プロローグ1
現在、日本の小学生のなりたい仕事第一位はヒーローで中学生のなりたい仕事第一位はヒーローチューバーだ。
ヒーローは急に現れた怪人・怪獣たちから国民を守る超越者たちだ。怪人、怪獣たちは現代兵器でもある程度対処することができるらしいが、数億円するミサイル数発で倒せるらしい。さらに周囲のミサイルによる被害を考えると、できる限り使いたくないということになる。なお、ヒーローの攻撃はこの数億円するミサイル1発とほぼ同程度で、怪人・怪獣のみピンポイントで攻撃することができる。
そうなると、やはり誰もがヒーローに頼りたくなるのだ。
そのヒーローになるには、方法というものが今のところ確立されていない。数万人に一人くらいの確率でランダムに、ヒーローに選ばれると言われている。
ヒーローに選ばれたものは、一般人から変身し、あらゆるコスチュームを着たヒーローとなり、怪人・怪獣を叩き割っていく。
なお、ヒーローとなった者は政府に登録されて、怪人などが現れたら連絡が行き、急いで現場に駆けつけて戦うことになる。もちろん、24時間いつでも出動要請が入るそうだ。
ヒーローが怪人を倒すなどの目標が達成されたときは、その怪人の強さに応じて手当てを支給している。平均数千万円と言われているがミサイルの価格と比べればかなり安いと思われるし、死ぬヒーローも実際にいるので命の値段にしては安いと思う。
その代わり、ヒーローとなった者に対するバックアップやフォローは行き届いているようで、一人一人にオペレーターが付いていたり、住居なども支給されている。
ちなみに実際にいたヒーローはどんなものだったか説明しよう。
『初代』とみんなから呼ばれている人類最初のヒーローは全身カラフルなタイツに黄金のマントをはためかしたヤバイやつだ。その一見して変質者の『初代』は、ヒーロー研究専門誌の専門家たちに競って「初代に敵うヒーローは未だかつていない」と言われ続けているほどの能力者だ。
『初代』の戦い方は素手によるものでストレートパンチやキックで多くの怪人たちを墓場に送り込んだ。遠距離攻撃はなかったが、不死身のような耐久力に任せて、敵の懐に強引に潜り込んで、攻撃を乱打してぶちのめしていた。
肉弾戦特化の『初代』と相反して存在したのは『魔女っ子』と呼ばれたヒーローだ。
『魔女っ子』は12歳程度の黒いロングストレートの髪に赤色のでっかいリボンを付けて、箒に乗って飛び回り、怪人たちを炎や雷を操る魔法というもので殲滅していた。
また、『聖女』と呼ばれたヒーローもおり、これは攻撃能力が皆無の代わりに、傷ついたヒーローをすぐさま回復させる力を持っていた。
現在、各種様々なヒーロースタイルがあるが、ヒーロー自身が死ににくい遠距離メインや回復役が側にいるものが多い。
近距離だけで戦うヒーローはバカヒーローチューバーだけで、そんな馬鹿な活動をし始めて数日後くらいに、そのバカの配信が途絶え、数日後に死んだというニュースが報道される。
僕が現在こんなにヒーローのことを考えているのは、いわゆる走馬灯で、どこかに助かる情報がないかなと、脳が混乱しているからだ。
目の前には全身黒タイツの怪人がいて、キシャーと唸りながら、人間を襲っていた。
全身黒タイツの怪人に殴られた者は、肉片となって散らばっていった。
さらに、怪人は10階くらいのビルの外壁に蹴りを入れると、ビルがそこから割れて、倒壊した。
轟音と煙が上がり、僕は、こいつはやべえ、まじやべえとつぶやきながら怪人の反対方向へ向かってダッシュした。
すると、なんてタイミングが悪いのだろう。瓦礫に挟まれた子供を見つけちゃうの。
こっちを見て今にも、おっさん助けて、とでも言いそう。
まだ僕は35歳だ。アラフォーになったばかりだ、お兄さんと言えこんちくしょう、と言ってやりたいが、そんな余裕は僕にはない。
逃げ出したい気持ちを押し殺して、子供の側へ駆け寄り瓦礫を持ち上げようとするが全く上がらない。
テコの原理で、と思いながら近くに転がっていた木の棒を見つけ、瓦礫に差し込み瓦礫と子供の間に隙間を作る。
子供ははい出て来た。目立った怪我はなかった。
早く逃げろ、と僕が言おうとすると、急に息が出来なくなった。
すぐ目の前には全身黒タイツのいかにも頭のやばそうな怪人がいた。
全身黒タイツの手が伸びる瞬間、僕は手に持った木の棒を全力で、全身黒タイツの変態野郎に叩きつけた。
するとどういうことでしょう。僕が先に叩きつけたはずなのに、僕は吹き飛ばされて別のビルの外壁に衝突した。
肉が潰れるような音と骨の折れる音が、体を通じて耳に入った。咳き込むと口から多量の血が出た。
こりゃだめだ。マジ死ぬわ。
35歳まで守りに守った童貞もまるで意味がなかった。
せめて新しい時代を担う子供だけでも、と思い、時間稼ぎをするために、歯を食いしばって、無理やり体を起こした。
きっと、ヒーローは今急行中だ。絶対に間に合う。
そう心に言い聞かせて、あのくそ変態タイツに挑発しようと声を出そうとするが、声が全然でない。
変態タイツ野郎は子供が恐怖で顔を歪めているところを楽しむように、ゆっくりと近づいていった。