思いを伝えて1
サロミアに呼び出されたシャフリは、落ち着かない様子で応接室のソファーに座っていた。
対面にはサロミアが座っており、その背後にカーリーが佇み、出入り口付近にはソフィアとサラスがある人物が来るのを待っていた。
「奥様、紅茶です」
「あら~、ありがとう」
サロミアはカーリーが用意した紅茶を嬉しそうに啜り、香り、味を楽しんだ後、スッと瞼を閉じる。
「あ、あの~……一体何のご用でしょうか?」
「ん? ああ。ごめんなさいね。もうしばらく待ってくれる? 主役が登場しないと話が始まらないからね」
あまりの緊張に押しつぶされそうなシャフリは額に溢れ出ている汗をハンカチで拭う。気持ちを落ち着かせようと一息入れた瞬間、扉がノックされる。
「誰です?」
扉の近くに居るソフィアが扉の向こうにいる人物に声を掛ける。
「自分です。ジークです」
ジークの声だと確認したソフィアはゆっくり扉を開け、ジークを部屋の中に入れた。
「大変お待たせしました」
ジークはサロミアに深々と頭を下げるが、サロミアは笑みを浮べてジークに手を振る。
「いや。予想よりも早かったわ。取り敢えず座りなさい」
「失礼します」
ジークがシャフリの隣に座った瞬間、サロミアの背後にいたカーリーはサロミアの隣に座り、扉の近くに居たソフィアとサラスはジークとシャフリの背後に佇む。
「ミーナちゃんには何て言ってきたの?」
「前日の仕事の残りがあると言って抜けてきました……それよりも奥様。旦那様の姿が見えませんが?」
「ん? ああ。あの人は4階の執務室で缶詰になってもらっているわ。囮は1人で十分でしょ?」
(ただ単に仕事が終わっていないだけなのでは?)
シャフリは突っ込みたい気持ちを抑え、隣に座るジークをチラッと見て、これから始まる話し合いに挑む覚悟を決める。
「最終確認です。奥様。本当に話しても宜しいのでしょうか?」
「本当なら先延ばしにしたかったけど、状況が状況だし、シャフリちゃんには酷かもしれないけど、知ってもらう必要があるわ」
自分の名前が出たシャフリは一瞬戸惑うが、サロミアの目を見つめ、聞き入れる覚悟はあると知らせる。サロミアとシャフリを交互に見たジークは瞼を閉じて、口を開ける。
「……分かりました。それではまずは自分の話からさせていただきます。先ほど皆様に見せたあの黒い炎……正確には炎ではなく、鬼の力です」
『鬼の力?』
シャフリと背後にいるソフィアとサラスは声を重ね、首を傾げる。首を傾げている3人に目を向け、ジークは話の続きを述べる。
「お三方は知らないと思いますが、自分は幼い頃、女性の鬼に育ててもらっていた時期がありました。その人と何日、何ヶ月、何年も過ごしている内に、自分は彼女の技……鬼神を見様見真似で習得してしまったのです」
「鬼神……それがさっきの黒い炎の名前ですか?」
シャフリの問いにジークはコクリと頷き、鬼神の説明をする。
「鬼神はその名の通り、鬼にしか使えない技であり、体に纏うといかなる攻撃、魔法を無効にし、攻撃の際は威力を10倍以上に引き上げてくれます」
「ちょ、ちょっと待ってくださいッ!! 私、今までジークさんを人間だと思っていたのですが、本当は鬼だったんですか?」
シャフリの疑問に対して、ジークは苦笑いを浮べながら首を横に振り、サロミアは口元を手で隠してクスクスと笑う。
「確かに鬼神は鬼しか使えない技ですが、自分は純粋な人間です。これに関しては嘘偽りはないです」
「じゃあ、何で……鬼の力を?」
「先ほども言いましたが、見様見真似です。見ただけで覚えた技なので、本物の鬼の鬼神には敵わないでしょう。出力は安定していますが爆発的な力は習得できていません。それに……この力が使えても、彼女は自分を褒めるどころか激怒しました」
「どうしてですか?」
「彼女……ヒビキさんはどこの国にも属さない軍人でした。小競り合いから国の存命に関わる大戦全てに参戦し、勝利をもたらし続けたヒビキさんは英雄と呼ばれていました。人々はヒビキさんを称えましたが、彼女は心の底から争い事が大っ嫌いだったんです。だから、自分が鬼神を習得したのを知った瞬間、見たこともない怒り顔で自分の頬を叩きました。正直、頬の痛みなどどうでも良かったのですが、ヒビキさんが……怒りながらも涙を流していたのを思い出すと、自分は……なんて愚かなことをしたんだろうと思い、今でも心が痛みます」
「そんなことが……」
シャフリは視線を落とし、ソフィアとサラスは顔を見合わせる。
「でも自分はこの力は争いのために使うことは決してしません。この力は……」
ジークは右手を拳の形に変え、一瞬だけ鬼神を纏わせる。
「ヒビキさんのように拾ってくれたミストレーヴ家のため……守るために使います。それだけは信じてください。この通りです」
ジークは深々と頭を下げ、数秒程誰も声を発さなかったが、サロミアがクスクスと笑って、ジークに顔を上げるよう指示する。
「そんなの、ずっと前から分かっているわよ」
「まだ長いとは言えないけど、ジークくんのことは信用しているわ」
「私たちも!」
「疑うようなことではないです。ジークさんがそう思っているのであればそれで良いと思います」
サロミア、カーリー、サラス、ソフィアの優しい言葉に思わず目に涙を浮べそうになったジークだったが、グッとこらえて無理矢理笑みを作る。
「ありがとうございます」
再び深々と頭を下げるジークを見て、シャフリは笑みを浮べる。
全員笑みを浮べている中、サロミアは深刻そうな顔を浮べ、ため息をつく。ため息に気づいたシャフリはサロミアと目が合い、嫌な予感がし、胸がざわついた。
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