Eternal Fortitude 5
初めて週別ユニークが100人を超えました。読んでいただきありがとうございます。
心が折れたからラーメン屋に行くんだ。
僕はラウンドワンで女性店員からやんわりと注意を受けた。
ヒーロー変身してゲームを攻略しないでください、というごもっともな注意だったので、文句の言いようがない。これで文句を言うやつはゴミくずクレーマーだけだ。
超英雄に行こう。あの店は電子マネーでも支払いができる。ダンレボで現金がすべて持っていかれた僕には心温まるラーメン屋だ。それに、情熱あふれる凄い濃い豚骨ラーメンを魂に満たせば、明日頑張れる気がする。でも、僕、頑張ったところでヒーロー業以外は無職なんだよね。35歳無職童貞とかマジぱねえ。
それにしても、ラウンドワンでは人だかりができて撮影までされていた。許可も取らないで勝手に撮影とか、マジで魔境だ。個人情報もくそもねえ。女子中学生とか女子高生の容姿を許可なしで撮影とかマジやべえだろ、常識的に考えて。まあ、中身は35歳のおっさんなんだけど。
いや、でも、エロを考えなくてよかった。考えていたら今頃、動画を撮影したやつらとんでもない目にあっているはずだ。全裸にブーメランパンツの一丁のおっさんが必死になってダンスダンスレボリューションやっているとか、飲んでいた飲み物吹くレベルだ。動画をアップロードされたら僕が憤死するレベルでもある。
人だかりができていたのと痛々しいほどの強い視線の数々に変身を解除する余裕はなく、とりあえずラウンドワンから飛び出した。すると、タイミングを図ったかのごとく悲鳴が聞こえてくる上に、携帯端末からは出動要請の音が響いた。
悲鳴の方向を見ると、チワワがいた。
そのチワワの大きさはバグってた。
大きさは馬だ、競馬場を走り回るサラブレッドくらいのサイズだ。
でも、なんだろう。あざといあの表情。かわいいっすね。
チワワの周囲には、どす黒いオーラがあふれていて、ああこいつ敵なんだな、となんとなくわかる。
おそらく怪獣だ。今までは怪人ばかりだったが、今回は怪獣だろう。
怪獣の多くは人間のような武器を使った攻撃はしてこないが、力や素早さが高く、意表をつくような破壊力の技を持っていることが多い。低ランクのヒーロー1人ではどうにもならない。
Fランクヒーローに出動要請を出したということは、Fランク数人で戦ってくれ、ということだろうか。それともFランク1人でも大丈夫ということだろうか。チワワ怪獣が目と鼻の先にいる以上は端末操作なんてしていられない。
多分、CMにも使われそうなかわいい顔をしながら、『ぼくは、にんげんの、のうしょうと、ずいえきを、すするのが、すきなんだな』なんて言いながら襲い掛かってくるやつに違いない。僕はダンジョンでハウンドドックに餌をやって餌付けしようとして失敗して内臓を食べられた時から、もう犬なんて信用しないと誓ったのだ。
チワワは周囲の民間人を見据えた。すると、甲高い悲鳴が響き渡った。
「きゃああああ! かわいいいいいい!」
「なにかあげようかしらああああ!」
「おかね?お金が欲しいのね!」
悲鳴だと思っていたが、若いお兄ちゃんお姉さんおじさんおばさん、老若男女関わらず、目の中にハートマークが宿って、懐から財布を取り出しては巨大チワワに投げた。すると、チワワは財布を口でキャッチ。そして飲み込む。
『おいしいんだな なにもせずに ひとからもらうおかねは おいしいんだな』
チワワが直接声を出したわけではない。僕の頭にそんな声が響いてきた。方向はチワワだと思う。いや、こんな言動をしそうなのは、あざとい表情を出しながら性格悪そうなチワワに違いない。きっと、高利貸しもしているに違いない。
財布を食べる度に身を震わせて喜ぶチワワを見ているとそうとしか思えない。
人々は狂ったように財布や現金をチワワに投げ続ける。
リアル投げゼニだ。
