Fラン 8
出動要請後の30分後、札幌市東区北11条東7丁目にある東区役所前にハゲ頭メタボリックなワガママボディのおっさんがほぼ全裸で現れた。
一部隠されていた箇所は目と口と陰部だ。丸メガネのサングラスをかけ、口には革製の猿ぐつわを噛ませ、貞操帯のような鈍く光る金属製のパンツを穿いていた。
口から涎を垂らしながら、フシューフシューと興奮なさっている声が、普段の喧騒からは考えられないほど静かになった東区の一角に響いた。
もしかしたら、いや、あまり考えたくはないが、普通のマゾヒストのおっさんの可能性もわずかにあると思おうとするも、ヒーローが感じる怪人のオーラみたいなものを感じた。
東区役所の前には通称東8丁目通りという片側二車線の道が南北へ伸びている。このまま、北方向にずっと進んで北区に入るとLET IT BEをフランス語にしたような鶏出汁の濃厚なラーメン屋がある。東方向にずっと進めば豊平川に打ち当たって白石区になる。
東区役所の周囲は元々とてもカオスだ。昭和という時代を彷彿させるエロ映画館があったり、当然のようにパチンコ屋もあり、お金がなくなったら下ろしてねと言わんばかりの消費者金融のATMがあったりする。
銀行自体もあるので、あのお金の支給日になる日は朝からめちゃくちゃ人が並んで、ごった返す。
また、そんな人間なんているんですか?、と言わんばかりの七つボタンの学ラン制服を採用しているおぼっちゃま・お嬢ちゃま高校が近くに建てられたりして冷や冷やするものを感じる。
そして、そんな雰囲気の中心にある東区役所の上には市営住宅が併設されている。
東8丁目通りを通過するだけの人にはわからないが、東区役所周辺はなかなかのカオスなスポットなのだ。
そんなところに現れたほぼ全裸のM男はある意味必然的な出現だったのかもしれない。
既に美少女ハーフ顔のヒーローに変身済みの僕こと椿吾郎はふと思いにふけるわけです。何故、僕の出動先の怪人はヤバイ奴、具体的に言うならば見た目とか、生理的に無理的なやつしか出てこないのだろう。
僕はそんな性癖はありませんよ。
東区役所の向かいのビルの屋上から、僕はM男に向けて左腕の盾に内蔵のパイルバンカーで狙いを定める。
出来れば触ることなく終わらせたい。安全なところから遠距離攻撃最高!
パイルバンカー発射スイッチを押すと、全身が弾かれるような衝撃を受ける。
雑居ビル群の窓を震わせる衝撃波が発生しながら、M男の胸にぶっ刺さる。
M男はうめき声を放ちながら、頬を赤めて悦な表情をしていた。
ダメだ。色んな意味でダメだ。
それにしても、このM男、無性に殴りたくなる。表情が無性に腹立つ。何故、一発限りのパイルバンカーで終わらせてくれない。絶対、殴って倒さなきゃならないじゃないか。まじふぁっく!
ビルの屋上から走り込み、M男に向かって跳躍する。空気の膜を押し広げて進んでいくような感覚を両手、両足、腹部や顔に感じる。
僕は急降下しながら、特撮で仮面を被ったヒーローの教科書にでも載っていそうなキックの姿勢にする。
「喰らえ、ブタ野郎!」
つい、M男のことをブタ野郎と呼んでしまったが、気にしていられない。飛び蹴りはM男の首に当たるが、骨を折るような手応えはなかった。
さすがだ、痛みをより感じるために、防御力が高いのか。
僕は警棒を取り出し、一振りして伸ばす。パチンと乾いた音が響く。
すぐさま、M男は僕を必死な顔で見つめた。
「お尻の穴に入れてください!」
ああ、ヤバイ、絶対にヤバイ、秒も関わりたくない怪人だ。
「絶対嫌だあああ!」
僕はM男の体中に警棒を打ちつけるが、数分打ち付けても、こいつ、まだ倒れない。
こいつ……なんかムカつく。
僕は一撃で決めようと、警棒を待つ右腕を大きく振りかぶ
り、M男の頭を狙う。
すると急に僕の右腕に蔓状のものが絡みつき、そのまま東区役所の壁にぶっ飛ばされた。
誤字の指摘ありがとうございました。
ブックマーク、評価ありがとうございます。
更新遅くなってますが、これからも頑張ります。




