動き始める影
夜が訪れ、夕食を終えた私とシャフリは紅茶を飲みながら寛いでいた。
「しっかし、昼間はビックリしたわよ。急に泣き出すんだから……」
「ごめんってば……それ以上言わないでよ、ミーナちゃん」
シャフリは頬を少し赤く染め、逃げるように紅茶を飲む。そんなシャフリを見て、私は自然と笑みを浮べ、窓の向こう側に目を向ける。
「良い天気ね。雲1つないから星が綺麗ね」
私たちの護衛をしていたソフィアも外の様子を見る。
「本当ですね。月も出ていない日ですので、より一層星が輝いていますね」
そんなソフィアを見て、私はソフィアにある提案をする。
「そうだ。ソフィア。何か一曲演奏してくれない?」
「演奏……ですか?」
私の提案を聞いたソフィアは少し戸惑っていたが、話を聞いていたシャフリが私の提案に賛同する。
「いいね! いいね! 私も聞きたい!!」
「シャフリ様……」
少し困った顔を浮べるソフィアだが、少し笑みを浮べて言葉を返す。
「分かりました。演奏させていただきますが……ミーナ様」
「ん?」
「お嬢様もピアノでご一緒にどうですか?」
正直今はピアノを弾く気分ではない。素直に音を聞いていたい気分だが……。
「いや……私は」
「いいね! 私聞きたいです!!」
今度はソフィアの提案に賛同するシャフリ。私はシャフリの肩を掴んで、前後に揺さぶる。
「いいねじゃないわよッ!! 何でもかんでも賛同してるんじゃないわよッ!!」
「み、ミーナちゃん……揺さぶら……ないで。吐いちゃう」
シャフリは顔を青くさせ、夕食が出る寸前に私は腕を止め、軽くため息をつく。
「……仕方ないわね。少しだけよ」
すると青ざめていたシャフリは満面の笑みを浮べ、様子を見ていたソフィアはゆっくり扉を開け、ピアノがある部屋へと私たちを誘導する。
◇◇◇
ピアノの前に座った私は深く息を吸い、軽く目を閉じる。
「ミーナ様。楽譜はこちらで……」
ソフィアから楽譜をもらい、サッと目を通す。
ソフィアは自前の楽器ケースからフルートの部品を取り出し、組み立てる。フルートの準備が終わる前に、私は軽くピアノを弾き、調律に異常がないか確かめる。
「準備は出来ました。ミーナ様。宜しいですか?」
ソフィアの言葉に対し、私はコクリと頷き、鍵盤に手を置く。
数秒の静寂の後、私とソフィアは楽譜通りに音を奏でる。お互い、目を閉じてもミスすることなく演奏を続け、目が合えば即興のアレンジを試みる。
「……」
私たちが奏でる音に心を奪われたのか、お喋りなシャフリが口をパクパクさせながら嬉しそうな顔を浮べていた。
ソフィアと私は1カ所もミスをすることなく演奏し終え、私は鍵盤から手を離し、ソフィアはフルートから口を離す。
「……流石ね。ソフィア。また私のアレンジに対応してきたわね」
「いえ。自分はミーナ様の音に合わせただけです。ミーナ様のアレンジ……最高です」
普段は表情が変わらないソフィアだが、頬を赤く染めて、嬉しそうな笑みを浮べていた。
「わぁ~!! 凄い凄い!! 2人とも凄かったですよッ!!」
相変わらず語彙力の乏しいシャフリ。だが、感想を受け止め、私とソフィアは顔を合わせて笑みを浮べる。
その時、入り口から拍手が聞こえ、私たちは同時に目を向ける。
「お見事です。思わず聞き入ってしまいました」
ジークが拍手をしながら私たちに歩み寄ってくる。ソフィアはポケットに入れていた懐中時計を見て、ジークに尋ねる。
「ジークさん。もう時間ですか?」
「はい。ここからは自分がお嬢様たちの護衛を行います」
「そうですか。分かりました」
するとシャフリが残念そうな顔を浮べ、文句を口にする。
「え~。もう一曲だけ聴きたいです!!」
無茶言うな。泣き虫シャフリ。
「シャフリ様……お気持ちは嬉しいですが、決まりですので今回はこの辺で……」
するとシャフリは頬を膨らませて、渋々納得する。
「……分かりました。素敵な演奏を聴かせてもらってありがとうございます」
その言葉、私にも言いなさいよ。
「それでは……失礼します」
ソフィアは部屋を後にし、残された私たちも部屋から出ようとする。
「さーて。ジークも来たことだし、紅茶でも飲もうかしら」
しれっとジークに視線を向け、ジークは私に笑みで返す。
「既にお部屋にご用意しております」
流石ジーク。相変わらず準備が良いわね。
あえて褒め言葉を口にせず、私たちは部屋を出る。
◇◇◇
「おい! 早くしろ!」
ミストレーヴ家の屋敷から東に100メートルほど離れた大木の枝の上で、3人の男が狙撃用の銃を組み立てる。
「急かすな! 暗くて足場も安定しないから上手く組み立てられないんだよ!」
「なんで先に組み立てない! 組み立ててから登って来いよ!」
「無茶言うな! 組み立てたら両手が塞がるだろ!? そんなんじゃ木登りなんか出来ねーよ!」
言い争いながらも2人がかりで銃を組み終え、最も安定する枝の根元で構える。
「よし。そのままお前が撃て。観測手は俺がする」
指示する男が望遠鏡を覗き、狙撃手もスコープを覗く。残った1人は大木周辺に人が居ないか確認し、2人に異常がないことを伝える。
「いいか? 失敗は許されんぞ。でなければ、あのイカレ王子に殺されるぞ」
観測を務める男の言葉によって2人は唾を飲み込み、緊張感を持つ。
「それじゃあ……狙撃開始だ」
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