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暴走1

 ピアノの演奏を終えた後の紅茶は格別に美味しかった。


「うーん!! やっぱりジークの紅茶は最高ね!!」


「ホントホント!!」


 私とシャフリの笑顔を見て、ジークも笑みを浮べる。


「お褒めの言葉、ありがとうございます」


 紅茶のお供に出されたお菓子を摘まみながら、私はシャフリやジークと他愛もない会話を続ける。


「あ、ちょっと目が……」


「どうしたの?」


「ちょっとゴミが入ったみたい」


 シャフリが眼鏡を外して目を擦る。


「眼鏡しているのにゴミが入るなんて珍しいわね」


 少し皮肉交じりな言葉だったが、シャフリは笑って受け流してくれた。

 ティーカップに手をかけ、再び紅茶を飲もうとしたその時、シャフリとジークの表情が変わり、シャフリがいきなり飛びついてくる。


「え?」


「ミーナちゃん!! 伏せて!!」


 テーブルや椅子と共に押し倒された私は床に思いっきり頭をぶつけた。


「いたた……い、いきなり何するのよ……え?」


 痛みに耐えながら目を開くと、腕から血を流しているシャフリが映り込んだ。


「み、ミーナちゃん……見ないで」


 シャフリの腕から溢れ出てくる血液。

 私の視線は完全にそれに釘づけられた。


「お嬢様!! シャフリ様!!」


 ジークやシャフリが私に声を掛けていたが、徐々に視界が暗くなり、やがて声が聞こえなくなる。




 ◇◇◇




 痛みに耐えながら蹲っているシャフリを安全な場所に避難させようとするジーク。

 ふと窓ガラスに目を向けると銃弾らしきものが貫通した跡があった。


「風穴……やはり狙撃。よりによって奥様たちじゃなく、お嬢様を狙ってくるとは……」


「じ、ジークさん……」


 やっとの思いで声を出すシャフリ。

 ジークは傷口を布で押さえつけ、止血を試みる。


「大丈夫です……気をしっかり保ってください」


「何か……聞こえま……せんか?」


「え?」


 次の瞬間、シャフリが聞こえたであろう音がジークの耳にも届く。


「これは……鼓動? 一体どこから?」


 どこからという言葉は愚問だった。

 ジークは既に、鼓動音の出所を知っていた。


「お、お嬢様?」


 ミーナの目を見た瞬間、ジークは反射的にシャフリを抱えて部屋の端に移動する。

 本能的に命の危機を察したからだ。


 徐々に聞こえる鼓動音が早くなり、ミーナがゆっくりと立ち上がる。

 そして、一瞬だけ瞳が紅く光り、得体の知れない圧により、屋敷中の窓ガラスが一斉に割れる。


「こ、これが……奥様達が言っていた」


「暴……走」


 ミーナの体から紅いオーラが溢れ始め、ジークとシャフリを見て不敵な笑みを浮かべる。




 ◇◇◇




「おい! ターゲットに命中していないぞ!」


「マズいぞ……騒がれてはもう狙えん。一旦退くぞ!」


 屋敷に向かって狙撃を行った殺し屋3人が慌ててその場から離れようとする。


「そこまでです」


 女性の声と共に男たちの足首に激痛が走り、歩けなくなる。


「なッ!?」

「があぁぁ!!」

「ま、まさか……勘付かれていたのか?」


「お前達のアキレス腱を斬った。歩くことは出来ない」


 男たちは突如現れた女性を見て、表情を青くする。


「悪く思わないでくれ。先に手を出したのはそっちですからね」


「流石はソフィアね。目にも止まらぬ速さとはこの事ね」


「サラス。褒める前にこの罪人たちを奥様たちの前に運ぶよ」


「フフフ……はいはい」


 男たちは泣き叫びながら命乞いをするが、ソフィアとサラスはまるで聞こえていないかのように男たちを運び始める。




 ◇◇◇




「シャフリ様。貴女だけでもお逃げください」


 ミーナに視線を向けたまま、ジークはシャフリに指示を出す。

 しかし、シャフリの答えはノーだった。


「言ったはずですよ……私はミーナちゃんを信じています。それに……ミーナちゃんが暴走したのは……私の血の所為ですから」


「シャフリ……様」


「ジークさん……私は答えを決めていました。ジークさんは……どうしますか?」


 痛みに耐えながらも笑みを浮べるシャフリを見て、ジークは瞼を閉じる。

 覚悟を決めようとしたその時。


「がああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」


 両手に炎の剣を作り出したミーナが2人に襲いかかる。

 判断が遅れたジークは回避することも出来ず、防御も間に合わないと察する。


 その時、天井が突如崩れ、ミーナと2人の間にある人物が降り立つ。


「下がりなさい!! ジークくん!!」


「メイド長!?」


 自分の背丈ほど長い太刀を携えたカーリーがミーナと対峙する。


「覚悟も出来ていない人間が今のお嬢様の前に立つ資格はない!! さっさと出て行きなさい!! それとも死にたいの?」


 普段の口調と打って変わり、強く激しい口調に圧倒されたジークは思わず視線を下げる。

 そして、崩れた天井からサロミアとエディックが降りてくる。


「カーリーちゃんの言う通りよ。ジークくん。正直……ガッカリしているわ。シャフリちゃんを連れて下がりなさい」


「奥様……」


「聞こえなかった? 失せなさい。足手まといはいらないの。そのまま居座るんだったら先に貴方から殺すわよ」


 カーリーよりも上回る言葉の圧に屈したジークはシャフリを連れ、部屋から脱出する。

 遠ざかっていくジークを見て、エディックは眉をハの字にする。


「……本当に良いのかい? ちょっと冷たすぎたんじゃない?」


「……奥様」


 エディックとカーリーはサロミアの顔を見て目を丸くする。


「……ごめんね2人とも。私……不器用だからあんなことしか言えなくて」


 サロミアの目から涙が流れ、2人は言葉を失う。


「だけどね……信じて頂戴。あの2人なら……」


 サロミアは流れている涙を拭い、スキルを使用して炎の弓と矢を作り出す。


「奇跡を起こしてくれる」

いつもご覧になっていただき、ありがとうございます!

伊澄ユウイチです!

そして、更新が遅くなってしまって申し訳ございません。

諸事情で更新できない日々が続いていました……。

大変申し訳ございません。


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