『なにもしてないけど ひとをよろこばせて たべるおかねは おいしいんだな へへへ』
まともなんだかまともじゃないんだかわからない。いや、財布ごとお金を食べるチワワはまともじゃない。そもそも、馬ほどの大きさのチワワはまともじゃない。
『そこのにんげん ぼくになげぜにするんだ なげぜにしても いぬだから よみあげできないが』
僕に気づいたか。というか、読み上げとかお前絶対ユーチューバーだろ。怪獣オフの日にYouTubeで収益活動してるだろ。バレてんだぞ。
『まさか きみ ぼくのちからが…… いや おかねをわすれたのかい』
そうさ、僕はゲーセンで現金を使い切ったのだ。くそ難易度のダンレボ様のおかげさ。ということは関係あるかどうかわからないが、きっと、このチワワの能力はあざとさで人を魅了する能力なのだろう。僕にはこの能力は効かない。特に犬はそうだ。
つい最近はトラウマになるくらいダンジョンで犬に襲われては内臓を食べられて死にかけた。ポーションや親切な冒険者の方々がいなかったら、とうに無かった命だ。
思い出すだけで全身から体温が抜けていく。生きていて本当に良かった。内臓を腹から引き出される感覚は二度と味わいたくない。
「チワワ。一つ言っておくことがある。温室育ちのお前は内臓を食べたことがあるか」
『なにをいっているんだ そんなやばんなこと するわけないじゃない でも おかねがないなら のうみそとほねをおいていってよ おかねのつぎに おいしいんだそれ』
先ほどまでチワワがいた場所には何もおらず、目の前へ迫る獰猛なチワワが歯をむき出しにして接近していた。
僕は盾を構えて飛び掛かってくるチワワを弾いた。多分レベルを上げる前であればあまりの速さに、腕が追い付かなかったはずだ。
勢いを受け流すように右に下がりながら、盾から特殊警棒を取り出して、一振りし、伸ばす。パチンと乾いた音が街に響く。
『しってる きみ とおくから こうげきできないこでしょ』
とうとう怪人や怪獣の世界でも知られるようになったのかと思った。
チワワは距離を取って、口を開けた。
チワワの口の奥が金色に輝いた。
『うそ かんだよ しね』
やばい。盾を咄嗟に構えて少しだけ角度を斜め上に向けた直後、チワワの口から直径50センチメートルのレーザーが発射された。
レーザーは見えた瞬間当たっているらしい。光の速さだからだ。
嫌な予感が的中して予備動作のうちに盾を構えられた。
レーザーは上方へ反射していった。多量の蒸気をあげた盾から熱気と強い異臭が周囲に充満していった。
『なかなかやるね ぼくの ゼニこうせんを ふせぐなんて』
ひどいネーミングだ。なろう系小説を書いている作者がネタがなくなって適当に思いついたような技のネーミングだ。
正面の蒸気が薄くなると、取り外されて地面に刺された盾に気が付いたチワワは目玉をぎょろりと剥いて後ろに振り返った。
僕は蒸気と異臭が充満したこの場所でチワワに接近する方法を考えた結果、蒸気に隠れながら盾をパージさせて地面に突き立た。犬は臭いで人の位置がわかる、と言われているけれど混ざり合う臭いは結構なストレスになり、慣れてないとかぎ分けは難しい。異臭の中では僕を探し出すのは難しいと踏んで、チワワの死角を走りながら、チワワの後ろに着地した。
チワワの体は馬並みにでかくなっているせいで首まで遠いと思った矢先、奴から振り向いてくれた。
上手くいくとは思っていない。たまたま運が良かったのだろう。少しでも風向きや物音でバレる。
ただ、盾がボロボロになった以上、他に手段がなかっただけなのだ。だから、本当に運が良かった。
振り返ると同時に警棒を振り抜くとチワワの首の骨を折る音が響いた。
誤字脱字報告や評価・ブックマークありがとうございます。
また忙しくなるのでなかなか更新できませんが、少しずつ書きためますので、また読んでいただけたら幸いです。




