Eternal Fortitude 6
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ヒーローが新たな必殺技を覚えた時のことを『福音が聞こえた』と例えられている。
男の声にも女の声にも聞こえる声で必殺技の名称が頭に響くらしい。
必殺技は絶体絶命の時に福音が聞こえることが多く、ほぼ全てのケースで起死回生となる。
その必殺技はヒーローの戦い方に反映されることが多い。覚えた本人は頭に使い方がインストールされるような感じだそうだ。
僕は怪獣チワワと戦ってレーザーを弾いた瞬間、男女不明の声が聞こえてきたような気がしたが、結局必殺技を覚えることはなかった。それどころじゃなかったしね。
ちなみに覚えそうで覚えられなかった人のことを閃きの女神に嫌われたと言われているらしい。
僕は閃きの女神にも嫌われ、金運の女神にも嫌われているらしい。
「Fランク怪獣の討伐報酬は一人当たり500万円ってなっているのに何で300万円なんですか」
国防庁札幌支部ヒーロー局の出納係の前で、銀髪美少女ヒーロー姿の僕はプリプリむすむすと怒っていた。
僕は政府に個人情報を伝えれば35歳のおっさんが美少女ヒーローに変身していることがばれてしまう。そういうわけで、通帳の口座番号を教えることはできないし、電子マネーでの決算方法も使用できない。面倒だが現金を直接茶封筒か紙袋に入れてもらうしか方法はないのだ。絶対に現金支払いの方が僕も面倒だし相手もめちゃくちゃ面倒だと思う。
もし僕が億単位の金額をもらうことになるとめちゃくちゃ面倒だし、運ぶのも大変だ。僕もそのお金を一体どこに保管すればいいかわからない。
ちなみにこんな多額の金額をすぐさま銀行に持ち込めば、税務署の調査で僕にたどり着くのだ。税務署を舐めない方がいい。あそこは警察よりもヤバい。
「いやぁー。そう言われましても、規則なもので」
出納係の20歳代シチサン分けの高身長イケメンお兄さんが目を細めてにこやかに笑った。
目の前にいるのがただのミドルティーンの美少女ヒーローだと思っているだろ。35歳無職童貞のおっさんだぞ。色仕掛けなんて無駄だぞ。うほっ。
「出動要請では3人で倒したら一人当たり500万円の報酬って書いていたじゃないですか。そもそも、一人で倒したら1500万円となりますよね」
「お気持ちは十分察します。出動要請内容を無視した場合は本来得られる報酬の半分程度に報酬を減額する規則になっています。『3人集まるまで攻撃は控えるように』との指示でしたよね」
「怪獣に気づかれている上に、すぐ目の前にいるんですよ。携帯端末を見ている余裕はないでしょう」
「わかってます、わかっております。民間人にこれ以上の被害を出さないように割って入ってくれたのもわかります。だから、半額ではなくて4割カットになっているんですよ。情報課であなたの担当になっている方々は何とか満額出せないか、と上に言っていましたがね」
イケメンにそこまで言われるとあまり文句は言えない。むしろ、僕の担当になっている方に申し訳ない。最初にあったあの2人だろうか。こんなFランクの35歳女装おっさんの担当になっていることだから、きっと課の中でもあまり陽の目に当たってない人たちなのだろう。申し訳ねえだぁ。
「そうですか。なんか私の知らないところで申し訳ありません。自分の要望だけ通そうとして恥ずかしい限りです」
「いえいえ。あなたがあの場ですぐにあの糞チワワを倒してくれたから、被害も少なかったのも事実なんです。私もあなたの戦いの報告を見させてもらっています。4戦中3回スクランブルで出てくれているヒーローの報酬減額は私にも疑義を感じるところですが、私は上から決められた金額しか渡せません」
このイケメンにここまで言われてしまうと、僕も申し訳ない気持ちを通り越してしまう。僕が女だったらちょっとキュンっとしてしまうかもしれない。残念ですが、僕とイケメンだとBLになっちゃうのでね。なんというか、うほほーいという感じだ。
僕は300万円の入った厚みのある封筒を鞄にしまい、札幌の大通付近にある国防庁札幌支部ヒーロー局から離れた。一応、変身した姿にさらに帽子を被ったりマスクを付けたりして変装をしているが、何者かにつけられたりしても嫌なので、人込みの中に入り、少し早めに歩いていく。
狸小路のドン・キホーテに入り込み、買い物をすることなく店を出て、地上から地下街のポールタウンに下り、そのまま札幌駅方向へ歩いた。
一生懸命になって、誰かにつけられていたらまこう、と思っていたが全く誰も後ろを付けている気配はなかった。流石にFランヒーローのおっかけはいないか。
ポールタウンの出入り口には地元民の待ち合わせ場所となっているHILOSHIという巨大モニターでCMを流しまくるスペースがある。CMを流す会社がいなければ、ニュースを流したりもしている。
丁度、僕が通りがかったとき、ヒーロー局で出している番組が流れていた。
「それではB級戦隊モエレンジャーをご紹介します」
初めてその名前を聞いた時は、酷いヒーローの名前だと思ったが、実際は5人組のヒーローで、戦隊系のコスチュームを着ており、色物系というよりは本格派的な戦隊モノのヒーローだ。ちなみに数年前はランク一つ下だったのでC級戦隊モエレンジャーだった。
彼らはご当地ヒーローみたいな存在で、札幌市東区と言えばモエレンジャーと言われている。
萌え萌え系とかそういうわけではなく、モエレ沼公園の近くに実家が集まっているヒーローで、初めて覚醒して変身することになった時は5人同時でなったそうで、みんな中学校の同級生だったそうだ。
『リア充ですね。爆発しろ』と思った方も沢山いたし僕もそうだった。実際のところは5人とも性格が良かったし、地元で少しずつ成長していく姿を地元民は暖かく見守っていた。
一人一人の実力はBランクのヒーローで、一人ひとりの能力の得意分野はAランク級の能力を持っていると言われており、A級戦隊モエレンジャーになるのももうすぐかもしれない。
動画では接近戦でタンク役を持つモエレンジャーブラックが敵を翻弄させて、モエレンジャーイエローが敵にデバフを与え、モエレンジャーピンクが仲間を鼓舞してバフ付けし、モエレンジャーホワイトがダメージを食らった仲間を回復させたり遠距離から敵を攻撃して時間を稼ぎ、モエレンジャーレッドがチャージした高火力攻撃をぶち当てるというものだ。息の合った連携攻撃に、カバーをしあって危機を回避し、自己犠牲の精神でモエレンジャーイエローがモエレンジャーレッドをかばって死にかけた時の瞬間が映像で流れた時は、僕は思わず手に汗を握った。
僕は仲間がいないから、こんな連携をすることはできないけれど、日々怪人を倒してヒーロー変身によるステータス上昇倍率を上げたり、レベルをこっそり上げて元々のステータスを上げたり、あとは何とか必殺技を覚えたりするのは大事だなと思った。他にも普段からポーションを持っていた方がいいかもな、と思った。
モエレンジャーの紹介動画を見れば見るほど、僕はまだまだステータスは足りてないし、このままでは多分すぐに死んでしまうだろう。だから僕はダンジョンに潜ってレベルを上げるしかない。
僕は現金を自宅のテーブルに無造作に投げ捨ててから、いつものモエレ山ダンジョンに行くことにした。
まとめて書けた分も見直してからアップします




