな猟奇的で酷いことをするやつもいるんだな。本当に酷い事件だ。この後にラーメン屋に入って平然と食べていることまで知られたらマジでキ〇ガイ認定されるレベルだ。そもそも、ラーメン屋に行こうとしたら邪魔した怪人をついででぶちのめしたとか、マジでキチ〇イだと思う。こんなやつマジでいかれてる。ヒーローの風上にも置けねえクズ野郎だ。
「この八雲町に現れたヒーローって、どう見てもあなたですよね。入院中は絶対安静にしてくださいと伝えてますし、無断外出はもってのほかなのに!」
そうそう、えっへん、すごいでしょ、わたし、かいじん、たおしてきたよ、と言ったら激ギレするんだろうな、このちょっときつそうで美人な看護師さん。
僕はそう思いながらベッドから飛び出し、数回転した後に着地し、両手の手のひらと両膝を床に着けた。世の中に言うジャパニーズニンジャ土下座、という謝罪の意を最大限に表現するスタイルだ。縦回転や横回転をする回数が多いほど反省の気持ちが込められているので、海外から日本に旅行をお考えの方はこのジャパニーズニンジャ土下座を覚えていけば、何か日本で失敗してもつたない日本語をしゃべりながらこの土下座をすれば大体のことは許されるので是非覚えてほしい。
「どうしても、どうしてもラーメンを食べに行きたかったんです」
沈黙する看護師さんの姿をちらりと見て、ジャパニーズニンジャ土下座が決まったと確信した。
「出前館かウーバーで頼めばいいでしょ! そんなふざけた謝罪したら次から外出禁止にしますからね!」
と、看護師さんはぴしゃりと正論で僕に致命傷を与えた。
その後、僕は精神疾患ご用達で寝相が悪くてもベッドから落ちないで安心な拘束具付きのベッドのある独房に入れられることなく、病院に出前で出入りしている飲食店のリストとそのメニュー表が僕の個室に置かれた。
マジ、看護師さん天使!
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